2019年1月22日(火)

強さ世界一のレーザー光 がん治療や星の起源照らす
関西サイエンスマガジン

2016/12/20 6:00
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暗闇のなか、ストロボのような緑色の閃光(せんこう)が室内を照らす。量子科学技術研究開発機構の関西光科学研究所(関西研、京都府木津川市)にある、民生用では世界で一番強いレーザー光を作り出す装置「J-KAREN-P」だ。強力なレーザー光はがんの治療装置や、星の成り立ちを調べる宇宙物理や新素材の研究・開発などで役立つ。幅広い分野で科学を支える実験装置だ。

多くのレンズを通って高強度のレーザーが作られていく(京都府木津川市の関西光科学研究所)

多くのレンズを通って高強度のレーザーが作られていく(京都府木津川市の関西光科学研究所)

世界で一番強い光はどれくらいまぶしいのか。装置を見学する前に、関西研の桐山博光上席研究員から「絶対に裸眼で装置に近づかないでください」と注意を受けた。「地球上に降り注ぐ太陽の光を全て集めて、髪の毛の太さほどの面積を照らしたのと同じ強さの光です」(桐山氏)。そのため、見学にはオレンジ色の遮光めがねが必須だ。

研究室の照明を消すと、緑色のレーザーの光が浮かび上がった

研究室の照明を消すと、緑色のレーザーの光が浮かび上がった

屋内に設置されたレーザー装置は、テニスコートほどの面積を占める。装置のある部屋に入ると、2階まで吹き抜けになった高い天井が、繰り返し放たれる緑色のレーザー光で明るく照らし出されていた。目の前には、300枚の鏡やレンズが所狭しと並ぶ。

レーザーで緑色に染められた室内を見渡すと、鏡やレンズに挟まれて赤く光る物体が目に付いた。「チタンとサファイアの結晶です。これを使って光を増幅します」(桐山氏)。「誘導放出」と呼ぶ光の現象を応用した仕組みで、入ってきた光を結晶に一度ため込み、強い光を反対側へ一気に送り出す。こうした放出を繰り返し、普通のレーザー光を100億倍以上の強さまで増幅する。

強力なレーザー光線の発射時間は、1回あたり30フェムト(フェムトは1000兆分の1)秒と非常に短い。しかし、この光を当てると、物質を形作る細かい粒である電子やイオンを高速で飛ばすことができる。

高速のイオンは、医療分野で役に立つ。がん組織を狙って高速のイオンを照射し、がん細胞を殺す「重粒子線治療」は医療の現場ですでに導入されている。関西研ではレーザー光線で効率よくイオンを加速する技術を確立し、治療装置の小型化を目指している。

加速したイオンや電子を使えば、宇宙で起こる超新星爆発などの現象の一部を再現して、星の成り立ちを調べることもできる。高速の電子で物質の中の分子や原子の動きを調べることができ、新素材の開発にもつながる。

実は、世界一の称号を得られるようになったのは今年に入ってからだ。装置の改良を進め、決まった面積にどれだけ強い光を当てられるかを示す「集光強度」を10倍に高め、トップに躍り出た。レーザー装置の性能は光の強さだけでなく、安定性やノイズの少なさなど様々な項目で判断される。さらなる向上を目指し、改良は今後も続く。

(文・出村政彬、写真・山本博文)

 関西にはけいはんな学研都市(関西文化学術研究都市)や神戸医療産業都市、京都大学や大阪大学などのほか、大手企業の研究機関が集積する。関西の先端技術や研究を、独自の視点で切り取った写真と文章で毎月伝える。

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