/

エージシュート日本一が可能なマネジメント(中)

 日本一エージシュートを達成している植杉乾蔵さん。今年、92歳になったが、いまだカートには乗らず、真夏でも歩いてゴルフをする。すごいと驚くが「ゴルフコースはリハビリ場。歩かないと体の調子が悪くなる」と言い放つ。今回は連載の2回目で、いったいどんなゴルフマネジメントで今もエージシュートを成し遂げているのだろうか。
(日本経済新聞出版社「書斎のゴルフ VOL.32」から)

もう少し具体的に、植杉さんの真っすぐ飛ばすスイングについて、気が付いたことを箇条書きにして紹介しよう。

(1)テークバックの始動は、低く真っすぐ。

植杉さんは「正しいスイング軌道とリズムをつくるには"始動"が大事だ」と言う。テークバックの最初の30センチくらいは地面に沿って低く真っすぐ引く。これがスイングアークを大きくとり、安定したトップの位置をつくる植杉流スイングのポイントだ。

(2)左脇は締めても、腕は突っ張らない。

一般にトップの位置では「左肘は真っすぐ伸ばせ」と教えるレッスン書が多い。しかし植杉さんは、バックスイングからトップに至るまで、左脇は軽く締まっているが、左肘は意識して伸ばすことはしない。むしろ軽く曲げている印象で、故・杉原輝雄プロのように両腕が五角形のままトップをつくり、そのままダウンに入っていくイメージだ。

(3)インパクトから先50センチを、フェース面を返さずに振りぬく。

前述したように、インパクトゾーンでは手首を返さない。植杉さん自身は「インパクトから先50センチはフェース面を返さずにターゲット方向に振り抜くだけ」と言っている。つまり、フェースローテーションをしないで真っすぐ振り抜く。

言い換えるとインパクトから先のフォローは手首を返さず、体の回転でフィニッシュまでもっていくというわけだ。植杉さんのスイングが年齢を感じさせないのは、このインパクトから先の体の回転が素晴らしいからだろう。

スイングでは頭を残す。「ヘッド・ビハンド・ザ・ボール」が大事

(4)インパクトで首をちょっと右に向ける。

植杉さんはインパクトの瞬間、顔を少し右に向ける。かつての帝王、ジャック・ニクラウスのチンロックほどではないが、顔を少し右に向けることで「逆ひねり」の反発力を得てパワーを生み出しているのだろう。インパクト後はもちろん顔を上げていく。

「スイングで大事なことは、自分が振りやすいように振る。いわば自然体で振ることだと思っているんです。形にとらわれすぎると、動きにスムーズさを欠いてしまう。若ければそれでもどうにかなるでしょうが、この歳だと芯に当たらなくなるんです。ただ『ビハインド・ザ・ボール』だけは決して崩さないように注意しています」

つまり、意識して頭を残す。

「はい。それで軸ができる。頭が左に流れてしまうと軸がブレてボールに力が伝わらないし、リズムも保てない。それで、インパクトでちょっとだけ顔を右に向けるような意識を持って、フォローの振り抜きやすさを出しているんです」

実は、植杉さんは81歳のときに右足首を骨折している。膝から足の先までギプスで固定し、医者が下した診断は「全治3カ月」だった。

にもかかわらず植杉さんはギプスがとれた1カ月半後にはラウンドした。それも乗用カートのないゴルフ場で、歩きでのラウンドだったという。そのときに気付いたのが、左のカベの重要性だったと述懐する。

「はい。そのときに骨折した右足をかばって左足1本で打っていたら、いつもより球が曲がらなかったんです。以来、いかに左のカベと軸が大事かと気付いて、左足でしっかりカベをつくるようにしているのです」

植杉さんはスイングの「リズム」に気をつけている

もう一つ、植杉さんがスイングで気を付けていることがある。スイングの「リズム」だ。フェアウエーキープ率9割以上という安定したショットは、すべて普段のリズムを保つことから生まれている。

「ミスしたときに、『いつものように打てればなあ』と思うことがあるでしょう。つまり『いつも通り』にスイングしさえすれば、ベストショットはおのずと出るはずなのです。その『いつも通り』のカギになるのがリズム。速くなっても遅くなってもいけません。リズムが悪くなると、スイングもメンタルもすべておかしくなってしまう」

では、リズムよくスイングするために、植杉さんはどんなことを意識してやっているのだろうか?

