2019年8月19日(月)

欧州Inside 欧州最貧国の苦闘 東西勢力争いの陰で金権支配
モスクワ支局 古川英治

2016/12/1 6:30
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旧ソ連・モルドバの首都キシナウ。11月半ば、大統領選の不正疑惑に抗議する若者ら数千人が街を行進して叫んだ。「我々に未来を」――。

「我々に未来を」と叫ぶ若者ら(11月14日、キシナウ)

「我々に未来を」と叫ぶ若者ら(11月14日、キシナウ)

11月13日の大統領選の決選投票ではロシアとの関係強化を主張した野党・社会党のイーゴリ・ドドン元経済相が勝利した。反汚職と財閥支配の打破を目指す親欧・改革派の野党「行動と連帯」のマイア・サンドゥ候補との得票差は7万票足らずだった。

改革勢力の大統領当選阻止か

サンドゥ氏の支持者が多い欧州の在外投票所では投票用紙が十分に準備されず、一部有権者は投票できなかった。モルドバ領内で親ロ派が独立を主張して実効支配する地域から多くの有権者が組織的に動員された疑いもある。中央選管は不正疑惑に対するサンドゥ陣営の訴えを退け、ドドン氏勝利を確定した。

大統領より強い権限を持つモルドバ政府・議会は14年に欧州連合(EU)と連合協定を締結し、欧州への統合方針を掲げる。親欧米か親ロか。モルドバに対する国際的な関心は東西の勢力争いに向かうが、投票所で有権者に話を聞くと、こんな声が大半を占めた。「地政学なんて関係ない。最大の問題は政府の腐敗だ」

14年に起きた事件をきっかけに国民の怒りが爆発した。3つの金融機関から国内総生産(GDP)の12%に相当する10億ドルの資金が消え、1年以上にわたり抗議運動が続いた。国民の批判は1人の人物に集中した。ウラジミール・プラホトニュク与党・民主党副総裁。肩書は地味だが、金融機関やメディアを傘下に置く新興財閥出身で、政財界を牛耳るとされるモルドバ最大の実力者だ。

選挙でもプラホトニュク氏の影がちらついた。同氏は支持率が低迷する与党の大統領候補を10月末の第1回投票の直前に切り捨て、「同じ親欧のサンドゥ氏を支持する」と表明した。プラホトニュク批判を強めてきたサンドゥ陣営は微妙な立場に立たされた。

独立系テレビの看板ジャーナリスト、ナタリア・モラリ氏は「プラホトニュク氏は裏ではサンドゥ氏の当選阻止に動き、ドドン氏と手を結んだ」と指摘する。反汚職・反財閥を前面に打ち出し、草の根で若者らの支持を広げてきたサンドゥ氏こそ脅威と受け止めたという。

サンドゥ氏は反汚職・反財閥支配を訴えたがわずかに及ばなかった

サンドゥ氏は反汚職・反財閥支配を訴えたがわずかに及ばなかった

与党の支持表明がサンドゥ陣営にマイナスに働いたことは確か。投票所では、サンドゥ氏をプラホトニュク氏と一体視してドドン氏に投票したとする有権者もいた。在外投票所での投票用紙不足など、政府・与党が行政を通じて選挙に介入した可能性も指摘される。

欧米も「致命的な誤り」(西側の外交官)を犯した。政府の汚職に対するキシナウの抗議運動のさなか、米国は「親欧政府の存在がもっとも重要だ」として政府を支持、米国務省は5月、プラホトニュク氏をワシントンに迎え、支持を表明した。欧州も政府批判を抑えた。親ロ派勢力の台頭を警戒した欧米の対応が、モルドバ国民を失望させた。

「腐敗と戦うのが先」

「改革にまったく手を付けない政府がいう"親欧米"に幻滅感が広がっている」とサンドゥ氏はいう。モルドバの1人当たり国民総所得は2500ドルと、欧州の最貧国に沈む。国連によると、過去10年で同国の労働人口の3割が海外に流出した。10億ドルが失われた事件の影響で通貨の対ドル相場は4割下落した。「まず腐敗と戦わなければ何も始まらない」

ドドン氏は親ロシア路線を主張して当選したが……

ドドン氏は親ロシア路線を主張して当選したが……

選挙でドドン氏が掲げた「親ロ」の旗印もあやしい。同氏はEUとの連合協定を見直すとした公約を早くも撤回、11月末に「EUとの協定を破棄する権限は大統領にはない」と言明した。プラホトニュク氏が「親欧米」の旗を利用するように、「ロシアカード」をテコに欧米の支援を引き出し、権力を固める思惑が見え隠れする。

金権勢力がはびこるモルドバの構図は、EUとロシアに挟まれ、東西勢力争いの舞台となる他の東欧、バルカン諸国にも共通する。親欧米にかじを切り、ロシアと対立するウクライナの最大の問題も汚職だ。EUは足元のポピュリズム台頭に揺れ、米大統領選でロシアと関係を改善すると主張したドナルド・トランプ次期米大統領はこの地域への外交を転換する可能性もある。モルドバの若者が求める「未来」には一段と不透明感が漂っている。(キシナウで)

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