リオ閉会式で称賛、『逃げ恥』で話題の振付師MIKIKO



リオ五輪の閉会式では、日本が演出を担当した「フラッグハンドオーバーセレモニー」と呼ばれる引き継ぎ式が行われた。安倍首相がマリオとなって登場したり、ダンスチームと最新技術が融合した圧巻のパフォーマンスを繰り広げるなど、東京五輪をアピールする絶好の機会となった。その模様を収めた動画の再生回数は750万回を超え、皆が繰り返し見たいと思うほど印象深いものとなった。

このプロジェクトには、椎名林檎や、クリエイティブディレクターの佐々木宏氏などが参加。その中で総合演出/演舞振付を担当したのがMIKIKOだ。海外でも人気を集めるアーティストのPerfumeやBABYMETALのライブ演出や振り付けを、初期から手がけてきたことでも有名な彼女。最近ではドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)のエンディング曲で、新垣結衣が踊る「恋ダンス」の振り付けを行い、話題となっている。そんな彼女に閉会式に至る舞台裏について聞いた。
今回は「現代の東京を8分間で見せる」というお題があったという。その中でも大きな見せ場の1つとなったのが、ダンサーたちが光るフレームで、東京五輪のエンブレムを作り上げていくパートだ。
50人から成るダンスチームは、彼女がイメージする踊りができるダンサーと、青森大学の男子新体操部のメンバーで構成された。ただ、それぞれ習得してきたダンスの種類が違うため、本番までの数カ月、そろった統一感のある動きを出すために日夜練習が繰り返されたそうだ。そしてそこに、Perfumeのライブなどで使われている最新テクノロジーを組み合わせることで完成度を高めていった。
本番でダンサーたちが手にしていた、一辺が身長よりも大きなLEDフレームは、動かすごとに独特な光を発する仕組みで、普段からタッグを組むメディアアーティストの真鍋大度氏が大会用にソフトから開発したもの。ダンサーの動きがより映えるものになるよう試行錯誤を繰り返した結果、人間と光が圧倒的なインパクトを残すパフォーマンスが生まれた。
またAR(拡張現実)を使用し、東京五輪で行われる予定の33種類の種目が、フィールド上空に映し出されたパートでは、各種目の動きを1つずつモーションキャプチャーして作ったという。例えばサッカーでは、ボールが何秒かけて1回転すれば印象的なものになるかまで計算して決めていったそうだ。「随所に細かい演出を盛り込んだので、8分間という短い時間ですが、普段2時間のライブで見せる内容が凝縮されています」(MIKIKO、以下同)。
Perfumeの経験が生きる
しかし、そこに至るまでには悩みもあったという。リオ五輪に帯同できるダンサーの数は、予算の関係で最大で50人に制限されていたのだ。会場の広さから考えると決して十分な数とは言えず、本来であれば200人いてもおかしくないレベルだった。ただ彼女は、自分の培ってきた経験が生かせると、前向きに取り組んだそうだ。
東京ドームでも公演経験のあるPerfumeは、今までにバックにダンサーやバンドを付けず、常に彼女は3人をいかに大きく、そして存在感があるように見せるかを追求し続けてきたからだ。「音と映像と照明がシンクロし、そこに体の動きがバッチリ合えば、たとえ少人数でも、観客の心を動かすことができるんです」。
閉会式後、国内外から賞賛の声が多く上がった。彼女は外国人の友人に、「8分間にあれだけのものが詰め込まれた時間の使い方が、実に日本的で素晴らしかった」と言われたことが印象的だったという。「パフォーマンス全体を通して、緻密で折り目正しい、そして内に秘めた情熱を持つ、日本人らしさを表現できていたらうれしいです」。
リオ五輪後、振付師として国内外を飛び回る忙しい日々が続く彼女は、「これからも楽曲のファンの方たちの予想を、いい意味で裏切る振り付けを作っていきたい」と語る。そして、「リオ五輪で行ったような、言葉なくして相手の想像力をかきたてる、非言語のパフォーマンスについてもさらに追求したい」と続ける。
MIKIKOの活躍の場は、ますます増えていきそうだ。
(ライター 中桐基善)
[日経エンタテインメント! 2016年12月号の記事を再構成]
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