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女子ゴルフ、猛省求められるお粗末ペナルティー

ゴルフライター 月橋文美

女子ゴルフの次代のホープ、畑岡奈紗のプロデビュー戦だった伊藤園レディースの2日目、ルールに抵触する"珍事件"が連発された。ローカルルール誤認のための68罰打、打った球でなく投げた球の紛失による2罰打、ルール無知から生じた1罰打……。トーナメント会場は一日中、優勝争い以外の騒動に振り回された。そこにはルール違反そのものよりも心配な、プロゴルファーとしての姿勢、認識の甘さがあぶり出された――。

プロたる者、アマチュアの範となれ

「プロたる者、アマチュアの範となれ」。そんな言葉がある。伊藤園レディース2日目に明らかになった3つのルールトラブルを取材しているうちに、このフレーズを思い出した。

第1の"事件"現場は、前日のサスペンデッドで残った第1ラウンドの最終18番。グリーン手前から左サイドに大きな池が広がる名物パー4で、松森彩夏はセカンドショットをピンから5メートルのバーディーチャンスにつけた。グリーン上で、マークしたボールを拭いてもらうため「いつものクセ」で帯同キャディーの田渕豊さんに「あまりキャディーさんのほうを見ないで、ポーンと投げた」という。そのボールはコースメモをチェック中だった田渕キャディーの頭に当たってポトリと落ち、そのまま転がって池へ……。

田渕キャディーが胸まで水に入り「顔もつけて水中で目を開けてもみたんですが、まったく何も見えなくて……。足元に触ったボールを5つ拾ったんですが、すべて松森プロのではありませんでした」と、球を見つけることはできずじまい。ゴルフ規則15-2取り替えられた球(裁定集15-2/1)により2打の罰を受けた。

ゴルフ規則15-2 取り替えられた球(抜粋)
 規則上球を取り替えることが許されていないのにプレーヤーが球を取り替えた場合(誤球がプレーヤーによってドロップされたり、プレースされた場合の意図しない取り替えを含む)、取り替えられた球は誤球ではなく、その球はインプレーの球となる。誤りが規則20-6の規定に従って訂正されずプレーヤーが間違って取り替えられた球をストロークしたときは、プレーヤーは該当する規則に基づいて、ストロークプレーでは2打の罰を受け、ストロークプレーでは取り替えられた球でそのホールを終えなければならない。
ゴルフ規則裁定集15-2/1(抜粋)
 マークしたあとにキャディーに投げて渡した球が池に入ったので、別の球でプレー
質問:プレーヤーがパッティンググリーン上の自分の球をマークして拾い上げ、ふいてもらうために自分のキャディーに投げて渡したところ、キャディーがその球を受けそこねて池に入れてしまい回収できなくなった。止むを得ず、プレーヤーは別の球でホールアウトしたが、規則15-2により罰せられるか。
 回答:罰を受ける。球は規則16-1bに基づいて拾い上げられているが、規則16-1bは別の球への取り替えを許していない。したがって、プレーヤーはマッチプレーではそのホールの負け、ストロークプレーでは2打の罰を受ける。

松森は「PGAでも同じようなアクシデントがあったと聞いていたし、軽率だったと感じています」と話したが、ボールを投げて渡す行為そのものについて質問が飛ぶと「エチケット・マナーとしてですか? みんなやっているし、それはあまり考えたことがないですけれど……難しいですね」と言葉を濁した。また"事件"の経緯を聞いた別のプロは「私も気をつけないと。池のあるところではボールを投げないようにしよう」と……。えっ? そんなふうに片付ける話ですか?

