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支援でなく、投資に値するスポーツの本当の姿とは

編集委員 北川和徳

正月の箱根駅伝を今年もテレビ観戦した。もはや日本のお正月の伝統行事である。青山学院大が圧倒的な強さで総合3連覇を果たしたが、2日間で計約12時間のレースの平均視聴率(ビデオリサーチ調べ、以下同)は今年も関東地区で28%前後に達したようだ。

箱根駅伝でゴールする青学大の安藤悠哉。2日間の平均視聴率は関東地区で28%前後に=共同

全国大会ではなく関東の大学の対抗戦なのに、関西地区でも約15%を記録。他の地区ではおおむね20%を軽く超えている。外出を控えて自宅で家族と過ごす人が多い正月に、長時間にわたって高視聴率を稼ぐのだから、独占中継するテレビ局は笑いが止まらないだろう。まったく学生の地方大会がとんでもないコンテンツに成長したものだと思う。

同時にこんなことを考えていた。これほどの人気大会が日本の陸上界にどれほどの資金をもたらしているだろうか。主催の関東学生陸上競技連盟や参加各校が放映権料など駅伝関連の売り上げで大もうけしているとは聞いたことがない。ビジネスとして利用しようなどとは考えていないのだろう。

稼ぐことはいくらでもできると思うが、それをやれば「学生スポーツで商売をするなどけしからん」という非難もあちこちから出るはずだ。交通規制など社会に協力を求めて開催していることを考えれば、その意見も理解はできる。それがこの国のスポーツに対する一般的な考え方である。

20年東京のメダル数、さほど問題ではない

東京五輪・パラリンピックを3年後に控える年を迎えた。56年ぶりに日本で開催するビッグイベントをきっかけに、日本のスポーツは新たなステージに進化しなければならない。現状の何が課題で、どう変革しなければならないのか。このコラムの根本的なテーマで、何度もいろいろな形で書いていることではあるのだが、新年にあたってあらためて考えてみた。

東京五輪もパラリンピックも必ず盛り上がる。体操男子の白井のひねりは、どこまで進化するのだろう=共同

2020年の東京でメダルをいくつ取れるかということは、正直なところそれほど問題ではないと思っている。「リオから倍増」「国別順位で金メダル数3位以上」などが目標とされるが、よほどの幸運に恵まれないとどちらも達成は難しい数字だ。ただ、これだけは自信を持って言える。五輪もパラリンピックも必ず盛り上がる。

20年大会が決定してから日本のアスリートの競技環境は着実に改善されている。ナショナルトレーニングセンターは増強され、遠征や合宿への助成金も増額された。理想を言えばきりがないが、数年前と比べると驚くほど変わった。国が20年に向けて選手強化に資金を投入していることが大きい。スポーツ関連の施策を一元的に差配するスポーツ庁も設置された。

自国開催で代表選手のモチベーションは高い。彼らが十分な準備をして臨めるなら、素晴らしいパフォーマンスを披露するのは間違いない。初夢として個人的にワクワクするシーンを思い浮かべてみた。

例えば陸上男子短距離。リオで銀メダルの快挙をなし遂げた男子400メートルリレーは、今のメンバーにサニブラウン・ハキーム(17、東京・城西高)が成長して加われば金メダルという望外な夢さえ見ることができる。10代半ばの少女選手の成長が著しい女子卓球は、難攻不落の中国の牙城を崩すかもしれない。

リオデジャネイロ五輪金メダリストの萩野は東京で何個のメダルを獲得するのか。ライバル瀬戸との勝負も楽しみ=共同

競泳男子の萩野公介(22、東洋大)は金メダルをいくつ手にするか。そしてライバル瀬戸大也(22、JSS毛呂山)はどう対抗するのか。体操男子の白井健三(20、日体大)のひねりはどこまでいってしまうのか。五輪の定番競技ではないが、ゴルフの松山英樹(24)も今度はきっと出場してくれるだろう。

問題はその宴(うたげ)の後である。いっときの熱狂と興奮が終われば、残ったのはメダルの数と、めったに満員にならないスタジアム、アリーナなど五輪規格のスポーツ施設というのではあまりに悲しい。

ほぼ半世紀前の東京五輪は、スポーツ界に企業スポーツという日本独自のアスリート育成システムを残した。学校や地域の道場、体操教室などで見いだされた才能が社会に出る時は、日本を代表する企業が受け皿となり働きながら競技を続ける環境を提供する。

ビジネス化の波に乗り遅れた日本

団体競技には実業団リーグが次々と誕生。アスリートたちは五輪を目指しながら終身雇用も保証され、企業アマという言葉も生まれた。ただ、企業におんぶにだっこの頼りっぱなしのシステムのため、スポーツ界に依存体質が定着し、競技団体の自立を妨げる形になったことは否定できない。

1990年代半ば以降、日本経済の停滞とアスリートのプロ化の波の中で、企業チームの休廃部が続出、このシステムは崩壊に向かう。米国や欧州では同じ時期に人気競技を中心にスポーツがビジネスとして一気に拡大したが、日本のスポーツ界はこの動きに完全に乗り遅れた。

箱根駅伝など学生スポーツがビジネスとならないのも、スポーツの産業化が進まない一面といえる=共同

企業はチームを所有するのか、スポンサーとしてプロチームを支援するのか、中途半端な状態はこの20年間続いている。企業チームとプロチームでリーグが分裂し、昨年やっとプロリーグとして統合した男子バスケットボールはその混迷の象徴といえる。

2020年大会は1964年体制を一新して世界標準のシステムを作り上げる最後のチャンスだろう。財政事情を考えれば、国のスポーツへの資金の投入がこの先も続くとは考えにくい。3年後の成果を、その4年後、8年後も持続可能とするために必要なものはなんだろう。それはスポーツの産業化だと思っている。スポーツ庁もそれを施策の柱の一つに掲げる。スポーツが企業にとっても国にとっても、支援するものではなく投資に値する稼げるものにならなければ、未来は開けない。

箱根駅伝など学生スポーツがビジネスとならないのも、スポーツの産業化が進まない一面である。稼いだお金を関係者が懐に入れるわけではない。各校の選手の練習環境の改善や安全対策、さらに有望選手を迎える奨学金や指導者の雇用料に回ってチームをさらに強くするのである。それは箱根駅伝の価値をさらに高める好循環を生み、陸上界の発展にもつながる。何が問題なのだろうか。だが、それを受け入れない考え方も根強い。

スポーツが「体育」として受け入れられた国でその産業化を目指すということは、本当に難しい挑戦だとあらためて思う。

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