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アイススレッジホッケー観戦 ルールと戦術学ぶ

28日から世界選手権Bプール

28日から北海道苫小牧市の白鳥王子アイスアリーナで、2018年平昌パラリンピック最終予選の出場権をかけたアイススレッジホッケーの世界選手権Bプール(2部に相当)が開催される。

10年バンクーバー・パラで銀メダルをとった日本代表だが、14年ソチは出場を逃した。東京パラ開催で夏の障害者(パラ)スポーツに注目が集まる中、2大会連続の予選敗退は、ただでさえ競技人口の少ない日本のアイススレッジホッケーの興隆にかかわる。大事な大会を前に、ルールと戦術を解説しておきたい。

合宿で練習する日本代表。日本でアイススレッジホッケーの灯を絶やさないためにも、平昌パラ出場は絶対条件だろう

両手にスティック、氷上を駆け回る

この競技は、下肢に障害を抱える選手がプレーする。障害の程度は様々で、交通事故で足を切断した選手もいれば、脊髄損傷で下半身がまひした選手もいる。足首を動かせないなど軽い障害でも参加できる。

競技に使う特殊なそりは「スレッジ」と呼ばれ、金属製のフレームと、選手のお尻部分をおさめるバケット、その下につけられた2枚のスケートの刃から成る。選手はここに座り、スティックを使ってこぎながら氷上を駆け回る。それゆえ、健常者のアイスホッケーではスティックは1本だけだが、アイススレッジホッケーでは両手にそれぞれ持つ二刀流で、スキーのストックのように使う。

「スレッジ」と呼ばれる特殊なそりは金属製のフレームと、選手のお尻部分をおさめるバケットなどから成る

全長1メートル以内と短く、グリップエンドに「ピック」と呼ばれるギザギザの部品をつけ、こぐときはここを氷に突き立てて前に進み、ドリブルするときはスティックの先のブレードでパックを操る。片手でこぎながら、もう一方の手でパックをドリブルする選手もいる。

車いす競技では、車輪を回すため腕を前に押す動きが大切なのに対し、アイススレッジホッケーではこぐため腕を後ろに引く動きが重要なので、腹筋が使えるかどうかが選手の運動能力に大きくかかわる。脊髄損傷で腹筋が弱い選手の場合、こぐ力に影響が出る。

そりの下についたスケートの刃

障害の程度に応じた持ち点ルールはなし

また、障害が足の切断の場合、片足の切断よりも、両足の切断の方が、足を乗せるスレッジの長さが短いので、ターンをする時に回転半径が小さく、素早い方向転換が可能になる(図1参照)。戦傷兵の多い海外では両足切断の選手は多いが、今の日本代表にはほとんどいないので、この点は不利だ。車いすバスケットボールや車いすラグビーのように、障害の程度に応じて選手に持ち点をつけ、出場選手の合計点を同じにするルールであれば公平な戦いになるが、アイススレッジホッケーでは導入されていない。

リンクの大きさやゴール、ブルーラインの位置、選手の数などはアイスホッケーと同じ。オフサイドやアイシング、インターフェアランスといったルールも基本的にアイスホッケーと同様でわかりやすい。

両足切断の競技者の方が、片足切断の競技者より素早い方向転換が可能

ゴール前で密集作り、得点を呼び込む

競技時間はアイスホッケーよりも短く1ピリオド15分の3ピリオド制。終了時点で同点の場合、ゴールデンゴール方式の延長に突入する。その際、GKを除いたフィールドプレーヤーを5人から4人に減らして戦う。今大会では1次リーグでは延長は5分、3位決定戦では10分、決勝では15分。それでも決着しなければサッカーのPKのようなシュートアウト戦を行い、勝負をつける。

アイススレッジ独特の反則として、「ティーイング」があるので、これは覚えておきたい。パックを持つ相手選手にチェックにいくとき、スレッジを相手のスレッジに垂直にあてる反則だ(図2参照)。

パックを持つ相手にスレッジを「T」字のように垂直に当てるのは反則

スレッジ同士がぶつかった形が、アルファベットの「T」のように見えることからこの名がついた。2分間の退場となるマイナーペナルティーが科される。

続いて戦術について。まず攻撃は、アイスホッケーと違ってアイススレッジホッケーではゴール前で密集を作ることが、ゴールにつながりやすいという特徴がある。選手が立っていればパックの位置はGKからも見やすいが、選手が長いスレッジに座っているので、これが何人もゴール前に来るとパックの位置がGKから見えにくくなる。さらに、スレッジの下の空間は刃の部分以外は空いているため、ここを通ってシュートが来る可能性もある。つまり、GKにとってはパックが見えにくい上、シュートが下からか上からか予測がしにくい状況になる。