3年前ほど前だっただろうか。ゴルフ場関係者に聞いたことがある。「最近、テレビのトーナメント中継を見て、ジュニアゴルファーや一般のアマチュアゴルファーが、グリーン上でボールをよく投げるんですよ。取り損ねて落とせばグリーンが傷むし、ハウスキャディーが爪を割ってしまったり、目の近くなどに当たってけがをしたり、細かいトラブルが多発してるんです」。それもツアープロたちのパフォーマンスだという意見もあるが、決してグリーン上でボールを投げないトップ選手もいる。「だって、ほんの2、3歩歩くか、キャディーさんが近寄ってくれるのを待てば、手渡しできるじゃないですか。投げる必要なんてないですよ」という考えだ。

池がなくても、キャディーが受け取り損ねたボールがグリーン面に落下し転がれば、グリーン面のテスト(規則11-1d)などの違反となる危険性もある。たくさんのツアープロたちの間で日常化しているこの行為だが、一考を促したい。

プレー以前の人命にかかわる問題

さらにこの事件に関して、考えてほしいことがもう一つ。ボール捜索のためキャディーが池に入ったことに対しての危機感だ。同組でプレーしていた畑岡は心配していた。「私、中学時代の試合中、同伴競技者のボールを拾おうとして池に落ちてしまったことがあるんです。すぐ近くにボールが見えていたので体を伸ばしたら、足元がヌルッと滑って……。だんだん深くなっていく池で、耳の下ぐらいまで水に沈んじゃって。あのまま下のほうまで行っていたら死んじゃうとこでした」と、過去の怖い体験を思い出し「そういうこともあったので『本当に危ないです』と声をかけていました」。

実際、トーナメント終了後にコース関係者に聞くと「あの池は、縁から2メートルほどの範囲は水深1メートル程度ですが、そこから池の中心に向かってすり鉢状になっていて、一番深いところは5メートルぐらいになる。本当に危険なんですよ」と、憤りを込めた声が返ってきた。各地のゴルフ場の池で、毎年のように死亡事故も起こっている。キャディーの強い責任感と、プロの1打への思いもあるだろうが、水面からは底がまったく見えず、深さや形状もわかっていなかった池に入ってボール捜索するのは危険以外の何物でもない。その場には競技委員もかけつけたのだから、田渕キャディーが胸まで水につかったのを見た時点で「トーナメントのプレー以前の、人命にかかわる問題」として止めることが必要だったのではないだろうか。

同じ日、第2ラウンドのスタート時に発覚した上原彩子の"特大ペナルティー事件"は、新聞などで大きく報道されたが、またお粗末。上原の組は前日に終了していた第1ラウンド18ホールについてのルール違反だった。

雨で荒れたコースのコンディションに配慮して「フェアウエー区域に止まった球を罰なしに拾い上げて拭き、リプレースすることができる」という追加ローカルルールが出ていたが、これをリプレースでなく1クラブレングス以内に置き直せる、と勘違いしてプレーしてしまったという。「米ツアーではたいてい1クラブ内プレースなのでそう思い込んでしまった」と上原。ティーショットとグリーン上でのパッティング以外、15ホール19カ所でリプレースを怠り「1クラブというか、そこまで元の位置と離れていない辺りにプレースして打ちました」という。

整理すると、ゴルフ規則20-7にある誤所からのプレーを「19回」行い、それに対しての罰が各2打ずつ付加されることに。さらに、その罰打を加えずにスコアカードを提出していたため過少申告(規則6-6dスコア誤記)。またこの6-6d例外項「スコアカード提出前に罰を受けていたことを知らなかった場合は競技失格にはならず、違反をした各ホールに2打追加の罰を受ける」により、行為をした合計15ホール×2=30罰打加算。トータルすると68罰打が乗せられ、上原が実際に打った73ストロークだったはずのスコアが141となってしまった。

