「日ロの懸け橋」サハリンから送電構想再燃

2016/11/1 6:30
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ロシア極東のサハリンから北海道への海底ケーブルを使った電力輸入構想が再浮上している。ソフトバンクグループの孫正義社長が旗振り役の1人で、将来的に中国と韓国もつなぐ送電網を整備する事業の調査も進む。ロシア側はプーチン大統領の12月の訪日時の経済協力の目玉としたい考えで、日本政府内でも北方領土交渉で進展が見込めるのなら前向きに検討すべきだとの意見が広がっている。

構想はサハリン南端から北海道の稚内までの約40キロメートル間に電力損失の少ない高電圧直流送電ケーブルを敷設して日本に電気を送る計画で、事業費は約60億ドル(約6200億円)。電力は国営電力大手ルスギドロがサハリンに持つ火力発電所から供給する。

サハリンの発電コストは日本の3分の1程度と安い。原発の再稼働が難航する日本にとっては新たに安価な電力を確保できる利点がある。ロシアには欧州に偏っているエネルギー供給先の多角化を進められるメリットがある。

孫氏は2011年に発表した中韓、ロシア、日本の送電網をつなぐ「アジアスーパーグリッド構想」の一環として実現を呼びかけてきた。ロシアも13年ごろから事業に前向きな姿勢を見せていたが、日本側は電力をロシアに依存することや採算面での懸念から慎重論が強く、長く棚ざらしにされてきた。

ただ、北方領土問題の解決を目指す日本の安倍晋三首相は5月、ロシア南部ソチでのプーチン氏との会談で、ロシアへの大規模な経済協力に踏み切る意向を伝達。ロシア側がその具体策として要望した事業の1つに日本への電力輸出を位置づけたことで、再び脚光を浴びることになった。

ロシアメディアによるとガルシカ極東発展相は9月、国営送電大手のロシア・グリッドとソフトバンクグループが日本への電力供給に向けた合弁会社の新設を協議していると発表した。ロシア・グリッドのブダルギン社長は9月9日、東京で孫氏と事業の進展について協議した。

ロシア側はすでに実現を前提にした準備を始めている。ルスギドロは日本への電力輸出の際の供給源となる火力発電所をサハリンで着工しており、10月には発電機の取り付け作業が始まった。

国際協力銀行(JBIC)などを交えた資金計画の検討も進んでいる。国営の投資ファンドの極東開発基金のチェクンコフ総裁はソフトバンクグループとともにスーパーグリッド構想を推進する中国送電大手の国家電網と韓国電力公社も日本への電力輸出事業に参加するとの見通しを示した。

日本の現行法では海外の送電網との接続を想定しておらず、事業の実現には法改正が必要になる。政府内では同盟国・米国とシリア問題などで対立を深めるロシアに電力を依存することを懸念する声も少なくない。

それでも、ロシアからの電力輸入には「日ロをつなぐという政治的、象徴的な観点から大きな意味がある」(日本外務省幹部)。12月に山口県で予定する日ロ首脳会談で北方領土問題の解決に向けた進展がみられれば、事業は一気に実現に向けて動き出すとの見方も出ている。

(モスクワ支局 田中孝幸)

[日経産業新聞2016年11月1日付]

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