草彅剛 クリエイター絶賛の才能、記憶に残る5つの顔
SMAPの肖像(4)

草彅剛を語るにあたり、なかなか一言では表しにくい。その才能は多岐にわたり、いろんな分野で見事な足跡を残しているからだ。筆者が知る限りでも、彼には5つの記憶に残る顔があるように思う。順に振り返ってみよう。
草彅剛は「いいひと」である。ドラマの最初の当たり役は、コミックス原作の『いいひと。』(1997年、フジテレビ)だった。「私の周りの人の幸せが、私自身の幸せです」と言い切る主人公・北野優二のキャラクターが、まんま草彅らしかったので、本人モデルのドラマではないかと勘違いした人もいたくらいだ。
テレビで見る、穏やかで優しい草彅クンそのまま。コミックスでこのようなキャラが描かれ、その作品がヒットするということは、そういう"いいひと"が現実世界にはほとんどいないということだ。憧れの存在、こんな人がいたらいいなあ、という動機でキャラクターは選ばれ、理想の世界での活躍が描かれる。だから本作は、ドラマというよりドキュメンタリーに近い。この草彅剛と役柄・北野優二の奇妙なシンクロニシティーは、視聴者を夢の螺旋(らせん)に巻き込んだのだった。
草彅剛は「デニム・フリーク」である。彼は自称、他称を含めて、日本で一番ジーンズを愛している人物の1人である。そのデニムへの愛は、ポパイ世代も驚くほどの豊富な知識と膨大なコレクションから成り立っており、ベスト・ジーニスト賞を木村拓哉に続いて5年連続(99~2003年)で受賞している(今は2人とも殿堂入り)。1890年代のビンテージもの、1本150万円の希少もの…いろんなテレビ番組でも、ことジーンズ収集について語りだしたら、話は永遠に止まらない。テレビ業界では、VTR編集するのがいつも大変だったと言われているほどだ。
アーティストに対する敬意と愛情
草彅剛は「僕の生きる道」である。脚本家・橋部敦子の渾身(こんしん)の1作が『僕の生きる道』(03年、フジテレビ)だ。28歳の事なかれ主義高校教師がガン宣告を受け、余命1年を懸命に生きる物語である。主題歌は『世界に一つだけの花』。ヒロインは、主人公の近い将来の死をわかっていて、なお、敢然と結婚してくれるみどり先生(矢田亜希子)。余命1年と聞くと、お涙頂戴的メロドラマを連想しがちだが、橋部脚本は静謐(せいひつ)、重厚で、刺激に満ちていて、ラストまで目が離せなかった。その主人公を見事に演じきった草彅のロバート・デ・ニーロばりの、あばらも見えるばかりの肉体改造(患者が弱っていく過程を演じた)も話題になった。この橋部脚本「火10」枠はシリーズ化され、『僕と彼女と彼女の生きる道』(04年)、『僕の歩く道』(06年)と合わせて伝説の3部作となった。
草彅剛は「チョナン・カン」である。鬼才・タカハタ秀太演出の深夜のバラエティー番組『チョナン・カン』(01~04年)は『冬のソナタ』ブームが05年、K-POPの少女時代が10年からということを考えると、かなり早い時期の展開だったことになる。
同じタカハタ演出の「浅ヤン」と同じく、草彅が、韓国の空港に降り立つところからカメラは回り始め、チョナン・カン(草彅剛のハングル読み)が、日本からやって来て、韓国社会に徐々に溶け込んで、周りの空気が温まるまでを、丹念なドキュメンタリー・バラエティー手法で描いた。日韓を結んだ最大のエンタメ功績者として、今でも日韓両国で評価は高い。韓国でのSMAP人気にもひと役買ったのは、言うまでもない。
草彅剛は現代の「語り部」である。今は終了してしまった、最後のJ-POPナマ演奏&ナマ歌番組(つまり口パクなし)、フジテレビきくち伸プロデューサーによる『僕らの音楽』(04~14年)。あの番組の、あの伝説のナレーターこそ草彅だったのだ。多くのアーティストに対する敬意と愛情があふれた、あれほどまでに心揺さぶられるナレーションを、筆者はそれまで聴いたことがなかった。音楽番組での、紀行的な味わいの語り口。心癒やされる、丁寧で控えめな声音。そんな口調は、今後も耳にすることはないだろう。
この番組を愛聴していたのが、番組共演(『笑っていいとも!』など)でも親しかったタモリだ。『ブラタモリ』(15年~、NHK)のナレーションを今、草彅が担当しているのは、決してゆえないことではないだろう。草彅は、ナレーション1本でも食っていける力の持ち主だ。
つかこうへいの名言「彼の中にケモノが眠る」
草彅剛は「神」ってる。エンタテインメント・ジャーナリストという仕事柄、筆者には業界の各ジャンルに、全仕事を追いかけている天才たちがいる。その天才たちが共通して言うのが「草彅剛は神である」というフレーズだ。
演劇界では、まず作・演出家の故・つかこうへい。彼の草彅への入れ込み方は尋常ではなかった。99、00年の『蒲田行進曲』でのヤス役を通して、「彼の中にケモノが眠る」の名言を吐いている。三谷幸喜は「天衣無縫」、坂元裕二は「演劇五輪があるなら、日本代表は草彅剛」と評した。脚本家が、ここまで褒めたたえる草彅とは、いったい何者なのだろう。
ほかにもある。映画監督の山崎貴は映画『BALLAD 名もなき恋のうた』で「(草彅剛は)憑依(ひょうい)している」、脚本家・映画監督の宮藤官九郎は「(存在が)タメイキもの」。手放しの大絶賛だ。
これらの言葉の正確なニュアンスは、凡人の私には、今はまだ100%はわからない。だが、天才クリエイターたちが声をそろえて、皆、ここまで言うのだ。
草彅剛の今後の全活動を、追いかけないわけにはいかないだろう。
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