伊藤園レディース1R追加ローカルルール(抜粋)
 スルーザグリーンの芝草を短く刈ってある区域では、球を罰なしに拾い上げて拭き、リプレースすることができる。……このルールの違反の罰は2打(ゴルフ規則20-1)
ゴルフ規則20-7 誤所からのプレー(抜粋)
…c ストロークプレー
 競技者が誤所でストロークを行った場合、規則に基づいて2打の罰を受ける。
ゴルフ規則6-6d スコアの誤記(抜粋)
…競技者がスコアを真実のスコアよりも少なく申告した場合、競技失格となる。…例外 スコアカードを提出する前には罰を受けていたことを知らずにスコアを提出していた場合、その競技者は失格とはならない。このような状況では違反をした各ホールに対し2打の追加の罰を受ける。

上原は「朝スタートテントでローカルルール説明の紙を見て、あれ?と思って確認したら……。完全に私の確認ミスと思い込み。ルール詳細は口頭でも言われたと思うし。今まで以上に慎重に注意してプレーしていかなければと思います」と反省しきり。ツアーワーストスコアを大きく更新することになったルール誤認はしゃれにならないが、それよりも気になったのは、その続きだ。「ひどい雨の中のラウンドだったこともあり、マーカー選手(東浩子)もお互いぜんぜん見ていなかった」。18ホールを同組で回った選手同士、しかも大切なスコアの記入を一任されているマーカーが、一度もリプレースの状況を確認していなかった。そんなことがあっていいのだろうか。

加えてこの日は、9番(パー4)の第2打地点でも違反行為が。鈴木愛が追加ローカルルールにのっとってボールをピックアップし拭いた際、元の位置に置き直す前に周りの芝カスを手で払ってライをきれいにしてから球を戻した、という光景がテレビ中継画面に映ったことで問題になった。

スコア提出所で競技委員会から質問を受け、マーカーの畑岡とともにビデオ画像も確認。球を動かす原因となるかもしれないルースインペディメント(この場合、芝カス)をリプレースする前に取り除いた、と本人が認めて1罰打が科せられた。

ゴルフ規則23-1 救済(抜粋)
 球がパッティンググリーン上以外の場所にある場合、プレーヤーがルースインペディメントを取り除いたことが球の動く原因となったときは規則18-2が適用となる。
 球やボールマーカーが動いたことがルースインペディメントを取り除いたことに直接的に結びつけられるときは、罰はない。それ以外の場合、プレーヤーは規則18-2により1打の罰を受ける。
ゴルフ規則裁定集 23-1/8(抜粋)
 球を動かす原因となるかもしれないルースインペディメントの取り除き球をリプレースする前に取り除かれたルースインペディメント
 質問:プレーヤーが木の枝か、松葉のいずれかを取り除くと、球が動きそうに見えた。その後、プレーヤーがリプレースを要する規則に基づいて球を拾い上げた。球を拾い上げられた位置にリプレースをする前に、プレーヤーは球が上に止まっていたその木の枝や松葉を取り除いた。このことは認められるか。
 回答:認められない。規則18-2に基づき、スルーザグリーンでルースインペディメントを取り除いた結果、プレーヤーが球を動かす原因となった場合は1打の罰を受ける。そのような状況で、プレーヤーがルースインペディメントを取り除きたいと思う場合、球を拾い上げる前か、動かされた、あるいは拾い上げられた球をリプレースした後にそうすべきである。プレーヤーの球がルースインペディメントを取り除いた結果、動いた場合、プレーヤーは規則18-2に基づいて1打の罰を受け、球をリプレースしなければならない。

このルール問題にも、余計なオチがついた。鈴木が「そのルールを知らなかった」と認めたまではまだ許容範囲内だったのだが、続けて「ゴルフのルールって毎年のように変わるし、すごくたくさんあって全部覚えるのは難しいし……」と発言したのはいただけなかった。それは正直なところなのかもしれない。が、プロフェッショナルなら、そんなことは言ってほしくなかった。

3件とも、"過ち"という意味でいえば、人間1度や2度の間違いはあるもの、と思う。しかし、その過失の後についてきたおまけの発言には、これを契機に考え直してほしい「大切なこと」があった。

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