/

ナショナルオープン、ゴルフの魅力訴えてこそ

公益財団法人ゴルフ協会専務理事 山中博史

久しぶりの更新です。五輪やナショナルオープンへの対応で少しサボってしまいました。

さて、今年の日本ゴルフ協会(JGA)が主催するナショナルオープン3試合は、それぞれに盛り上がりを見せました。各試合を振り返りながら、これからのナショナルオープンのあり方についてお話したいと思います。

ナショナルオープンの先頭を切って開催された日本シニアオープン(9月15~18日、千葉県習志野CC)。昨年までのシニアオープンは11月に開かれていましたが、今回は2カ月近く早く開催されました。昨年までは、日照時間が短いため出場選手数も少なく、日没で全選手がホールアウトできないケースも心配されました。また11月だと気候やコースコンディションを考えると関東以北での開催は不可能でした。

出場選手増やし、様々なコースで

JGAではナショナルオープンの魅力を高める施策として、出場選手を増やすと同時に全国のいろいろなコースでの開催を考えています。例えば北海道や東北、山陰にあるコースなどです。そしてナショナルオープンにふさわしい難度に仕上げるとなると、開催時期を早めたいところです。9月なら気候も良いし、芝も元気なので、選手の技術を十分に引き出せるセッティングができます。シニアオープンの出場選手も従来は108人でしたが、今年は126人に増やすことができました。

日本シニアオープンはマークセン(左)、鈴木両選手のマッチレースに=JGA提供

今回、習志野CCは全国の系列ゴルフ場のグリーンキーパーを集めてメンテナンスに従事しただけあって、素晴らしいクオリティーに仕上がりました。9月に入ってから雨が多かったのでラフが長く、シニアの選手にはちょっと厳しかったかもしれません。シニアルーキーのプラヤド・マークセン選手(タイ)と鈴木亨選手のマッチレースとなったことからも分かるように、パワーがないとなかなか対応できないセッティングになりました。

開催時期など新たな試みが奏功した半面、宿題も残りました。一つはコースセッティングです。シニアの醍醐味は、知恵と経験を駆使してコースを攻略していく熟練の技です。そのためには、技を引き出すセッティングが求められます。一方、シニアになるとレギュラーツアー以上に選手によって飛距離に差がつくようになります。今回も2打目を多くの選手が6番アイアンやユーティリティーで打っているようなパー4で、マークセンがピッチングウエッジで打っている場面もありました。

深いラフや狭いフェアウエー、コースの長さで難度を上げてしまうと、どうしても「飛ぶ選手」が有利になる傾向になります。いきおい「若い選手」しか勝てなくなってしまいます。「飛距離も技術のうち」といってしまえばそれまでですが、シニアの技を引き出すセッティングの必要性を痛感しました。

例えばパー4やパー5の2打地点のラフはそれほど深くしない一方で、グリーン周りを厳しくして、アプローチの技術をもっと引き出せるようにする。また230ヤードくらいのパー3を設定して、飛ぶ選手はユーティリティーで打てるが、飛ばない選手はドライバーで打つ。その分、花道を広くしてドライバーで転がし上げてピンに寄せていく、といったテクニックを披露できるようにするのも一つかもしれません。

フェアウエー側から試合見る好機

さらにファンサービス精神が旺盛なシニア選手とギャラリーの距離を縮めるため、決勝ラウンドでは、最終組の上がり5ホールぐらいはギャラリーをフェアウエーに入れることも考えられます。ローピングを工夫すれば実現できます。フェアウエー側から試合を見るチャンスが増えれば、楽しみ方も増えるはずです。

うれしかったのは、今年から設けたドリームステージにたくさんのシニアゴルファーが挑戦してくれたことです。その数、全国で186人。会場によってはキャンセル待ちがでるほどの盛況。来年以降も、多くのゴルファーがシニアのナショナルオープンを目指してチャレンジしてくれることを期待しています。

続いて9月29日~10月2日に開かれた日本女子オープン(栃木県烏山城CC)はアマチュアの畑岡奈紗さんが優勝し、話題となりました。交通の便もよいとはいえない会場だったにもかかわらず、最終日には1万人を超すギャラリーが来場し、正直驚きました。

米女子ツアーのシーズン中にもかかわらず、昨年覇者田仁智選手(チョン・インジ、韓国)も戻ってきてくれました。連日長い列を作ったファンのサインにも笑顔で応じ、チャンピオンズディナー、プロアマ、さらに試合後のパーティーまで来てくれた姿を見て、さすがだなぁと思いました。

コース側も松井功理事長が中心となり、新しいティーインググラウンドを造ってくれたり、女子最長となる490ヤードのパー4を設定したりするなど、女子ゴルファー日本一を選ぶにふさわしい会場づくりに取り組んでくれました。

