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目からウロコ… バルサ育成組織で発見の連続

いつも同じ空気を吸って生きているだけでは発想がどうしても凝り固まりやすい。それをほぐすのが旅の効用というものだろう。私も先月、少し空いた時間を利用してスペインのバルセロナを訪れた。「たまには違う空気を吸ってみよう」という程度の軽い気持ちで出かけたのだが、ものすごい刺激と衝撃を受けることになった。

3泊4日の全行程の内、機中泊が2泊という強行軍だった。自費旅行の目的はいろいろな人と会って話をすること。バルセロナにあるヨハン・クライフ国際大学を卒業し、今はスポーツマネジメントを仕事にする的地亮さんがあれこれ骨を折ってくれ、短いながらも非常に濃厚な時間を過ごすことができた。

3泊のうち機内で2泊というと、バカみたいに思われるかもしれないが、ものは考えようだろう。肉体的には確かにきついが、機内だと電話はかかってこないしメールも見なくていい。食べ物も時間どおりに出てくる。思考を遮るものがないので、ぼーっとするのにも物事を集中して考えるのにも、思いのほか役に立った。

8~14歳の子供たちの練習視察

現地時間の昼すぎにバルセロナの空港に着き、旅装を解くと、その足でFCバルセロナ(以下バルサ)の8歳から14歳までの子供たちの練習を視察した。夜に練習が終わるとバルサのトレーニングメソッドをつくっている人たちと会食。仕事に追われる日本での日常から離れ、別角度からの情報がインプットされると、思いもよらないアイデアが次々に湧いてきて、自分でも驚いたくらいだった。

バルサの子供たちの練習は夕方から始まる。練習開始の1時間前くらいからクラブハウスにワゴン車がわんさか集まってくる。4人、5人の単位でワゴン車から子供が降りてくる。聞けば、全員がアカデミー(育成組織)の選手たち。誰でも入れるわけではないから、まさに金の卵たちということになるのだろう。

アカデミーに通う子供たちの自宅近辺とクラブハウスを往復するワゴン車の費用はすべてクラブ持ち。年齢が上がると片道2時間くらいかけて通う子供もいるが、距離の遠近に関係なく、とにかく無料。スクール費もタダで、とにかくバルサはアカデミーの子供たちの家庭には一切の経済的負担をかけないようにしているという。学費の面倒を見ている子供もいると聞いた。そうやって8歳の段階から「君はバルサの選手なんだぞ」というプライド満載で育てていくという。

一方でアカデミーには毎年、選手の入れ替えがあるという。より優れた子供がテストをくぐり抜けて入ってくると、既存のメンバーから誰かが振り落とされる。メンバーが固定されるとチーム内で序列ができてしまい、テングになる選手が現れるものだが、バルサはそれを許さない。年齢が上がるにつれ、クラブに通えるエリアが広がるから、埋もれた逸材が入ってくる可能性も高まる。年齢が上がるほど生存競争は厳しくなるわけだ。

U-16(16歳以下)日本代表の久保建英(FC東京)もバルサ時代、こんな激烈なサバイバルレースを毎年勝ち抜いていたのだろう。

バルサのアカデミーの練習を見ながら再確認したのは世界はどんどん進化し、奥深いということだった。育成の段階から、ものすごく負荷がかかった練習をどんどん課している。

あらゆるトレーニングに「敵」存在

負荷といっても身体的に、ではない。徹底的に「アタマ」に負荷をかけてくる。日本でもよくある、ハーフウエーラインから3人くらいで展開しながらクロスを上げてシュートまで持ち込むトレーニング。こんなシンプルな練習一つをとっても中身の濃さが日本とは違った。ディフェンスする側の状況、ボールの位置、味方の状況に応じて「考えながら」サッカーができている。ゆえに躍動感がまるで違う。日本にありがちな型にはまったパターン練習にまったく堕していかないのである。

あらゆるトレーニングに「敵」のいない練習はなかった。負荷や規制をかける人間がいない練習はキックの練習であって、戦術の練習ではないということだろう。コーチたちは選手にかける負荷を調節しながら、駆け引きや判断が必要な状況を次々につくりだしていく。それに応じて選手も適切なアクションをとる。選手が立ち止まり、のんびりプレーできる状況はほとんどなかった。

14歳のシュート練習を見ていると「インサイドターン」など、いわゆるパスを受けてシュートに持っていく体のさばきがほぼ完璧にできていた。「これしかできない」ではなくて、マークについてくるDFを見ながら、やり方を変えていく柔軟性を14歳にして身に着けていた。脱帽という感じだった。

私も指導者の端くれとして、実演する子供たちより、そういうふうに教えられるコーチたちの頭の中がどうなっているのか非常に興味が湧いた。メソッドを考えつく頭脳はもちろん素晴らしい。が、本当に素晴らしいのはコーチングというライブの場で、選手たちの取り組み方や消化の仕方を観察しながら、今はどういう規制をかければいいのか、どういう負荷をかければいいのか、そのきゅっと伸びる急所を見抜く目だと感じた。教科書を熟読して教科書どおりに指導する、というのではまったくない。そのライブ感が素晴らしかった。

久保もバルサの育成組織でサバイバルレースを毎年勝ち抜いていた=共同

GKの練習にも参った。GKの練習場があって最先端の指導法を備えたキーパーコーチが8歳以上の子供たちを教えていた。将来的にはGKからフィールドプレーヤーに転じることもあるのかもしれないが、GKとしての才能を10歳前後の段階でもう見抜けていないようではダメだという認識がバルサにはあるということだろう。

未来のために8歳や9歳からGKの練習をするという発想もノウハウもないまま、大人になってから「いいGKがいない」などと嘆いている日本とはまるで違う。日本がいかにGKやキーパーコーチを軽視しているか、強烈に思い知らされた。

練習施設にもカメラ、コーチを査定

そんなバルサの素晴らしいキーパーコーチも昼間は別の仕事を持っている。コーチ専業ではないというから、選手同様、コーチもプロとして生計を立てられるようになるのは非常な狭き門なのである。

日本では練習前に「今日はこういうことを狙って、こういう練習をします」とクラブに報告し、そのメニューどおりにやることが多い。バルサもメニューを事前に考え抜くが、集まってきた選手の数、その日の体調、集中力の度合い、気候などを全部計算しながら、コーチがそれを臨機応変に変えていく。負荷を上げたり下げたり、修正したりする現場力が一番問われる。

ある意味、恐ろしかったのは、バルサはクラブ内のすべての練習グラウンドにカメラを設置し、誰がどんな指導をしているか、モニタリングしているという話だった。そうやってコーチも厳しく査定されているのでまったく気が抜けない。日々、競争で淘汰される緊張感の中、実際に成果が上がらないコーチは解雇されるという。

もっとも、解雇されてもバルセロナという町の中にサッカークラブは大小取り混ぜてたくさんあるので、力次第で働き口は見つかる。厳しい競争と同時に捲土(けんど)重来のチャンスもあり、その中で人材を循環させるシステムが整っていると感じた。

バルサらしいと思ったのは、1週間に1回だけ設けられた日以外は、子供たちの親といえども練習の見学を許さないことだった。その代わり、子供たちの送り迎えはクラブが責任を持ってやるのだが。

見学を許さないのは親の関わりが子供には一番のプレッシャーになるからだ。親に「ああだ」「こうだ」と言われるのが子供には一番こたえる。親の圧力が子供の緊張をいたずらにあおり、やる気を失わせもする。だから排除に動く。そこまでクラブがコントロールしようとするのは「俺たちのやることを黙って見ていればいいだんよ」という権威主義的な発想からでは決してなく、それが「子供のために一番いい」からだろう。

到着翌日は朝から現地のスペイン人コーチや代理人たちとディスカッションした。バルサを含め、現地の育成年代のコーチたちの年俸の相場をリサーチし、意外な薄給に驚いた。別に仕事を持ち、夜のコーチ業は副業というのが当たり前だった。待遇を聞いていたら日本のクラブでもスペイン人の一流の育成コーチを雇えるように思った。

午後はバルサのライバルチーム、エスパニョールのトップチームの練習を視察した。ボールを使う練習グラウンドとフィジカルトレーニングをする場所と一般人にも開放したレストランが密接していて、練習、休養、栄養を無駄なく回していた。

指導者養成に自負持つ地方協会の存在

エスパニョールの関係者が言うには「バルセロナがあるカタルーニャ地方のライセンス制度はスペイン協会のそれよりはるかに進んでいる」。カタルーニャで指導者講習を受けたコーチたちは、それより上級のはずのスペイン協会の講習を受けるとがっかりするという。マドリードという中央へのライバル意識が強いカタルーニャの人間の発言だけに割り引く必要はあるのだろうが、地方協会が指導者養成にそれだけの自負を持っていることをうらやましく感じた。

短い滞在だったが、本当に目からウロコが落ちるような発見の連続だった。「アジアの手本」とされる日本の育成だが、いやはや、そんな褒め言葉に喜んでいる場合ではないと思わされた。サッカーのアタマを退化させない刺激や見るべきものが、日本の外に山ほどあることをあらためて認識させられた。

(サッカー解説者)

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