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[FT]トランプ外交で中東に危機 米ロ接近、和平に壁

EU諸国と亀裂も

Financial Times

トランプ次期米大統領はイスラム教徒を蔑視し、米国内の反ユダヤ主義的動きを見て見ぬふりをしてきた。にもかかわらず、トランプ氏を支持する人は中東にもいる。だが、問題はすでに戦火に包まれている中東に同氏がさらにガソリンを浴びせるか否かだ。

トランプ氏の公約はどれも論議を呼んでいるだけに、中東の市民でも同氏の中東政策を推測するのは難しい。だが、多くの人はたとえトランプ氏の発言がただの大言壮語だったとしても、彼が中東情勢をさらに深刻化させかねないと感じている。

自由民主主義が中東に浸透しているわけではない。とはいえ、欧米諸国が独裁者たちを支持してきたことで信頼感を損ねたとすれば、米国は今や、国家規模のポピュリズム(大衆迎合主義)をあおる「自由なき民主主義」を象徴する国として、さらに信頼を失う恐れがある。

トルコの強権化、野放しの可能性

トランプ氏は中東の強権的指導者たちとうまくやっていくだろう。エジプトの軍司令官で、2013年に当初は民意を得たクーデターで政権を握ったシシ大統領は米大統領選後、トランプ氏に最も早く祝意を伝えた外国首脳の一人だ。トランプ氏は、トルコのエルドアン大統領が今年7月のクーデター未遂事件を受けて進めている苛烈な粛清については、あまり批判しない方がいいと訴えてきた。トランプ氏が両大統領をどれほど支持するかはともかく、2人とも公には拷問やテロ容疑者の家族は殺してもいいなどとは主張していないので、トランプ氏よりは穏健にみえる。

トランプ政権は人権や男女平等、法の支配といった価値観を従来ほどは重視しないだろう。人間の活動によってもたらされた気候変動は、古代から「肥沃な三日月地帯」として知られてきた地域を悩ましている。ただ、そこに住む住民たちはトランプ氏とは異なり、気候変動が「でっち上げだ」とは恐らく思っていないはずだ(そもそもシリアで最初に反乱が起きた背景には、干ばつが起き砂漠化が進んでいるという問題があった)。

アサド政権「勝利」、折り合いをつけよ

オバマ政権がシリアとイラクにおいて重視したのは過激派組織「イスラム国」(IS)の打倒だ。トランプ政権下でもこれは続くが違いがある。オバマ大統領は、スンニ派の反政府勢力に手を貸しシリアのアサド体制を倒すことへの関心を失ってしまった。一方のトランプ氏は、アサド大統領の支援者で、やはり強権的指導者であるロシアのプーチン大統領に協力したいと考えているようだ。そのことは米国よりロシアの影響力を高めることになりそうだ。

米ロが協力すれば、アサド政権の反政府勢力を壊滅させるとの計画を後退させることができるかもしれない。英オックスフォード大学で近代中東史を教えるユージーン・ローガン教授はこう指摘する。「反政府勢力が勝てるだけの武器や資金を投じることに二の足を踏んだ米国と欧州連合(EU)は、ロシアの支援を得たことでアサド政権が勝ったという事実と折り合いをつける必要がある。米国とEUが今最も力を入れるべきは、ロシアとアサド政権に協力し、反政府勢力への大規模な報復が起きないようにすることだ」

今夏以降、トルコがロシアに接近してシリア内戦の流れが変わったように、トランプ氏とプーチン氏による米ロ関係の仕切り直しは、曲折を経ながらも中東情勢を変えるだろう。例えば、トランプ政権が中東政策で方針転換するとすれば、それはイランかもしれない。イランが核兵器を開発できない水準にまで核開発の規模を縮小するため、米欧など6カ国が昨年、イランと結んだ合意を激しく批判してきたからだ。

しかし、この合意を米政府は簡単には破棄できない。国連安全保障理事会が06年に制裁決議を採択したが、今年、制裁終了を決めたためだ。むしろ、米国としては米財務省がイランに今も科し続けている制裁を強化する方が簡単だろう。ただ、もし米財務省がイランとビジネスをしているとの理由から西側諸国の金融機関を米銀の送金システムから締め出せば、同諸国の反発を招く恐れがある。

さらにウクライナ問題でロシアに科している制裁まで解除するなど米国がプーチン氏にすり寄れば、EUを敵に回すことになる。

パレスチナの対立、イスラエル寄りに

イスラエルの問題もある。オバマ大統領とイスラエルのネタニヤフ首相はしばしば対立してきた。それだけにあまり認識されていないが、オバマ政権はイスラエルに米国史上最大の軍事支援を与えるなど、極めてイスラエル寄りだった。1967年の第3次中東戦争でイスラエルがヨルダン川西岸を占領して以来、米政権に就いた9人の大統領のうち、イスラエルが国連安保理の非難決議を受けないよう拒否権を発動したのはオバマ大統領だけである。トランプ氏でさえ、これ以上イスラエル寄りになるのは難しいと思われる。

だが、トランプ氏はネタニヤフ政権の失地回復主義にさらに手を貸すことになりそうだ。同氏と彼の顧問たちは、イスラエルがヨルダン川西岸を併合し、エルサレムをイスラエルの首都にするのを認めていいと考えているようだ。そして、パレスチナ自治区のガザを実行支配するイスラム原理主義組織ハマスと、レバノンのイスラム教民兵組織ヒズボラを新たに攻撃するよう働きかけるだろう。

ベネット教育相などイスラエルの極右の閣僚は、大統領選でトランプ氏が勝利したことでパレスチナ国家樹立に関する議論に終止符が打たれるかもしれないと喜んでいる。パレスチナ自治区全域をもイスラエルに取り込むべきだとする「大イスラエル主義」(編集注、エジプトからユーフラテス川までの地が神からユダヤ人に与えられたとの旧約聖書の記述から、この範囲を自分たちの本来の領土としてこう呼んでいる)の信奉者にとっては、次期米大統領が反ユダヤ主義者たちと関係を築いていることなどよりずっと重要なのだろう。

By David Gardner

(2016年11月16日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版)

(c) The Financial Times Limited 2016. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

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