ウイニングパットを決めガッツポーズする畑岡選手(右)=JGA提供

その難しいセッティングを制したアマチュア、畑岡さんのプレーは女子ゴルファー日本一にふさわしい内容でした。試合展開を見ていて「こういう状況によっては、アマチュアの方が強いかもしれない」と感じる部分もあったので、ちょっとお話しておきましょう。

もともと烏山城CCの15番、17番、18番は非常に難しいホールです。今回バンカー増設、新しいティーインググラウンドなどのコース改造で、さらに難度が増しました。14番までは攻めることができても、上がり4ホールは「いかにスコアを崩さないか」が重要なのです。

最終日17番(490ヤード、パー4)、優勝を争っていた堀琴音選手はフェアウエーど真ん中にティーショットを放ちながら、2打目は迷わずアイアンで池の手前に刻みました。「グリーン手前の池に入れたらダブルボギーになる」と警戒したように見えました。これに対して、畑岡さんは2打目で果敢にグリーンを狙っていきました。

無心でピン狙えるアマチュアの強さ

18番も最終日のホールロケーションはなかなか狙っていける場所ではありませんでした。特に2打地点から見ると、ピンは池のすぐ上に立っているように見えるはずです。が、畑岡さんは池を怖がらずに攻め、ピン奥にオンしました。残ったパットは池に向かってずっと下りです。ちょっと強めに打てば、池まで転がり落ちるようなライン。それを彼女はしっかり打って放り込みました。外れていたらグリーンから落ちかねない強さでした。

いずれも私の目には「失うものは何もない」アマチュアだからこそ、打てたショットではなかったかと映りました。プロだと「ここで池に入れたら順位を落とす」「賞金は……」「シードは……」と最悪の状況を考えてしまいます。しかし、それらとは無縁のアマチュアは無心にピンを狙っていけます。メンタルが結果を左右するゴルフで「無心にピンを狙える」ほど強いことはありません。堀プロはそれができず、畑岡さんはそれができた――それが勝敗を分けたのではないかと思うのです。

畑岡さんの優勝で見落としてはならないのは、若いアマチュアゴルファーに「畑岡さんが勝てたのなら、私でもできる」との気持ちを植えつけたことではないでしょうか。これは2003年に当時高校生だった宮里藍さんがプロの試合に勝ち、宮里さんに続けとばかり、若い才能が出てきたのと同じ現象を巻き起こすのではないかと思うのです。

もう一つJGAとして手ごたえを感じたのは、畑岡さんも所属していたナショナルチームでヘッドコーチと取り組んできた選手強化の成果が出たことです。今、世界のゴルフ界は技術だけでなく、体力、データ分析、心理面アプローチなど総合的な選手強化プログラムが主流となっています。

これまでナショナルチームは各地区から有力選手を選んで合宿をする際に、コーチングの専門家が参加することはありませんでした。そこで昨年末からオーストラリアゴルフ協会のナショナルコーチでもあるガース・ジョーンズ氏を招き、コーチング専門職の立場から選手を指導してもらっているのです。

例えば自分のプレーとデータをリンクして数値化することで目標を明確にし、自信を高めていく取り組みや、試合開催コースでのゲームプランを考えるだけでなく、うまくいかなかった場合にどのような選択肢があるか考えるなど、これまでになかった長期的な取り組みを展開しています。これが1年弱で、畑岡さんの優勝という形で結実したのです。

「JGAとプロ団体が一体」不可欠

彼女の米女子ツアー予選会でもジョーンズ氏がキャディーをしています。これまで「JGAはアマチュア競技団体で、プロになったらプロゴルフ協会が引き継ぐ」という雰囲気がありました。プロ入りしたら選手はJGAの手から離れていったのが実態でした。しかし、これからはジュニアを発掘して育成し、プロ入り後もオールジャパンで支えていく体制が欠かせません。まさにJGAとプロ団体が一体となって取り組んでいくことが必要なのです。そういった意味で、畑岡さんは先頭を切って、この道筋をつくったといえるでしょう。

10月13日から16日までの日本オープンは近年にない盛り上がりを見せました。開幕前から話題満載で、来場者も4万人超。良い役者と舞台がそろえばゴルフトーナメントは十分お客さんに満足してもらえるイベントであることが証明されたと思います。

舞台となった埼玉県狭山GCですが、通常営業時は、トッププレーヤーにとってそれほど難しいコースではありません。もともとフラットな地形ですし、グリーンの傾斜もそれほどない。バンカーも難しくない。松山英樹選手も狭山GCで開催された日本学生ゴルフ選手権で優勝したときは通算19アンダーをマークしています。それが日本オープンでは一変、ここ数年でも難しい部類のセッティングとなりました。

