「どうすれば若者が夢を持てる仕事になりますか?」
奥野長衛・全国農業協同組合中央会(JA全中)会長 経営者編第14回(1月10日)
農業はいま大変厳しい状況にあります。就業者は平均67歳になり、生産高と収益が落ち、右肩下がりが続いています。農地集積が進まず、耕作放棄地が増えています。この流れをどこかで変えないと壊滅的な状況になると思っています。他産業に人が流れ、就農人口が減るのは先進国の宿命という面もあります。米国でもそうです。だから農業をやる人が減っていくことに歯止めをかけるのは難しいかもしれません。それでも様々な形で農業をしたいと考える若い人たちもいます。

ITや法人化で新たな世界
日本の社会と経済は中間層が支えているとずっと言われてきました。それがいま崩れつつあります。そういう時代にあって農業を志す人が新たに登場してきました。私の地元でも30歳くらいの若者が農業をするため仕事を辞めて戻ってきました。イチゴをつくって頑張っています。昨年5月、かつて自分が通った農業高校に講演に呼ばれました。そこで教師から「女子生徒がどんどん増えていますが、彼女たちは果たして農業をやっていけるのでしょうか」と聞かれたので「『田んぼに力』と書くと『男』という字になりますが、田んぼに力と書かなくても農業をできる時代がすぐそこに来ています」と答えました。
例えば、農業でICT(情報通信技術)を使いこなす人が求められる時代が来ようとしています。農業が好きで、マーケット情報をしっかりみることができて、経営センスがあることが大切です。これからは体力勝負で農業をやる時代ではなくなります。だから男女を問わず立派に農業をできるんです。
では農業の世界に入ってくる若い人たちをどう支援すればいいでしょうか。ひとつは農業経営を法人にすることです。会社の形にすれば、人を雇いやすくなります。一方で法人に勤めるのではなく、個人で農業をやりたいという人もいるでしょう。そういう人のために、私が組合長をしていた伊勢農業協同組合(三重県度会町)は子会社を設け、そこで社員として2年間受け入れ、独立に向けて教育する仕組みをつくっています。
大金持ちになることは難しくても、会社員なみの収入があれば、もっと多くの人が農業の世界に入ってくることができます。若い人が夢を持てる農業に変えないといけないのです。そのためには何が必要なのか。皆さんのアイデアをお聞かせください。
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編集委員から
皆さんは日本の農業にどんなイメージを持っていますか。仕事がきつくて、しかももうからない──。そんな負の印象を持ってはいないでしょうか。農業で働く人がここまで高齢化した背景に、農業では利益を出しにくいという事情はたしかにあります。
一方で変化の兆しもあります。ここ数年、リクルートスーツを着た学生が集まる就農イベントがあちこちで開かれるようになりました。受け皿になっているのは、奥野会長が指摘する「法人化した農業経営」です。会社になり、規模が大きくなったことで、商品開発や営業など仕事が多様化しています。
大切なのはこうした変化の芽を育て、農業を再生させることです。奥野氏が会長を務めるJA全中は全国に約650ある農協の全国組織で、農協の改革プランをつくる仕事などをしています。もし農協が若い人の力を生かすことができなければ、農業は衰退を避けられないでしょう。(編集委員 吉田忠則)
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