「例えばカートに乗らずに極力歩く。カートに乗ると、移動中は座っていて、ボールのそばに来て急に動き出すからリズムがつくれない。また、普段から打つ前のルーティンを決めておいて、常に同じ手順でアドレスに入るプレショットルーティンをすることも大事です。私は大きな試合やプロと一緒に回るときなど、緊張すると素振りを忘れてしまうことがあります。そんなときはスイングが速くなって必ずミスをします」

92歳なのに、植杉さんはカートに乗ることはほとんどない。しかも歩きは結構速足だ。とはいえ、決して走ったりせず、一定の歩調で歩く。

ショットはいつも通りの手順を踏んで、テークバックは意識してゆっくり上げる。植杉さんが実践しているスイングは、ゴルファーなら誰でも知っている、ごく当たり前のことにすぎない。

だが、それだけでエージシュート1434回が達成できるわけではもちろんない。植杉さんならではの飽くなき挑戦欲があることも指摘しておこう。

植杉さんの現在のドライバーの飛距離は、前述したように180ヤード前後だが、92歳の今も、ホームコース・球磨CC(熊本県錦町)の月例競技に出場している。月例競技はバックティーからで距離6800ヤード以上。そこから20~30代の若いメンバーと一緒に打っていく。さすがにここ3年はバックティーからエージシュートを出すことはなくなったが、それでも諦めずに挑戦し続けるところに植杉さんの真骨頂を見る思いがする。

植杉さんはまたこんなことも口にする。

「アイアンの距離は、何番で何ヤードとは決めていません。風向きや、グリーンの硬さ、受けグリーンかなど、そのときの状況と直感で、同じ130ヤードでも6IからPWまで使い分けます」

「パットで左に引っ掛けないためには、ヘッドアップをしないことが大事。カップにボールが入った音を左耳で聞くまでは顔を上げないようにしています」

「左足下がりのアプローチは、左足1本で立つとミスになりにくいですよ」

手の力だけで振らずに一緒に下半身も動かし、トップやフィニッシュをしっかりつくる

これまでの経験から会得した、植杉さんのこうしたスイングのコツを聞くと、植杉ゴルフはあくまでも人間の感覚・感性を大事にしていることがわかってくる。

ゴルフは狙ったポイントに球を運んで、いかに少ない打数で上がるかを競う「理詰めのゲーム」だが、そのやり方は感性重視で、アナログ的発想のほうがうまくいく。

当然ながら、最近はやりのデジタル距離計測器などは使わない。風を読み、グリーンの状況を観察し、そのときの感覚やひらめきを大事にして打っていく。だから脳も神経も刺激されて、92歳になった今も生き生きとゴルフが楽しめるのだ。

ちなみに植杉さんは、ここ数年、練習場にはまったく行っていない。練習場に行かなくても年間150回コースに通うラウンドだけで十分練習になっているからだが、若いときはよく練習したという。その中でも一番効果があった練習法は"素振り"だった。

「特に効果が絶大なのが連続素振りです。フィニッシュから振り戻してトップに。そこからまたダウンスイングに入ってフィニッシュまでと連続して素振りをすると、余分な力が抜けて、スムーズな軌道が自然にわかるようになる。何よりもリズムが良くなる万能の練習法です」

コツは手の力だけで振らずに、一緒に下半身も動かし、トップやフィニッシュをしっかりつくること。連続素振りをやって、「行きと帰り」のヘッドが同じ軌道を通るようにすることだという。

(次回は12月14日 文:高橋健二 写真:大森大祐 協力:インターナショナルゴルフリゾート京セラ「ゴルフ百歳道場」)

 植杉乾蔵(うえすぎ・けんぞう) 1924年(大正12年)12月1日、熊本県生まれ。60歳から本格的にゴルフを始め、67歳でHC5に。71歳でエージシュートを初めて行い、89歳の1月14日に1000回を達成、今年8月25日現在で1434回となり、日本一を更新中(エージシュート全国大会公認)。ドライバーの飛距離は現在180ヤード、それでもレギュラーティーなら毎回のようにエージシュートなのだ。千枝子夫人は元看護師で植杉さんのプレーに同伴し、健康を気遣う。奥様もHC14の腕前。

書斎のゴルフ VOL.32 読めば読むほど上手くなる教養ゴルフ誌


出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,404円 (税込み)

クラブを正しく使えばもっと飛ぶ!! (日経プレミアシリーズ)

著者 : 関 雅史
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 918円 (税込み)

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

暮らし

新着

注目

ビジネス

暮らし

新着

注目

ビジネス

暮らし

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン