2018年11月20日(火)

Disruption 断絶を超えて 第1部

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日立が「HITACHI」と呼ばれる日
Disruption 断絶を超えて(特別編)

2017/1/8 2:00
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2016年6月、ロンドン。日立製作所の英鉄道車両子会社に勤める堀之口一樹(39)は、朝の通勤ラッシュの中で焦っていた。「まさかの事態が本当になった……。これからどうなるんだ」

■職場で浮く「日本式」

家を出る直前、テレビ画面の前で一瞬凍り付いた。国民投票で英国の欧州連合(EU)離脱が決まったという。「どうせ離脱なんてできない。何も起きないさ」。同僚ともそう高をくくっていたが、現実は違った。2014年4月に鉄道事業の本社機能を日本から英国に移し、全社的に世界展開の機運に盛り上がっていた直後のことだ。「ホリ、まずは目の前の仕事だ」。不安が募ったが、意外と平静な職場に救われた。

様々な国籍の同僚と働く堀之口氏(右、英ヒースロー空港で日本出張の打ち合わせ)

様々な国籍の同僚と働く堀之口氏(右、英ヒースロー空港で日本出張の打ち合わせ)

英国赴任は4年前。都市間鉄道で大型受注を獲得した会社から、現地の調達部門に送り込まれた。期待されたのは日本本社と現地の海外スタッフとをうまく融和させるつなぎ役だった。だが最初から面食らった。

30人いる職場に日本人はたった1人。英国人だけでなく、メキシコ人、ペルー人、ポーランド人と多種多様な人種が集まっている。「日本人は本当に余計なことを言わないからいいね。黙ってよく聞いてくれる」。言葉の裏に「主張しない日本人」に対する奇異の思いが見え隠れした。英国流の皮肉だった。

「ホリ、そんなふうに日本語で報告書を送るのはやめてくれないか。やるなら英語で、私を通して欲しい」。良かれと思って続けていた日本の元所属部署への定期報告にも意見があった。まるで日本人だけでコソコソやっているかのように映っていたのだ。何もかもが浮いてしまう「日本式」。同じ島国でも、世界に開かれた英国の勝手はだいぶ違った。

■「こんな長い契約書は見たことがないぞ」

2000年に日立に入社した。配属先は山口県下松市の笠戸事業所だ。今でこそ日立が「主力事業」に掲げる花形の鉄道部門だが、当時は規模も小さく、職場は内向きだった。堀之口は鉄道車両の内装部品や車台を手がけた。新幹線に携わったこともある。最先端分野にいるんだという誇りはあったが、顧客や取引先は国内中心だった。

とりわけこたえたのは同僚の反応だ。東京出張のたびに真顔で聞かれた。「山口? 何の工場だっけ?」「うちって電車つくってたんだ……」。当時はIT全盛期、鉄道は日陰者だった。「いつか絶対、世界に打って出て行ってやる」。堀之口の中で新たな夢ができはじめた。

念願かなったのが12年だ。英国の都市間高速鉄道を受注し、本格的に海外展開に乗り出した。会社も経験したことがない新たな挑戦だ。現場は試行錯誤だった。

日立とHITACHI英国のニュートン・エイクリフ工場で完成した第1号車両

日立とHITACHI英国のニュートン・エイクリフ工場で完成した第1号車両

「君、何だこれは。こんな長い契約書は見たことがないぞ」。購買契約を結ぶ際、英国では200ページに及ぶ書類を交わすのが通例だ。あらゆるリスクを列挙し、万一の際の条件を詰めるためだ。だがこれが逆に効率性を重視するドイツ人相手の商談では、評判が悪い。

転職者も多いので、ライバル企業に機密を持って行かれないよう、社内であっても情報共有は慎重にしなければならない。納期や品質のトラブルがあれば、即座に取引先へ飛んでいくのが当たり前と思っていたが、ここではそうした人情も通じない。「世界で戦うとはこういうことか」。負担は重いが、毎日が新鮮でもあった。

■日本の良さは忘れない

堅い、真面目、官僚的、保守的……。何事も手堅い日立に対し、いつしかついたあだ名は「鈍牛」だ。もっと世界へ。日本の「日立」から、グローバルな「HITACHI」に脱皮できなければ勝ち残れない。日立が英国に「鉄道本社」を設けたのは、長く根付いた内向き志向と決別する狙いもあった。

いま堀之口は自身と会社の新たな生き方を模索する。直面する「断絶」は英国のEU離脱だけではない。

「とにかく主張しないと。前に進むことが大事だ」。15年11月にはイタリア、アンサルドブレダの鉄道車両製造事業を買収した。日立にはさらに違う文化が入り込み、グローバル化は加速する。「納期を守り、品質にこだわる。世界と次々つながっても、日本の良さを忘れてはならない。日本流と世界流をうまくつなぐ。これが私の使命」=敬称略

(阿部哲也)

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