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都市鉱山でメダルを リサイクルだって五輪レガシー

編集委員 北川和徳

今年もリオデジャネイロでの日本選手の活躍を別にすれば、2020年東京五輪・パラリンピックに関しては嫌なニュースばかりが続いた。莫大な開催コスト、東京都と大会組織委員会の不協和音――。都民や国民の間には20年大会を歓迎するどころか嫌悪するムードが広がっているようにも感じる。

日本は世界でも有数の埋蔵量

「都市鉱山」を活用したメダルのサンプルを手にする吉田沙保里選手=共同

五輪・パラリンピックはこの国の将来に何を残してくれるのか。四面楚歌(そか)のような状況だけに、少しは前向きな話題にも目を向けたくなってくる。

そんなわけで20年大会の金、銀、銅メダルを「都市鉱山」から製造するという試みに注目している。都市鉱山とは使わなくなった携帯電話やゲーム機器、パソコンや周辺装置など小型廃家電のことだ。どこの家庭でも、引き出しや押し入れをのぞいてみれば、いくつか転がっているだろう。それぞれの機器の部品に微量だが金をはじめとする希少金属が使われている。これを回収して取り出し、再利用してメダルに変えようというわけだ。携帯電話会社やリサイクル会社など複数の事業者が協力する準備を進めている。

「ちりも積もれば山となる」ような計画ではあるが、すでに法律もあって一部はリサイクルされている。都市鉱山は天然の鉱山に比べて金属の含有率ははるかに高く、実際の採掘よりずっと効率的なのだそうだ。20年五輪・パラリンピックのために製造するメダルは金銀銅各1666個を予定。金メダルは通常、銀の土台に6グラムの金でメッキして作られ、必要な金の量は約10キロ、銀は約1200キロ、銅は約700キロ。実は現在の国内の小型廃家電のリサイクルで得られている金銀銅で計算上は必要な量を確保できるという。

金なら6800トン、世界の16%の試算も

東京都の小池百合子知事(右)。大会組織委との不協和音も伝えられる=共同

だが、必要な数のメダルを都市鉱山に由来する資源だけで作ることがゴールではない。目標は資源を循環利用するシステムを定着させることだ。家電大国の日本は世界でも有数の都市鉱山を保有している。その埋蔵量は例えば金なら6800トン、世界全体の約16パーセントに当たるという試算さえある。だが、小型家電のリサイクルは制度こそあるものの、自治体や事業者によって対応はばらばら、何よりも意識や情報が世間に浸透していない。

自分でもわが家の埋蔵資源を調べてみた。新機種への買い替えで不要になった携帯電話が3台、携帯音楽プレーヤー2台、デジタルカメラに携帯ゲーム機、さらに昔のモデムまである。もう使うこともないから処分したいのだが……。多くの人が同じではないだろうか。

これらが表彰台でアスリートに授与されるメダルに変わるなら、どんどん提供して協力したい。メダルに使う貴金属集めをきっかけに、国民全体に小型家電は貴重な資源であるという意識が共有され、回収ルートが整備され、資源を取り出す技術も向上し、リサイクルが当たり前になっていく。これこそ20年大会が残す立派なレガシー(遺産)となるだろう。

五輪・パラリンピックという大イベント開催に伴う様々な取り組みが、同様に人々の意識を変えたり、社会の新たなシステム作りにつながったりするケースは他にも数え切れない。社会の持続可能性の追求、街のバリアフリー化、国際化、ボランティア文化の醸成。警備や防犯システムに関しても東京を皮切りに国内の状況が様変わりする可能性がある。

変装見破る顔認証システムでテロ対策

NECの顔認証システムは世界をリードするとされる。テロリストらの入国阻止など幅広く活用されるはずだ

20年大会ではテロ対策は最重要課題。そこで活躍しそうなのが、日本のNECが世界をリードするといわれる顔認証システムだ。テロリストの顔写真があれば、彼らの入国や会場への入場をかなり容易に阻止できる。リオ大会でも空港や記者会見場で活躍した。東京ではさらに幅広く活用されるのは間違いない。

現在では満員のスタンドにカメラを向けても数秒で該当者をピックアップできるほど精度が高いというから驚く。変装していても関係ないそうだ。ドローン等を飛ばして群衆を撮影した映像から不審な動きをする人物を割り出す技術もある。20年大会に向けて、街頭の防犯カメラも増えていく。カメラによる情報をネットワークで結んで生体認証技術であぶり出したターゲットを追跡することも可能なのか。

先日、インタビューする機会のあったNECの遠藤信博会長からは「技術的には高いハードルではない」と聞いた。ただし、「社会的な合意の形成など解決しなければならない課題は別に残っています」。もちろんそれは、メーカーが勝手にできることではない。

すでに犯罪捜査では防犯カメラの映像が犯人絞り込みの有力な材料になっている。顔認証システムと最新のネットワーク技術が結びついたら治安は飛躍的に強化されるだろう。顔データなら運転免許証やマイナンバーカードなどで当局は簡単に手に入れることができる。一方で、運用次第ではとんでもない監視社会につながる。プライバシーの保護や人権の観点から慎重な議論が必要なことはいうまでもない。

どんな未来につながるかの視点が重要

2020年東京五輪・パラリンピック組織委の森喜朗会長。開催経費は最大1.8兆円に=共同

しかし、重要テーマにもかかわらず、そんな議論が起こる気配はない。20年大会をめぐっては、開催経費がいくらになる、どこが払うのかといった話題ばかり。ちなみに、最大1兆8000億円と明らかにされた大会組織委による開催経費の試算では、おそらく空港の出入国管理に配備する顔認証システムや大会会場外の防犯カメラの設置費用までは算入されないだろう。メダルについても都市鉱山から回収した金銀銅の買い取り費はともかく、小型廃家電の回収システムを自治体などが整備する費用などは含まれない。

五輪・パラリンピックは東京だけでなく日本の将来の姿を大きく変える。街のバリアフリー化や駅のホームドアの設置、観光施設の国際化などへの補助金だって、開催経費には含まれなくても、20年大会と無関係ではない。大切なことは1兆8000億円などといった机上の数字ではなく、その枠を超えても動いている資金の使われ方に目をこらし、それがどんな未来につながるのかを常に考えることだと思う。

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