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英オプジーボ 8割引きでも「高すぎ」

日本の薬価制度が約30年ぶりに大きく変わろうとしている。議論の引き金を引いたのは、1年間の薬剤費が3500万円に迫るがん免疫薬「オプジーボ」だ。国内では薬価を半額にすることで決着したが、日本の8割引きの価格が付いた英国では、肺がん患者への適用拡大を巡り、さらなる値下げ交渉が続く。新薬に対する費用対効果が厳しく問われている。

日本では薬価が半額になるオプジーボだが、英国では激しい値下げ交渉が続く

「薬価の抜本的改革に向けて、年内に議論してほしい」

安倍晋三首相が経済財政諮問会議で、期限を区切って注文を出したのは11月25日。薬価見直しに向けた議論は急スピードで進み始めた。

今月初旬の経済財政諮問会議では、薬価の改定頻度を従来の2年に1回から、少なくとも年1回以上とする方針が確認された。薬価の毎年改定が正式に決まれば、実に1986年以来となる。

現行の薬価制度にはいくつかの課題がある。その1つが薬の効果に見合った、適切な値付けという概念の不足だ。

新薬の値付けにあたっって英国では、10年以上前から費用対効果の考え方を導入している。その英国ではオプジーボの肺がん患者への適用拡大を巡り、英当局と激しい値下げ交渉が続いている。

英国でのオプジーボの年間薬剤費は約5万7000ポンド(約800万円)。現時点で日本よりも約8割も安い。

だが英国立医療技術評価機構(NICE、ナイス)は、販売する米ブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)に対し、その半額でも値引きは不十分だとしている。

それだけではない。ナイスは新しい条件を突きつけた。オプジーボを処方できる対象患者の絞り込みだ。

ナイスが提示した条件は「事前検査でPD│L1(がん細胞に出現する物質)の発現率が10%以上の患者に使用を限定する」というものだ。

事前検査が必要なく、PD│L1の発現率によらず幅広い肺がん患者に処方できるのが、米メルクが開発したライバル薬「キイトルーダ」に対する、オプジーボのメリットだった。

ナイスの条件をのめば、オプジーボはライバル薬に対する切り札を失うことになる。

値引き交渉が長引くなかナイスは今月2日、キイトルーダに対し、肺がん患者への使用を推奨すると発表。英国での承認で先行したオプジーボだったが、ナイスとの交渉に時間を費やす間に、ライバル薬に先を越されてしまったのだ。

 キイトルーダの年間薬剤費は約6万8000ポンド(約1000万円)。この価格から、米メルクは大幅値引きをのんでナイスと最終合意した。具体額は開示されていないが、ナイスは「かなりの値引き幅」と説明する。

オプジーボが推奨を獲得するまで、さらに時間がかかると、BMSは英国市場を攻略するタイミングを逸しかねない。

ナイスが突き付ける厳しい条件をどこまでのむのか。BMSは今、難しい選択を迫られている。

ナイスがここまで厳しい姿勢を見せるのは、オプジーボの薬の価値が「提示された費用に見合ってないと判断している」(東京大学大学院薬学系研究科・特任准教授の五十嵐中氏)からだ。

ナイスは現在の肺がん向け主力薬「ドセタキセル」と、費用対効果を独自に分析。オプジーボの医療コストはドセタキセルの約5倍に及び、得られる効果と比べて価格が高すぎると判断した。

ナイスの推奨がない薬は、公的な医療給付の対象から外れる。このため医療現場では実質的に使えない。英国で新薬を売るためには、このシビアな費用対効果の関門を突破しなければならない。

アイ・エム・エス・ジャパンによると、日本の薬剤費は2015年で10兆6000億円と14年比で6.2%増加。高額薬の増加と高齢化の進展で、薬剤費が膨らんだ。

経済協力開発機構(OECD)が15年に出版した報告書によると、日本国民の1人当たりの薬剤費支出は年間752ドル(9万円弱)。米国に次いで2番目に多い。

薬価については全国保険医団体連合会が11年に行った国際比較があり、日本はイギリスやフランスの約2倍、ドイツの約1.5倍の水準だった。これは日本の販売額上位77品について、当時の為替レートで各国の薬局納入額を調査したものだ。

現在のペースで薬剤費が増えると、医療制度は早晩行き詰まる。医療制度を維持するには、薬剤費を適切にコントロールする努力が欠かせない。

そこで日本でも注目を集めているのが、費用対効果の考え方だ。英国にならい、日本でも18年度からオプジーボなど一部高額薬を対象に、費用対効果の考え方を薬価に反映する予定だ。厳格に適用すれば、より適切な薬価の算定が可能になる、との期待は大きい。

だが一筋縄に導入できるわけではない。費用対効果の対象薬を扱う製薬会社の幹部は「まだ関連データの収集段階で、実質的な議論は何も始まっていない」と明かす。

費用対効果の根幹は薬の効果を数値化し、効果に見合う費用をどこまで認めるかにある。それは、人の命に値段を付けるような作業だ。18年度の薬価改定に向けて、薬のコストを巡る議論はいよいよ本格化する。

(企業報道部 野村和博)

[日経産業新聞 12月19日付]

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