スティックは2本。逆側のグリップエンドには「ピック」と呼ばれるギザギザの部品

ゴール後ろのゾーンへパックを放り込む

今回の日本代表はこうした密集で積極的にシュートを打つスタイルでゴールを狙っている。パスをつなぐよりもゴール後ろのゾーンにパックを放り込み、そこからパックを奪って展開。守備のためゴール前に戻った相手選手が集まったところでシュートを打ち、あわよくばリバウンドも。GKも下肢に障害があってあぐらをかく格好でそりに座っているから、ゴール上部へのシュートは手が届かない場合もある。

また、スティックが二刀流というのもアイスホッケーと違う独特の戦術を生む。アイスホッケーのドリブルで、体の右側で操作していたパックを、左側に動かして相手をかわそうとするとスティックを左側に向ける大きな動作が必要で、相手に読まれやすい。ところがアイススレッジホッケーでは、右手のスティックでちょこんとパックを打つだけで、そりの下を通して左手のスティックへパックを持ち替えられる。こうしたフェイントは効きやすく、GKも右手からのシュートが来ると予測していたら、左手に素早く持ち替えられてシュートとなると防ぎにくい。

ただ、持ち替えのためには左手も器用に扱える能力が必要。残念ながら今の日本代表には左利きは1人もおらず、左手が使えて強いシュートが打てる選手も4~5人程度。中北浩仁監督は「日本の永遠の課題」と認める。世界の強豪国では左手も強い選手や、左利きの選手がたくさんいる。

日本代表はゴール前に密集を作って積極的にシュートを打つスタイルでゴールを狙う

4カ国の総当たり戦、手ごわいチェコ

守備に関しては、日本は高い位置でプレスをしかけることを重視している。まずアタッキングゾーンでのフォアチェック。ここでパックが奪えなかったら相手を追いかけながら襲いかかるバックチェック。最後にディフェンディングゾーンまでひいての守りと3段階だ。フォアチェックにいくとき、FW3人とDF2人の間が広がってギャップができると、相手にこのスペースを使われて逆襲を受けるので、コンパクトな陣形を保つことが肝要だ。

今回の大会には日本とチェコ、スロバキア、英国の4カ国が参加。総当たりの1次リーグを実施したあと、上位2カ国で決勝、残りで3位決定戦を行う。2位以上なら世界選手権Aプールに自動昇格し、3位以上は来年秋に行われる平昌パラ最終予選への出場資格を得る。技術に優れたベテランDFのいるチェコが一番手ごわい相手だ。10月のチェコでの大会でも日本は0-1で負けている。スロバキアは若いチームで、同じ大会で日本は2-1で勝った。油断は禁物だが、きっちり戦えば取りこぼしはなさそうだ。

問題は英国。3年前のソチ・パラ最終予選で日本は8-2で勝ったものの、その後国際大会に出場しておらず、選手などの情報がほとんどない。得たいの知れない相手に、主将の須藤も「選手も入れ替わっていると思う。日本は初物が苦手」と警戒する。ただ、対英国を想定した10月のドイツ戦を日本は3-2で勝っている。1次リーグでは最初にスロバキア、続いて英国とあたるので2連勝し、最終戦を待たずに2位以上を確定させたい。

ベテランが復帰、若手の成長にも期待

全敗してBプール降格が決まった昨年の世界選手権Aプールでは、DF須藤を中心とした主力の第1セットに頼ったので、プレー時間が長くなって後半疲れ、ゲームをうまく運べなかった。しかし今回は10月の大会でFWの吉川と熊谷をDFで起用する布陣変更が奏功。バンクーバー銀メダルメンバーのFW安中が3年ぶりに復帰したこともあり、第1セット、第2セットの2つのセットを使って戦えた。さらに今回は塩谷、児玉といった若手の成長と、ケガで1年間抜けていた堀江が急きょ復帰したことも重なり、中北監督は第3セットまで用意して戦えるとみる。そうなれば選手の疲労を考慮したうえでのゲームマネジメントが可能になる。

バンクーバーの銀メダルも福音とはならず、競技人口は30人程度で横ばいのまま。自由に使えるアイスリンクが確保できず、深夜や明け方に練習するといった環境が嫌気された。日本でアイススレッジホッケーの灯を絶やさないためにも、平昌パラ出場は絶対条件だろう。なんとしても今大会で優勝し、最終予選に向けて弾みをつけたい。

(摂待卓)

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