アニマルフリー 動物素材に背を向けたカッコよさ
高級ブランド、新素材にシフト

デザインと機能性を両立
2年前、イタリア国営放送がすっぱ抜いた衝撃的な映像が欧州で話題を呼んだ。仏有名ブランドのダウン採取現場で、生きたままガチョウの羽毛をむしり取る。もがく鳥たちの姿を映し、今の手法が「動物虐待にあたるのでは」と告発した。
「欧州ではこの映像を契機に『残酷なダウン採取をするブランドは買わない』という人が増えた」。こう話すのは衣料品輸入販売の栄進物産(東京・品川)ファッション事業部の市原淳セールスマネージャーだ。
同社が注目したのが2013年創業の伊ブランド「セイブ・ザ・ダック(あひるを救え)」のコート。その名の通りダウンを使わず、化学繊維製の「プラムテック」と呼ぶ中綿を使用。表地も伸縮性に富むハイテク生地だ。速乾・通気性に優れファッション性も高い。「エコ時代のトレンドになる」とアプローチし、今秋冬から日本展開が始まった。


セイブ・ザ・ダックを運営するフォレスト(ミラノ)のニコラス・バルジ社長は老舗仕立屋の3代目。有名ダウンブランドの元商品企画担当者らと商品を開発、欧米で成功を収めた。価格は仏「モンクレール」、伊「ヘルノ」といった高級ダウンを下回る6万2000円(税別、ロング丈)。今後1年は主要百貨店で露出を増やす。「エコを意識する百貨店から引き合いが多く消費者の関心も上々。タイミングがよかった」と市原マネージャー。
というのも3月、アルマーニ氏が全商品で毛皮の使用を廃止すると宣言。米「セオリー」は来シーズンから毛皮不使用、仏「パラブーツ」は一部の靴でアザラシの毛皮使用廃止に取り組むなど、アニマルフリー・ムーブメントが盛り上がってきたからだ。


アニマルフリーのパイオニアとされるのが、01年のコレクション発表時から徹底してサステナビリティー(環境の持続可能性)を掲げてきた英高級ブランド「ステラ・マッカートニー」だ。デザイナーは元ビートルズのポール・マッカートニー氏の娘、ステラ・マッカートニー氏。菜食主義の家庭環境に育ったことから、意識せずとも動物素材を使わないのが自然で当たり前のことだったという。
商品には皮革、毛皮、ダウンを一切使わず、この秋冬からカシミヤはリサイクル素材に切り替えた。昨年には毛皮に代わる新素材のコートやバッグを投入。製品に「ファー・フリー・ファー(毛皮ではない毛皮)」という表示をロゴのように付けた。
多くの高級ブランドは、売り上げを支えてきたバッグや財布での皮革不使用にまで踏み込めない。だがステラ・マッカートニーは代替素材の完成度の高さ、巧みなデザインで女性をひき付け、革を使わずとも高級バッグが売れることを証明した。例えば売れ筋のバッグ「ファラベラ」。綿などが原料の柔らかな素材は一見、革と見まごうほどで、色彩も鮮やか。主力のミニトートは税別11万2000円だ。30代会社員は「ファッションアイテムは『おしゃれ』が大前提。ステラがアニマルフリーと知らなかったけど、知ってますます買いたくなった」。日本では13店を展開し、17年春夏物にはメンズを投入する。
高級車の合皮、バッグに活用

「新しい時代の新しいバッグに、古い動物素材を使うなんてナンセンス」。こう語るのはウェブデザイナーの幸田フミさん。立ち上げたばかりのブランド「FUMIKODA」のバッグが2日、東京・青山の小売店に並んだ。働く女性が切望する、おしゃれで、軽くて手入れ不要なバッグの商品化にこぎつけた。
理想の素材を探し回った末に出合ったのが、愛知県のメーカーが作る、高級自動車用の合成皮革シート。本革のような艶と手触り、高い耐水性と耐久性。「ワインボトルを入れても大丈夫」。バッグの重量は本革製のほぼ3分の2に抑えられる。
大型トートタイプが9万8000円など。べっ甲細工のような装飾部品は綿花が原料で福井県鯖江市の眼鏡メーカーが製造する。「本革やべっ甲をしのぐ、現代ならではの優れた素材が日本にある」と幸田さん。金具は仏具職人の伝統技術を生かした。
おしゃれだから手にとり、気付いたらエコ――。ひょっとすると、それが、新時代のラグジュアリーなのかもしれない。
(企業報道部次長 松本和佳)
[日本経済新聞夕刊2016年12月3日付]
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