(左から)松山、スコット、石川の3選手を同組にすることには賛否両論あった=JGA提供

これはゴルフ場がバンカーやティーインググラウンドの形状を変えたり、木を思い切って切ったり、裸地に芝を張ったりするなどコース改造に取り組んでくれたことが大きかったです。伝統と歴史があるコースだけに、クラブやメンバーからはいろいろな意見があったにもかかわらず、大舞台にふさわしい準備をしてくれました。最終日18番グリーン奥の満員のギャラリースタンドとホスピタリティーテントが、新しく広げた手前の池に映りこんだ風景は日本の大会とは思えないような雰囲気を醸し出していました。

唯一の誤算は9月に入ってから雨続きで、ラフが刈れなかったことです。最終的に100ミリのラフを想定していましたが、130ミリくらいになってしまいました。「これほどラフが深くなるなら、フェアウエーをもう少し広くしてほしい」という声が選手からもありましたが、こればかりは自然が相手なのでなかなか難しいというのが本音です。アダム・スコット選手(オーストラリア)のパワーと技術をもってしても「取り返しにいくと、さらに深みにはまっていく」という仕上がりでした。

注目され見てもらって初めて成立

初日から平日にもかかわらず1万人を超えるギャラリーが集まりました。そのほとんどは松山、スコット、石川遼3選手の注目組についたようで、ティーからグリーンまでギャラリーがつながるホールもありました。

通常の試合だと初日の組み合わせは試合のある週の火曜日に発表するのですが、今回は思い切って前週の火曜日に発表しました。実はこの3人を同組にすることついて、JGAの中でも否定的な意見が多くありました。「テレビマッチじゃない」「ギャラリーが集中したらどうするのか」「日本オープンとして、そういう考え方はどうか」など……。発表後のネット上の書き込みも、多くが反対意見でした。

日本オープンといえども、興行であることに変わりありません。全米オープンや全英オープンでも、注目選手でギャラリーが見たくなるような組み合わせをつくって、話題づくりをします。報道されて、注目されて、見てもらって初めて成り立つのです。この3人の組み合わせは通常トーナメントではできません。だからこそ、やってみる価値はあると判断したのです。事実、発表後に前売り券の売り上げがグンと伸びました。

米ツアーでもまれ、人間としても一回り大きくなった松山選手が日本オープンを制した=JGA提供

ナショナルオープンは、日本一のゴルファーを決めるだけではなく、いろいろなことをゴルファーやファンに訴える試合であるべきです。ゴルフの裾野を広げるには、実際にゴルフ場に足を運んで、その魅力に触れてもらわなければ始まりません。確かにギャラリーは人気の組に集中しますが、他の選手のプレーを見る機会があるはずです。そこでファンになる、あるいはゴルフのおもしろさに触れてもらうことが重要です。それを今回の日本オープンで実践できたと思います。

試合は上位に実力者が並び、日本オープンらしい展開でした。米ツアーでもまれゴルファーとしても、人間としても一回り大きくなった松山選手が優勝を飾り、いま日本のゴルフ界が提供できる最高のコンテンツになったのではと思います。

昨年に続いてスコット選手がプロアマ戦の後、ジュニア向けセミナーを開いて、ゴルファーとしての心得を話してくれました。今年は松山選手も飛び入り参加して、世界で戦うための準備として「英語はきちんとやっておこう」「トレーニングはもっと大きくなってからでいい。今は走っておけば大丈夫」などアドバイスしてくれました。ジュニアたちは真剣なまなざしで二人の話を聞いていました。

また、JGAとしてうれしかったのは、アマチュアゴルファーに日本オープンへの道を開く「ドリームステージ」から勝ち上がってきた中島啓太さんが予選を勝ち抜いて本戦に進んでくれたことです。練習日に松山選手とラウンド、初日アンダーパーをマークするなど話題を提供してくれました。これからも、一人でも多くのアマチュアゴルファーが参加してくれることを期待しています。

話題提供してゴルフを理解してもらう

それぞれに話題を提供した今年のナショナルオープン3試合ですが、JGAとしては3試合を通じて、JGAの使命である「ゴルフ界の健全な発展と普及を図り、国民体育の向上、社会・文化の発展並びに国際親善に寄与する」をさらに進めなければなりません。

幸い、3オープンともNHKが共催としてBS・地上波の生放送できめ細かくフォローしています。これを単なるトーナメント中継にしてはいけないと思います。様々なJGAの取り組み(予選会やハンディキャップシステムなど)を知ってもらうと同時に、コースセッティング、ナショナルチームのこと、画面に出てきたルール裁定など、中継を通じてもっとアピールしていかなければと思います。全米オープンにしても、全英オープンにしても全米ゴルフ協会(USGA)やR&A(ロイヤル・アンド・エンシェント・クラブ)のスタッフがテレビ局ブースに入って、こうしたテーマを解説しています。

テレビ放送を通じて、いろいろな話題を提供してゴルフを理解してもらいたい――。来年以降のテーマが出てきたナショナルオープンでもありました。

すべての記事が読み放題
まずは無料体験(初回1カ月)

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン