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[FT]IT企業、IPO回避の傾向は新機軸(社説)

Financial Times

自動車の運転の世界を変えつつある会社は、自ら自動車を保有していない。ホテル業界を騒がせている会社は、宿泊部屋を保有していない。これが米配車アプリのウーバーテクノロジーズや米民泊大手のエアビーアンドビーなど、急進的なビジネスモデルを実践する会社に贈られる標準的な賛辞だ。

だが、賛辞はさておき、推定時価総額がそれぞれ680億ドル、300億ドルともいわれる両社に欠けているのが、株式公開だ。良くも悪くも、これも新機軸であり、IT(情報技術)業界を超えて広がる一つの流れとなっている。

潤沢な資金を持つ個人投資家は、そうした企業やその他企業の資金調達に多額の資金を供給してきた。新規株式公開(IPO)を実施したIT企業の数は今年、2009年の金融危機以来で最低水準を記録している。(自分の資産をさらにつぎ込みたいという)限られた内部関係者だけが目にできるところで、新たなITバブルが膨らんできているのだろうか。また、エリート投資家がそうした資産を一段と増やし、一般投資家たちが敗者になるということだろうか。

写真・動画共有アプリのスナップチャットを運営する米スナップが200億~250億ドル規模のIPOを申請したという報道が伝わり、現状が変わるとの期待も持ち上がっている。そのうち、一部のIT企業もIPO市場に向かうよう従業員や投資家から圧力を受けるだろう。

しかし、企業の株式を私的に保有し続ける一般的な傾向は変わりそうもない。あらゆる民間資本を調達できる環境は変わらず存在し続ける。この印象を強く裏付けたのは、ソフトバンクとサウジアラビアが最近、IT企業に1000億ドルを投資する、買収のためのファンドの設立を決めたことだった。このファンドは米国のベンチャー業界全体の2倍もの威力を持つことになる。株式公開は定期的な報告書の提出や、絶え間なく動き続ける市場を満足させなければならないという意味で、骨の折れる作業でもある。

現在、企業価値が10億ドルを超える未公開のIT企業は170社以上ある。そうした「ユニコーン」と呼ばれる企業の価値は総額6600億ドルにのぼり、時価総額で世界一の上場企業、米アップルをしのぐ。

市場に上場する企業が減っていることに戸惑う人たちには、シリコンバレーのIT企業以上に心配すべきことがある。未公開株式に投資するプライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)が世界中で投資した資産が15年までの10年間で、4650億ドルから2兆4000億ドルに増えているのだ。大手PEファンドは、自らの投資する企業を通じて最大の民間雇用主になっている。

PEファンド主導にもプラス面

ただ、こうしたことにもプラスの面がある。3カ月ごとの利益目標を達成することで頭がいっぱいの上場企業よりも、未公開企業のほうが投資額が多いことを示す証拠もある。米国や欧州における生産性の伸びの鈍化は、さらなる投資余地があることを示している。企業を私的に保有する割合が高まれば、むしろ、持ち分が広く分散されている上場企業よりも、企業統治を細かく監視しやすいということにもなる。

とはいえ、ベンチャーキャピタルの世界で参加者全員が、公開して資金調達する際に評価額が以前より下がる「ダウンラウンド」という痛みを先送りするだけの理由がある。多額の議決権制限株式を得てきた古くからの株主や従業員の株式を希薄化してしまうことになるからだ。公開市場で空売りをしたり、懐疑的な目を持つ人たちには、バリュエーション(企業価値の評価)の議論で企業の悪い面を取り上げるだけの動機も情報もある。これは健全なことだ。

奥が深く、流動的で、多様な人々が参加する公開市場がもたらすものが、投資家にとって価値のある情報だけとは限らない。政策決定者や企業経営者、そして起業家が経済を理解する材料にもなる。それゆえに、公開市場が強固であり続けていることを確認することに、集団的利益が存在する。従って、投資家の利益を損なうことなく、上場企業が負う規制負担を軽減するために何ができるかを検討する価値はある。

手始めとして、米国が要件としている4半期の決算報告を廃止して半期の報告に変えることも検討できるだろう。公開市場は混沌としており、手も掛かるが、それでも育てていく価値はある。

(2016年11月17日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

(c) The Financial Times Limited 2016. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

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