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17年が正念場 世界で勝負「日の丸フィンテック」

ITpro

金融とテクノロジーを大胆に"かけ算"するFinTech(フィンテック)の潮流が、さらにスピードアップしている。米国で産声を上げた巨大革命は、すぐさま世界を覆い尽くした。イノベーションの担い手は多くがフレッシュなスタートアップ企業だが、既存の金融機関も貪欲に最新テクノロジーを学び、主体的に変身を遂げようともがいている。

もちろん日本市場も蚊帳の外ではない。商機到来とにらんだFinTech企業が相次ぎ生まれ、潤沢な資金が流れ込んで勢いを増すばかり。2016年は10億円超の大型投資が相次いだ。金融監督当局である金融庁も、FinTech時代に乗り遅れないよう舵を切る。銀行法改正を国会に提出し5月に成立させたほか、問い合わせ窓口「FinTechサポートデスク」を設置。斬新なサービスを開始したい金融機関の支援役を買って出る。

FinTech革命の特徴は、世界同時で変化が進行し日本にも世界で勝負するチャンスがある点だ。ネット産業において、日本企業の多くがシリコンバレー流の後追いに終始した。金融革命では日本がリードできるか――。2017年は、真の意味で日本流のFinTechをグローバルスタンダードへと"昇華"させるための正念場になりそうだ。

SBI北尾氏が見つけた「金の卵」

SBIホールディングスは国産ロボアドバイザー技術を持つウェルスナビに出資した

「日本発のFinTech技術は、世界で十分通じるとの感触がある」。10月、都内で開かれた記者会見で、SBIホールディングスの北尾吉孝・代表取締役執行役員社長は興奮気味にこう語った。コンピューターが資産運用を助言するロボアドバイザーで独自技術を持つウェルスナビ(東京・千代田)へグループとして出資すると同時に、業務提携契約を締結したのだ。

「北米を含めて数々のロボアドバイザーを手掛けるスタートアップを精査してきたが、最も卓越した技術を持つ企業を日本で見つけられた」(北尾社長)。ウェルスナビを活用したモデルケースとなる新しい金融サービスを自ら作り上げ、全国の地銀にも採用を呼びかける計画。こうして完成した「FinTechエコシステム(生態系)」を携えて、目指すのはアジア。成功例として海外へ「輸出」し、日本の流儀を根付かせるという野望を掲げる。

2016年は、金融機関とFinTech企業などがタッグを組むケースが相次いだ1年である。1月には三井住友カードがFinTech関連の米ベンチャーファンドに出資し、7月には三菱東京UFJ銀行が米国の仮想通貨取引所運営会社に出資、9月にはみずほ銀行がソフトバンクと個人向け融資を手掛ける金融会社を合弁で立ち上げると発表している。SBIホールディングスグループの場合、2015年に設立した総額300億円の「FinTechファンド」を通じて、FinTech企業を中心に27社へ120億円超の投資を決定済みだ。

魅力的な技術でFinTech革命の主導権を握りたい金融機関。一方、独自技術を一気に金融の世界で普及させたいFinTech企業。両者の思惑が一致したこのタイミングだからこそ、タッグが相次ぐのだろう。日本の金融市場は、FinTechによってちょっとしたゴールドラッシュに沸いていると言っていい。15年は約70億円だった国内FinTech投資総額は、16年は前年実績を大きく上回るのは確実だとされる。

ただ、日本式のFinTechエコシステムをグローバルスタンダードへと昇華させるには、まだまだ現状では不十分だとの見方も少なくない。というのも15年の世界全体のFinTech投資総額において、日本向けが占める比率は0.3%に過ぎないからだ。少々のペースアップでは、米国の先行を許す事態になりかねない。

最も勢いがあるのが中国市場だ。FinTech企業が手掛ける融資サービスの伸び率を比較すると、15年時点で米国の361億7000万ドル(前年比213%増)に対して、中国は1006億9000万ドル(同319%増)。文字通り"桁違い"のマネーが市場に流れ込んで金融革命が進んでいる。

金融庁も現状をよく理解している。そこで、正念場となる17年に向けてアクセルを強める姿勢を明確にしている。10月、平成28年度の「金融行政方針」を発表。例年この時期に翌年度に金融行政が何を目指すか明確にすべく策定している報告書で、平成27年度版で初めてFinTechについて言及した。平成28年度版は報告書の中で昨年から倍増の4ページを割く力の入れよう。法制面の対応やオープンイノベーションの必要性、決済システムの高度化などより突っ込んだ内容になっている。

金融庁総務企画局参事官の油布志行氏は「従来の我々は、FinTechのイニシアティブに対してハードルになっていた。合理的に考えて緩めるべきものがあれば、一つでも二つでも取り除いていく」と語る。取り組みの手を緩めるつもりは毛頭ない。

ブロックチェーンで世界のイニシアティブ握れ

FinTechで実現する革新的なサービスのアイデアは多々あるが、関係者が口を揃えてそのために必須の技術として熱い視線を注いでいるのが「ブロックチェーン」である。仮想通貨の取り引きを支える基盤技術であり、これまでの中央集権的な金融の常識を根底から崩すものだからだ。

銀行や保険会社が手掛ける金融サービスは、中央銀行や特定の企業など一つの機関が責任を持って取り引きを運用・管理している。ところがブロックチェーンを使うと、世界中に散らばったコンピューターが連携して運用・管理できるようになる。特定の企業に頼らずに済むわけだ。中央銀行に頼らない形で、ブロックチェーンによって新通貨を発行してしまった先行例が、ビットコインである。

集中から分散へ――。いち早くブロックチェーンによってお金の流れが変わる可能性が高いのが、送金の分野である。

ブロックチェーンを使った新送金サービスを目指すコンソーシアムが42の金融機関によって設立された

10月、42もの国内金融機関の幹部クラスが東京・六本木に一堂に会した。「国内外為替の一元化検討に関するコンソーシアム」の設立を宣言する会合に出席するためである。会議のテーブルには、みずほフィナンシャルグループ、りそな銀行、三井住友信託銀行、セブン銀行、足利銀行、広島銀行といった顔ぶれがずらりと並んだ。

このコンソーシアムでは、ブロックチェーン技術に頼ることで、今までにない安価な国内送金や海外送金サービスを実現することを目指す。米リップルラボが開発したブロックチェーンベースの送金技術「リップルコネクト」を活用する。国内送金にも利用できるような環境を作り上げるとしており、参加行はコンソーシアムのシステムにつなぐだけで新しい送金サービスを展開可能になる。

現在多くの銀行は、国内送金に関しては全国銀行データ通信システム(全銀システム)を、国際送金については国際銀行間通信協会(SWIFT)を使っている。リップルコネクトによってこうしたネットワークを迂回可能になる。銀行が負担する送金手数料が従来の半分や10分の1に圧縮されるという。早ければ2017年6月にも、商用サービスを開始する銀行が出てくる見通しだ。

こうした動きを踏まえ、国内FinTech企業も世界に通用するブロックチェーン技術の開発に余念がない。例えば仮想通貨取引所を運営するテックビューロ(大阪市)は、ブロックチェーンをプライベートな環境で安全かつ高速に活用する独自技術「mijin」を開発済み。Orb(東京・新宿)も、取引速度が遅いとされるブロックチェーンの弱点を克服するシステムの機能強化に日夜励んでいる。

こうした国産ブロックチェーン技術で世界のイニシアティブを握ろうと、国内関係者の力を結集させる動きも出てきている。

16年4月、業界団体として「ブロックチェーン推進協会(BCCC)」と「日本ブロックチェーン協会(JBA)」が相次ぎ設立された。BCCCはブロックチェーンの実証実験や開発情報の共有など技術関連の支援を目指す。一方のJBAは仮想通貨の利用規制への対応や政策提言など、普及に当たって立ちはだかる障害を取り除こうと考えている。協力と競合がうまくバランスが取れた形で参加企業が腕を磨き合えば、十分世界を狙える。

現在のFinTech革命の過熱ぶりを、2000年前後の「ドットコムバブル」になぞらえる向きがある。確かに米国FinTech企業の代表格であるレンディングクラブが不祥事を起こすなど"ゆがみ"が生じているのも事実だ。

ただ、特に日本における空気感を冷静に分析すれば、当時のように画餅を売る怪しいプレーヤーが入り乱れる状況というよりは、消費者の利便性を着実に高める斬新なサービスを作ろうと、既存金融機関とFinTech企業が"汗をかく"様子が目立つ。この姿勢を貫き続けるならば、FinTech革命はしばらく弾けることはなさそうだ。

(日経FinTech 高田学也)

【参考】日経BP社は2016年10月22日、書籍「日経テクノロジ―展望2017 世界を変える100の技術」を発行。2017年に実用化が進む100の有望テクノロジーを厳選し、そのインパクトを簡潔に紹介。

日経テクノロジ―展望2017 世界を変える100の技術

著者 :日経BP社
出版 : 日経BP社
価格 : 2,376円 (税込み)

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