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[FT]ソニー訴訟が示す中国の司法判断リスク

Financial Times

多国籍企業は互いに、米国や欧州の法廷で大規模な法廷闘争を行うことに慣れている。その結果が世界的な影響をもたらすこともしばしばだ。だが、多国籍企業は新たに浮上した第3の場所に備えるべきだろう。それは中国だ。2週間前、ほとんど無名のカナダのワイランという企業がソニーを相手取り、中国東部の南京で特許侵害訴訟を起こした。対象は高速通信LTEを標準使用するソニーのスマートフォン(スマホ)で使われている技術だ。

ワイランはいわゆるパテントトロール(特許権を買い集め、和解金狙いで訴訟を次々起こす企業)だ。もしワイランが勝訴すれば、ソニーは早ければ2017年夏にもLTEを使うスマホの販売や輸出を禁じられる可能性がある。中国は世界のほぼ全てに広がる製造体制で極めて重要な役割を担っているため、輸出禁止は大きな脅威となる。

ソニーと同様の影響が出そうな類似の訴訟を考えても、訴えられる企業として思いつくのは米アップルや韓国のサムスン電子くらいだ。消費者に対する影響は計り知れない。中国の裁判官が、時価総額の非常に大きい世界的企業の息の根を止めかねないような時代が到来したともいえる。

中国は最近まで、多くの世界的企業がどのように法的リスクを回避しているか考慮してこなかった。外国企業は中国の取引相手と契約を結ぶ際、香港を含め海外の仲裁機関で係争が審理されるよう主張する傾向があった。そして、海外での判決が中国国内で反映されにくいため、仲裁に訴えなければならないような訴訟が起こらないよう願った。

ところが13年8月、この状況に変化が起きた。中国の国家発展改革委員会(発改委)が粉ミルクを製造する外国企業5社を含む食品会社6社に対し、中国でまだ歴史の浅い独禁法に基づき過去最高となる1億ドル(約109億円)の制裁金を科したのだ。

発改委の発表した簡単な声明文には、制裁金を科す理由がほとんど触れられていなかった。声明文では6社が様々な違反を犯し、罪を認め、制裁金を受け入れることが述べられているだけだった。

企業間係争を扱えるよう進化

この発表は、中国では判決内容が気まぐれで、上訴をしても信用できる判決が得られるわけではないという印象を強めた。さほど注目されなかったが、上海では同じ8月に別な訴訟の判決も出た。しかし、それを見ると、中国の司法制度が急速に進化し、本格的に企業間係争を扱える国になりつつあることがはっきりする。

敗れたのはまたもや外国企業だった。上海市高級人民法院(高裁)は米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)傘下で眼鏡レンズやコンタクトレンズを手掛ける子会社が独占禁止法に違反し、地元での販売に「最低小売価格」を設定したと判断した。高裁は詳細な判決理由を記した大量の判決文も公表した。これにより、J&Jに有利な判断を下した一審判決は棄却された。

司法判断が定まらないのは、米国や欧州連合(EU)での訴訟と同様、中身があるということだ。すぐに企業係争専門の弁護士らが判決内容を詳細に分析し始めた。これは中国の司法判断の憂き目に遭った外国企業の単なる一事例ではすまない。J&Jは敗訴したが、高裁から命じられた制裁金は53万元(約842万円)と、賠償請求された1440万元のわずか3.6%だったのだ。

J&Jの判決からは、ワイランが読みを誤った可能性も感じられる。ワイランがソニーを提訴したのは、日本軍による南京事件が起きた場所だ。「賢い判断とみる人もいるかもしれない。だが、南京の裁判所はこれまで判決の評判が良く、ソニーに有利な判決を下したとしても驚かない」と香港の知的財産権の専門家、ジョー・シモーネ氏はいう。「裁判所は南京が日本企業が事業をするうえで不利な場所だと思われたくないはずだ」

発改委による粉ミルク判決から学べることは多い。多国籍企業が共産党による1党支配体制の中国で、司法当局とあえて戦って勝てると考えるのは愚かだ。しかし、ワイランとJ&Jの訴訟は、中国の司法判断がこれまで以上に重要で、多国籍企業にとって無視できないものになっていることを示している。

By Tom Mitchell

(2016年11月16日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

(c) The Financial Times Limited 2016. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

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