/

打撃の原理は万人共通 オフにしっかり習得を

今月10日、岡山・倉敷マスカットスタジアムで行われていた楽天の秋季キャンプを視察した。梨田昌孝監督とは昭和28年(1953年)度生まれの同期生による「プロ野球28(ニッパチ)会」のメンバー同士、仲良くさせてもらっている。「選手にアドバイスしていいよ」と言ってくれたので、喜んで打撃の助言をさせてもらうことにした。

接し方の心得、タイミングが大事

銀次は私の言っていることをわかってくれたようだ=共同

選手への接し方では私なりの心得がある。まず「調子、どう?」と聞いて「いい感じです」と返ってくれば、たとえ欠点が見えていても指摘はしない。「じゃあ、頑張れよ」で終わる。選手が前向きでいるときにあれこれ言ったところで、なかなか聞く耳を持てないもの。これに対して「ちょっと感じがよくないんです」と来たら、そこが助言するとき。「そうだな。ここが気になるな」と話を進めていく。何事もタイミングが大事だ。

日本一に輝いた2013年から3年連続で打率3割をマーク(15年は規定打席未達)した銀次は今年、2割7分4厘に終わった。14年に3割2分7厘を打って首位打者争いしたことが頭にあったので「今年は5分低かったな」という話から入り、一つの提案をした。「銀次、ちょっと一回バッティングを変える気持ちはないかな」

左打者の銀次はグリップを体から離してバットを構える。グリップの位置が遠い打者は、得てして腕の力だけで振りにいきがち。銀次はどんな球にもバットを当てる器用さがあるから3割をマークできたが、ちょこんと当てられるのは逆に欠点でもあり、しっかりしたスイングの定着を阻みかねない。今年の低迷は小手先の技術に頼ってきたツケが回ったものといえるだろう。「ごまかしスイング」では飛距離も出ず、年間で最も多く打った本塁打は4本のみ。彼の力からしたらもっと打てるはずだ。

打撃でとりわけ大事なのはトップをしっかりつくること。トップとは、球をミートするポイントから最もグリップが遠くにある位置のことで、弓道でいえば、これ以上は弓を引けないというところまで引いた位置。バットを振り下ろし始める、まさにその瞬間のグリップの位置といってもいいだろう。

ごまかしスイングにしないために

田尾安志氏

ごまかしスイングにしないためには、トップをつくる際にグリップが体の近くにあることが重要だ。好例として思い浮かぶのが王貞治さんのフォームで、グリップは常に顔のすぐ横にあった。現役でいえば、アストロズへの移籍が決まった青木宣親も近い。

グリップを体の近くに置くのは、狙ったミートポイントに的確にバットを持っていける利点もあってのこと。しっかりトップをつくり、腕で振りにいくのでなく、体を動かしてあげる。そうして体が生み出したパワーを腕からバットへと伝える。この力の伝達がスムーズに行われたとき、強い打球が飛んでいくというわけだ。

私のアドバイスを聞いてフリー打撃に臨んだ銀次は「田尾さんの言っていること、わかった気がします。確かに、思ったよりボールが飛びます」と話してくれた。

岡は広島との日本シリーズでも活躍し、さらなる飛躍を予感させた=共同

今年、日本ハムの10年ぶりの日本一に貢献した岡大海もかつてはグリップが体から離れ、腕に頼った手打ちのスイングをしていた。2年前の春季キャンプで、明大からプロ入りしたばかりの岡に私は言った。「立場を度外視して、プロ野球の先輩として一言アドバイスしたいんだけれど、このスイングだといくら練習しても打てないよ」。現在、岡は構えたときからグリップが顔の近くにある。今年は41試合の出場にとどまったものの3割7分4厘をマーク。広島との日本シリーズでも活躍し、さらなる飛躍を予感させた。

グリップは体のそばに、というのは、極端に言えば10人いたら10人に当てはまる原理で、子どもたちにも教えられるもの。体から離れていて高い打率が残せている現役選手は内川聖一(ソフトバンク)と川端慎吾(ヤクルト)の2人だけだ。

グリップが体から遠いとバットは遠回りしがちで、2人は内角を打つのが苦手。それでも3割を打てるのは流し打ちがうまいからだ。引っ張ろうと思えばミートポイントが投手寄りになり、打てる球かどうかを早めに見極めて振り出さないといけない。その点、流し打ちとなると、詰まってもいいという意識から球をしっかり呼び込むことができる。フォームを崩されても逆方向に持っていける。そういう打席が増えると、年間のトータルで打率が3割台に乗ってくる。

内川のようにグリップが体から離れていても高い打率が残せる打者はまれな存在=共同

ただし2人はあくまで例外で、基本的にはグリップを体の近くに置くのが理想。私も現役時代はそのようにして打っていたが、意図的にしていたわけではない。「これが打撃の原理なんだ」とわかったのはプロに入って10年ほどたってからだ。

若手はまず駆け引きできるレベルに

ある年の日米野球で、私は大リーガーの打撃練習を食い入るように見つめていた。個々の選手の詳しい成績は知らず、フォームだけを見て「この選手はいい。あの選手はだめ」と○×をつけていたら、中日時代から親しくさせてもらっていた大リーグ通の江藤省三さんが「田尾がマルをつけたのは、みんなレギュラーだ」と言う。「そうですか。やっぱり形ができている選手がレギュラーなんですね」という話をした。

プロに入ってくるくらいだから、どの選手も素質を持っている。その素質を花開かせるためにも、正しい技術を早く身につけなければならない。データ野球全盛の現代、膨大な情報を基に相手バッテリーの配球の傾向を探るのもいいが、駆け引きをする以前に、まず駆け引きができるレベルになりなさい、と特に若手には言いたい。

秋季キャンプ後の11月後半から翌年1月末までの自由に時間を使える期間は、他の選手に差をつける好機。そこで万人に共通の原理を理解し、正しい技術を身につけられるか。全てはこの「フリータイム」をどう過ごすかに懸かってくる。

(野球評論家)

初割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料!

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン