ポスト小米に早くも試練、決算書で浮かぶ疑念
大槻智洋 TMR台北科技代表
小米(シャオミ、Xiaomi)に代わって、今、中国スマートフォン(スマホ)市場の"台風の目"と業界関係者が動向を注視しているのが中国LeEco(楽視網信息技術、読みは「ルイコ」)だ。
もともと動画配信や映像制作を手掛ける企業だった同社が、テレビやスマホといったデジタル機器事業に参入したのは2013年。以降、急速に成長し、2016年はテレビの世界シェアで3位、スマホで7位をうかがう(図1)。

しかも、電気自動車(EV)事業にも参入し、「テスラキラー」目指すという。LeEcoは既に、計68億米ドルもの投資計画を発表している。
しかし、あまりの急成長ぶりに、中国や台湾のエレクトロニクス業界ではLeEcoの資金力を危ぶむ声が充満している。実際、2016年5月には従業員に自社製品購入を強く迫ったことが、同年7月にはサプライヤー(EMSや部品)への支払いサイクルを90日から180日に延ばすことが明らかになった。さらに同年10月には、米国で工場建設に向けた2100万米ドルのデポジットが期日までに支払われなかったことも明らかになった[注1]。
そうしたなか、ついにWeChat Public Platform(微信公衆平台)上の投稿を引用してSinaFinance(新浪財経)などの中国経済メディアが、「サプライヤーへの支払いが100億元(約1540億円)ほど滞っている」と一斉に報じた。これを受けて、LeEcoの株価は約45元から約38元に急落。10月18日時点で888億元(約1兆3680億円)もあったLeEcoの時価総額は、11月14日時点で774億元(約1兆1920億円)に減った。
力不足の反論
このため、LeEcoやその創業者経営者のYT(Yueting) Jia(賈躍亭)氏は、反論や状況説明に終始している(図2)。主なものを三つ挙げる。

(1)報道は上場した自社と、未上場で連結対象でないグループ企業の状況を一緒くたにしている
(2)2015年に約6000人だったグループ従業員が1万5000人にふくれあがってしまった。今後は適正化を図る
(3)戦略を3~4カ月で調整した後は、たとえ新しいファイナンスを起こさなくとも資金繰りが逼迫しなくなる[注2]
しかし、いずれも説得力に欠けると言わざるをえない。第1に、LeEcoやJia氏はサプライヤーからの信頼をいかに取り戻すか、という点に考えを巡らせて説明するに至っていない。
例えばJia氏は、スマホの月間販売台数について「6月と7月はそれぞれ300万台と好調だったが、11月は入荷が不足して100万台強の見込み」(11月6日付けのTech.QQの記事)としながらも、「サプライヤーへの支払いが遅延しているから入荷が不足している」と真の理由を述べなかった。筆者の調べでは、大手受託製造サービス(EMS)/ODM(相手先ブランドによる設計・生産)企業の台湾Compal(仁寶)は、もうLeEcoと取引をしたがっていないとの情報もある。
第2に、資金源が底をつきかけているという課題を、いかに克服するかについてLeEcoやJia氏は説明していない。Jia氏はLeEco株を担保にどこかから借りた金銭を、無利子でLeEcoや未上場で連結対象でないグループ企業に貸し付けてきた。
貸借対照表の2016年上半期(1~6月)報告によれば、貸付額はLeEcoに対するものだけで実に39億人民元(約600億円、2016年6月末)。Jia氏のLeEco持株比率は36%。質入れされていないJia氏のLeEco持株比率は同年6月末時点で6%、9月末時点で9%しかなかった。株価が下がれば、限定された質入れ可能な株による借入額は確実に減少することは言うまでもない。
伸びる売り上げとわずかな利益
中国の上場企業では決して珍しくないことだが、LeEcoにはそもそも不正会計疑惑がある。この疑惑に対応し、必要ならば是正していくことがサプライヤーからの信頼を取り戻す近道だろう。
2016年上半期連結決算における筆者の疑問点を指摘しておこう(図3)。上半期決算を用いたのは第3四半期決算を概要しか公表しなかったためだ。LeEcoは本決算に関して会計士事務所の監査を受けずに公告した。

上半期決算には、目覚ましい売り上げの伸長とわずかな利益が記されている。売上高は前年同期比2.25倍の101億元(約1555億円)。上編に記したように、機器のハードウエアを赤字で販売し、ドラマやバラエティー、音楽番組などの有料動画配信や広告配信サービスで収益を得る特異なビジネスモデルを採る。つまり、「先に損するビジネスモデル」なので、営業利潤(経常利益にほぼ相当)は同39%増の0.3億元(約5億円)、税引き後純利益は同73%増の0.8億元(約12億円)である。
時価評価を怠ったか
こうした2016年上半期連結決算がおかしいと指摘するレポートは2016年10月14日に発表されている[注3]。同レポートは以下の5点を指摘した。(2)~(5)はいずれも資産の過剰計上を指摘するもので、利益の架空計上につながり得る。
(1)「連結外し」をして連結財務諸表をよく見せた
(2)現金および現金等価物を実際より多く計上した可能性
(3)保有株式が時価より高く資産計上された
(4)損失が当面続くのに繰延税金資産が多い
(5)連結対象外のJia氏支配企業への半期売上高が、予定年間売上高より多い
筆者はこのレポートを検証し、おおむね的を射ていると判断した。中でも(3)は日本の感覚では不適切だ。LeEcoは香港上場の中国TCL Multimedia(TCL多媒體)の株式を6.5香港ドルで取得した。しかし株価は2016年6月末に4.42香港ドルになった。だから19億元と資産計上した投資有価証券は、13億元が適正なはずだ。
損失飛ばしの可能性
(1)の連結外しは、傘下企業が損失を出した時に連結決算への悪影響を減らす定番手法だ。出資比率を50%以下にすることなどによって連結子会社にせず、持分法適用会社とする。これなら持株比率分の損失だけが悪影響を与える。
LeEcoが開示した「重要な非完全子会社」のうち出資比率が50%以下の会社は、楽視雲計算と楽視電子商務だ(図4)。レポートは、出資比率30%の楽視電子商務はLeEcoと不可分な会社で連結子会社であるべきと主張した。

筆者は2015年、ただし株主に関しては2016年6月末日以前の登記内容を確認した。すると、前出2社の上半期末における出資比率が違う公算が高かった(図4(b)(c))[注4]。通常なら登記情報に誤りはない。つまり2社は連結子会社だった公算が高い。
しかもLeEcoはあからさまな「完全子会社外し」をしたのかもしれない。2社におけるLeEco以外の株主は、楽視控股(北京)のみ。同社はLeEcoの連結対象に必ずしもならないLeEcoグループ企業に対する出資元で、Jia氏が支配している。
LeEcoの決算書は、2社が連結損益計算書にマイナス1億元の影響を与えたとし、1億元の税引き後純利益を計上した。しかし登記情報に基づく筆者の出資比率推定が正しく、「完全子会社外し」をしたとすれば、税引き後純利益はマイナス2.9億元の影響を与えた。
「期待感をあおる」ビジネスモデルか?
こうしてLeEcoの決算書を分析していくと、「ハードウエアを赤字で販売して有料動画配信サービスや広告配信で取り返す」というビジネスモデルには裏があることが分かる。つまり、彼らが標榜するビジネスモデルは、筆者の推測では潜在を含めた株主や金の貸主の期待をあおる単なる一手段に過ぎないと言える(図5)。

こうしたサイクルを高速に回し続けられたとすれば、LeEcoは高品質で安価なハードウエアを武器に競合を打ち負かし残存者利益を得られる。しかしそれを実現するためのハードルは、既にかなり高くなったと言わざるをえないだろう。