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エージシュート日本一が可能なマネジメント(下)

 日本一エージシュートを達成している植杉乾蔵さん。今年、92歳になったが、いまだカートには乗らず、真夏でも歩いてゴルフをする。すごいと驚くが「ゴルフコースはリハビリ場。歩かないと体の調子が悪くなる」と言い放つ。今回が連載の最終回。いったいどんなゴルフマネジメントで今もエージシュートを成し遂げているのだろうか。
(日本経済新聞出版社「書斎のゴルフ VOL.32」から)

ついでに植杉さんが日常生活の中で心がけている「ゴルフを長く続けるコツ」も紹介しておこう。まずストレッチだが、筋トレは一切しない。

「筋トレをやると、つい夢中になってやりすぎる。やりすぎると逆に筋肉を痛めてしまうことがあるので、私は一切やりません」

身に覚えのある人も多いはずだ。代わりに植杉さんがスタート前によくやるのが、大相撲の四股を踏むような動き。

両足を外に開いて両手を膝にあてがい、その状態で腰を落として左右の肩を交互に内側に入れる。野球のイチロー選手が打席に入る前にするストレッチといえば想像していただけるだろうか。

散歩やウオーキングもしない。

「毎日のラウンドで、できるだけ歩くようにしているから、そんなことはやりません」

さらにラウンド中はもちろん、普段の生活でも「水分補給」をしっかりする。

「年をとってから一番怖いのが『脱水症状』です。だから、ラウンド中は3ホールごとに水やスポーツドリンクを軽く口に含み、家では寝る前に必ずコップ1杯の牛乳を飲むようにしています。牛乳は骨粗しょう症の予防と同時に、就寝中は発汗作用などで体内の水分が失われて脳梗塞などの引き金になりやすいので、その予防のためです」

これは元看護師の千枝子夫人の説明だが、このように植杉さんの体調管理は食事も含め、すべてを夫人が取り仕切っている。

「主人は、生野菜は固いといって食べないので、セロリやキャベツの芯、大根の葉っぱまでジュースにするなどして、毎日6つの基礎食品、30品目をバランスよく取るようにしているんです」

そんな中でも、積極的に食べるよう意識しているのが肉料理だ。再び千枝子夫人が言う。

「年をとると、魚や野菜中心のあっさりした食事を好む人が多くなりますが、ゴルフに必要な筋力を維持したければ、良質なたんぱく源の肉料理は欠かせません。我が家では週に2回は意識して肉料理を食べています」

さらに植杉家では、風邪をひいたくらいでは寝かしてもらえない。

「寝れば風邪はひどくなる。温かくして普段通りの生活をしていれば、風邪は自然に治ります。それと年をとると、ちょっと寝込んだだけでも筋力はアッという間に低下して寝たきりになる。だから風邪くらいでは寝ないようにしているのです」

植杉さんが81歳で骨折したときも、千枝子夫人は病院でギプスを処置してもらうと、その日のうちに家に連れ帰った。

「翌日から普通の生活をしてもらいました。うちの寝室は2階ですが、食事のときは1階に降りてこないと食べられないよと突き放したのです」

これには後日談がある。植杉さんが1階と2階をつなぐ階段で両手を使って上り下りを繰り返していたら、いつの間にか両腕の筋肉がついて、骨折が治ったときには以前よりもドライバーの飛距離が伸びていたという。

ついでに筆者が驚いたエピソードも紹介しておこう。 植杉さんは90歳になったときにクルマを新車に買い替えた。世の中の高齢者は、免許を返上しようかという年齢での買い替えである。買い替えた理由は、夫婦2人暮らしのうえ、公共交通機関の不便な地方都市ではクルマなしの生活は考えられないからだが、それ以上にここでも千枝子夫人の考えが反映されていたのだった。

「年寄りをいつまでも元気にさせていたかったら、年寄りの仕事を取り上げないことです。事故を起こすと大変だから運転はやめなさいとか、火事になったら近所迷惑だから火を扱う台所仕事はやめなさいとかいって仕事を取り上げてしまうと、年寄りはアッという間に老け込んでしまいます」

植杉さんは年間150ラウンド以上プレーする

長年の病院勤務で、寝たきりになったまま終末期を迎える高齢者を見てきた千枝子夫人ならではの考えなのだろう。

最後になるが、植杉さんのエージシュート達成回数1434回が偉大な記録であることは指摘するまでもないが、それ以上に素晴らしいのが、植杉さんのラウンド数であることも、ぜひ強調しておきたい。

年間150ラウンド以上、それを植杉さんは60歳のときから92歳の今日まで、なんと32年間も続けているのだ。合計すると、ざっと5000ラウンド。1434回というエージシュート達成回数もさることながら、このラウンド数も文字通りのギネス級といえるだろう。

「ゴルフを始めたのは34歳のときで、55歳のときのハンディが15前後。60歳になるまでは、100たたきも珍しくない普通のゴルファーだったのです」

60歳になって仕事が一段落したのを機に、本格的にゴルフにのめり込む。

ここで植杉さんがとった行動が年間150ラウンド以上コースに出ることと、「競技ゴルフ」への参加だった。

単にゴルフ友達と楽しむ遊びのゴルフではなく、ちゃんとした競技に出場する。ホームコースの月例競技はもとより、ゴルフ場がスポンサーをつけて開催するオープンコンペをはじめ、熊本県ゴルフ協会や九州ゴルフ連盟が主催する公式戦まで、出場できる大会は片っ端から参加した。いわば競技ゴルフという真剣勝負の他流試合でうまい人にもまれてラウンドし続けた。

ゴルフは、始めた年齢よりも、どんな環境でラウンドしたかによって、その後の上達に大きな差がつくゲームといえるだろう。

そして71歳のときに県体協のゴルフ大会で71を出して初めてエージシュートを達成。そのときにゴルフ仲間に祝福してもらったことがエージシュート挑戦へのスタートラインとなる。そして7年かけて78歳で通算100回目を達成するが、200回目は3年後の81歳で達成した。

「84歳からは毎年100回。つまり150ラウンドのうちの3回に2回がエージシュート。86歳を過ぎてからは年間130~150回のペースで達成し、ラウンドの8~9割がエージシュートです」

年間150回以上コースに出ようと思えば、雪や台風の日はラウンドしないから、晴天が続くときに3連チャン、4連チャンをこなさないといけない。実際、植杉さんは真夏の炎天下でも3連チャンは普通にこなす。むしろ、「3日もコースに出ないと体がおかしくなる」と言うくらいだ。

そして、ここからが肝心。それだけ連日、ゴルフ場通いをすると、一般の家庭では「もう年なんだから、いいかげんにしなさいよ」といさめる家族がいても不思議ではないが、それが前述した「年寄りから仕事を奪う」ことになる。そういう意味で、年をとってからのエージシュート挑戦に不可欠なのは、家族の理解と協力だといえるだろう。

植杉さんは「エージシュートを出す」という明確な目標を持っている

植杉さんは、妻の千枝子夫人がエージシュートに挑戦する植杉さんの一番の理解者で、最大の応援者だという環境にも恵まれた。言い換えると、エージシュートの挑戦には、前述した「好奇心」「向上心」「健康」の3Kに加え、もう一つ、「家族(もっと具体的にいえばカカア)」のKも必要といえる。

だが、それにも増して必要なものがある。

「エージシュートを出す」という目標を持つこと。それも明確な目標を持つことである。

前述したように、筆者は植杉さんを見て、「自分もいつかはエージシュートを出してみたい」と思った。その頃は、まだ目標は明確でなかった。その後、エージシューターの取材を重ね、エージシューターがどんな生活を送っているか、どんなストレッチや練習をしているか、コースマネジメントはどうかといったことをつぶさに観察し、それを一つずつ取り入れて実践した。

すると昨年の暮れにプロも交えたコンペで73を出してベスグロ優勝した。このとき「できれば60歳代でエージシュートを出したい」という明確な目標が生まれた。

明確な目標ができると、自分に足りないものや練習の課題が生まれる。暴飲暴食を避けて節制し、自然に健康を気遣うようになる。ゴルフに気持ちよく送り出してもらいたいから、妻も大事にするようになる。

つまり「健康」や「向上心」や「家族の協力」は「明確な目標を持つこと」で向こうから転がり込んでくる。植杉さんと出会って、これから先の生き方を考えるうえで一番参考になったのは、そのことかもしれない。

(文:高橋健二 写真:大森大祐 協力:インターナショナルゴルフリゾート京セラ「ゴルフ百歳道場」)

 植杉乾蔵(うえすぎ・けんぞう) 1924年(大正12年)12月1日、熊本県生まれ。60歳から本格的にゴルフを始め、67歳でHC5に。71歳でエージシュートを初めて行い、89歳の1月14日に1000回を達成、今年8月25日現在で1434回となり、日本一を更新中(エージシュート全国大会公認)。ドライバーの飛距離は現在180ヤード、それでもレギュラーティーなら毎回のようにエージシュートなのだ。千枝子夫人は元看護師で植杉さんのプレーに同伴し、健康を気遣う。奥様もHC14の腕前。

書斎のゴルフ VOL.32 読めば読むほど上手くなる教養ゴルフ誌


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