仕事漬けの日々、35歳を前に突然「結婚したい!」
[黒田愛さん(仮名) 第4回]

こんにちは。ライターの大宮です。僕は5年ほど前から「スナック大宮」と称する読者との交流飲み会を続けています。東京、愛知、大阪のどこかで月に1、2回のペースで集まってもらい、おいしいものを飲み食いしながらおしゃべりを楽しむのです。先月の東京開催でなんと第60回を迎えたんですよ。毎回20人ぐらいが来てくれるので、のべ1200人もの人たちと飲み交わしたことになります。
いろんな方が来てくれるのですが、最も多いのはアラフォーの知的な独身女性です。留学経験があったり難関資格を持っていたりする人も少なくありません。そして、懸命に働いています。まさにキャリア女子で、本連載の読者層にも当てはまりますよね。
基本的にはお客さん同士で楽しく飲んでもらう会なので、僕は15分おきぐらいに各席を回ってお酒をついだりしています。まさにスナックのママでしょう? 女性客の隣に座ってあいさつをすると、仕事や恋愛、結婚に関する苦労話を聞かせてもらうことも少なくありません。器の小さい僕はすぐに「それはちょっと違うんじゃないの?」と反論したりしています。
でも、よく考えてみると、15分間ではその人の事情を把握することは不可能です。わかることは「この人は何か言いたいことがたまっているのだ」ということぐらいです。ならば黙って聞くべきではないでしょうか。それがなかなか難しいんだけど……。
本連載のようにマンツーマンでじっくりと対話をするときは、たまに何か異論を挟んだり、自分の話を聞いてもらったとしても大丈夫ですよね。お酒のおかわりや料理の追加注文をしたついでに「ごめんなさい。さっきの話を途中までしか聞いてないですね」と謝って、続きを話してもらえばいいのだと思います。
今回は、都内でウェブデザイナーとして働いている黒田愛さん(仮名、39歳)の最終話です(前回の記事はこちら)。東京・阿佐ケ谷のトルコ料理店で一緒に食事をしながら、のんびりと話を聞いています。
博多の百貨店で29歳まで勤務していた愛さんは、プロポーズをしてくれた恋人は振り切ってワーキングホリデーに旅立ったのです。帰国してからは単身東京に出て、好きな海外旅行を仕事にすべく、新興の旅行会社に勤務しました。
しかし、その旅行会社は「おそろしく忙しい」職場でした。朝は10時出社と遅めですが、夜はほとんど終電まで働くという毎日です。土日も出社することが少なくありませんでした。
「やりたい仕事だから我慢はできましたが、途中から興味のない業務に移されてしまって……。でも、嫌だからという理由で仕事を離れたくはありません。やりたいことがちゃんとできたらやめようと思っていました」
真面目で自分に厳しい愛さん。体を壊したりする前に「やりたいこと」が見つかって本当によかったですね。現在は、フリーのウェブデザイナーとして活路を開きつつあります。
誰かと話したい。一緒に食事がしたい
まだ旅行会社で長時間労働に耐えていた34歳の頃、愛さんは突如として結婚したくなったと振り返ります。
「理由はよくわかりませんが、35歳という年齢が迫ってきたのが大きかったと思います。忙しさにかまけて、お昼はお弁当をデスクで20分で食べるような日々。大切なものを忘れているような気がしたんです。誰かと話したい、一緒に食事がしたいと思いました」
上述のスナック大宮に来てくれるお客さんからも同じような声を聞きます。既婚者であっても、会社と家庭の往復だけで終わってしまう毎日に息抜きを求めているのです。特に秘密ではないけれど、同僚にも家族にも言えないような話ってありますよね。ちょっとした恋心とか。何でも気軽に話せる場が必要なのです。
単身で上京して1日平均14時間も会社にいた愛さん。結婚相手というよりも「いつでも一緒に食事ができる友だち」を求めていたのではないでしょうか。もちろん、親友のような恋人と結婚できたら気楽ですよね。
「夫婦で経営されている小さな結婚相談所をネットで探して、相談に行ったこともあります。でも、スタジオでお見合い用の写真を撮る段階で疲れてしまって……。登録にまで至りませんでした」
当時の愛さんは仕事で心身が疲れ過ぎていたのだと思います。まずは生活を変えて、体調を整えることが先決ですよね。
5年後のいま、転職をして時間にも気持ちにもゆとりが生まれています。愛さんはその結婚相談所に改めて行き、「お久しぶりです」と言いつつ登録を済ませました。
愛さんの好みはとにかく「会話が楽しい男性」。今のところ良き相手には出会えていません。会話上手の男性はいろんな場に誘われやすく、自然とモテたりするので結婚相談所のお世話にならずに恋人や結婚相手を見つけられたりします。その点がジレンマですね。
社会人としての自信がついた愛さんは「紹介してもらえたらどんな相手でも会う。適当にがんばる」というゆるく前向きな姿勢を保っています。何度かデートすればお互いの緊張もほどけて、少しずつ会話が楽しくなってくるような相手が見つかるかもしれません。来春あたり、愛さんから朗報が届く予感がしています。
(来週は新たなキャリア女子のラブストーリーをお届けします)
フリーライター。1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリングに就職。1年後に退職、編集プロダクションを経て02年よりフリーに。著書に『30代未婚男』(共著/NHK出版)、『バブルの遺言』(廣済堂出版)、『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました』(ぱる出版)など。電子書籍に『僕たちが結婚できない理由』(日経BP社)。読者の方々との交流イベント「スナック大宮」を東京もしくは愛知で毎月開催中。
ライター大宮冬洋のホームページ http://omiyatoyo.com/
「キャリア女子ラブストーリー ~アラフォーからの恋愛論」バックナンバー
これまでの記事はこちらをご覧ください。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。
関連企業・業界