粉々にならない? ももクロ・高城れにが挑む江戸切子
ももクロVS伝統工芸/高城れに、「江戸切子」に挑戦(1)
「難しそうですね。悲惨なこと

になりそう……」ももクロの高城れにさんが挑むのは東京の伝統工芸「江戸切子」。説明を受けるほどに不安の色を隠せなくなる高城さん。ダイヤモンドカッターを使ってガラスを削る作業に「できるかなあ、粉々にならないかな……」不安げな表情のまま作業台に座りました。日本の伝統工芸に「ももいろクローバーZ」が挑戦する連載「ももいろトラディショナル」(ももトラ)の第3シーズンのスタートです。
江戸切子作りのキモ「三番掛け」に挑戦
日本全国を股にかけドームツアーやスタジアムライブを行う一方で、子ども同伴で楽しむ親子ライブを開催するなど、幅広い層に愛される5人組アイドルグループのももいろクローバーZ(ももクロ)。彼女たちが「日本の伝統」に挑む連載「ももいろトラディショナル」の第3シーズンは、いつも笑顔でちょっぴり不思議キャラの最年長メンバー・高城れに(たかぎ・れに)さんが「江戸切子」を体験します。グループでもとりわけ元気なイメージの高城さん。繊細さが求められる江戸切子で思うような細工ができるでしょうか。
江戸切子に挑戦するために、高城さんが訪ねたのは、江東区の亀戸。スカイツリーを間近に臨める、下町風情の残るエリアでちゃきちゃきの江戸っ子もたくさんいるこの地域には江戸切子の工房が数多くあるそうです。
江戸切子は江戸時代後期に生まれたと伝えられています。明治時代には政府によって製作所が設立され、西洋の技術などを取り入れながら発展・発達。昭和60年(1985年)に東京都「伝統工芸品産業」に、平成14年(2002年)には国の「伝統的工芸品」に指定されました。
江戸切子協同組合のホームページを見ると、その製造工程が説明されています。工程は以下の6段階(ただしガラスの素材などによって工程が違ってくるそうですが)。
2 大まかなデザインを決めて削る「粗摺り(あらずり)」
3 粗摺りを元により細かく滑らかにカットしデザインを完成させる「三番掛け」
4 カット面をさらに滑らかに仕上げる「石掛け」
5 研磨剤をつけてカット面の光沢を出す「磨き」
6 フェルトや綿などの繊維を研磨剤として用いる磨きの仕上げ作業「バフ掛け」
この中で、高城さんが挑戦するのは、作品のキモともいえる「三番掛け」です。
「お店とかで見たら、普通に欲しくなっちゃいます」

今回、高城さんが江戸切子造りを体験するために訪れたのは、亀戸にある根本硝子(ガラス)工芸。
根本硝子工芸は昭和34年(1959年)に設立しました。設立した根本幸雄氏は「現代の名工」の認定を受けるほか、平成21年(2009年)に黄綬褒章を受章するなど、江戸切子を代表する匠です。現在は、幸雄氏の実子である達也さん(伝統工芸品産業振興協会会長認定伝統工芸士<国の伝統工芸士>)が工房を受け継いでいます。伝統的な図柄と新しいアイデアを組み合わせたデザイン性や芸術性の高い作風で定評があり、メディアにも多数取り上げられている工房です。
作業場の隣にある事務所の一角には、きれいな江戸切子が並ぶショーケースがあります。並ぶ作品を見た高城さん、「色は何種類くらいあるんですか? すごくキレイですね」と感激した様子。「お店とかで見たら、普通に欲しくなっちゃいます」とキレイなものにときめく女の子心をくすぐられたようです。


江戸切子といえば、伝統的な青(瑠璃)と赤(銅赤)が有名ですが、現在ではどんな色も作れるようになっているとのこと。より色あざやかで美しい作品が増えているそうです。
実際に作品を見学したあと、いよいよ作業場へと向かいます。たくさんの機械が並ぶ光景を見て「うわ、なんか緊張してきた……」とビビりながら高城さんは足を踏み入れました。

「悲惨なことになりそう……」
作業場で高城さんを出迎えたのは、達也さんの実子であり、平成生まれの幹大(みきひろ)さん。現在、根本硝子工芸は、達也さんと幹大さんの2人で作業しています。

今どきの若者で親しみやすそうな雰囲気に、高城さんもホッとした様子。さっそく今日体験する「三番掛け」について教えてもらいます。
今回チャレンジするのは幸雄さんがデザインした「しずく」。根本硝子工芸の中でも1、2を争う人気製品です。

写真の1番右が何も手が加えられてないガラスのコップ。真ん中は「割り出し」で線を引いたところに「粗摺り」をしたもの。そして左側が完成した「しずく」です。
今回、高城さんは真ん中コップを使って、くぼみの部分をより深く滑らかに「削る」、伝統的な模様の細やかな直線を「彫る」の2つの作業に挑みます。
説明を受けるほど、「難しそうですね。悲惨なことになりそう……」と不安の色を隠せない高城さん。
「大丈夫ですよ。最初は手伝いますから」と励ます幹大さん。
さて、うまくいくのでしょうか。
「削りすぎて割れちゃったりしませんか?」
「しずく」にはグラスを囲むように同じ模様が6つ描かれています。まずはそのデザインの中央に位置するしずく型のくぼみのうち3つを高城さんが削ります。

まずは幹大さんがお手本を披露。

高城れにさん 削られて色が変わっていくのが見えます(興奮)! ダイヤモンドがついた円盤(ホイールカッター)で削るんですよね、削りすぎて割れちゃったりしませんか?
根本幹大さん このグラスはクリスタルガラスで厚みがあるから削りすぎることはまずないですよ。
いざ、作業台について実演です。

高城さん このくぼみのところですよね。すごく難しそう……。できるかなあ、粉々にならないか心配(不安顔)。
幹大さん 今回のグラスは高城さんに合わせて紫を選んだんですが、色が濃い分、先が見えにくい。透明なガラスに比べて削るのが難しい色なんです。でも、僕も手伝うし、慌てずにじっくりやれば大丈夫ですから頑張ってください。
根本さんがスイッチを入れると、ダイヤモンドがついたホイールカッターが音を立てて回転し始めます。そこにおっかなびっくりくぼみを当てていく高城さん。

高城さん あ~、息が止まりそう(笑)。けっこう力を入れないと削れないものなんですね。
幹大さん 細かい作業だけど、案外、力がいる仕事でもあるんですよ。
高城さん あれ、こんなところに(ホイールが)当たってるの? 真ん中だと思ったのに、ズレてる……。
幹大さん グラスに厚みがあるし湾曲しているから、見ているのと削るのとでは微妙にずれるんです。そのズレを自分の中で修正して削るのがコツだし、腕ですね。
高城さん そうなんですね。距離感をつかむのが難しい(汗)。
次第に言葉少なく、真剣な表情で削る高城さん。それを見守りつつ、的確にアドバイスを出す幹大さん。静かな中に心地よい緊張感が漂います。

「やっていくうちにどんどん楽しくなってきました」
一つずつくぼみを削っていった高城さん。初めは3つだけ削る予定が、自分から進んですべてを削っていきます。
高城さん だんだん楽しくなってきた。
なんとかすべてのくぼみを削り終えた高木さん。幹大さんにおそるおそる感想を聞きます。
高城さん ど、どうでしたか……?
幹大さん 初めてのわりにお世辞抜きにうまく彫れてると思います。いい感じですよ!
高城さん ホントですか(喜)。やっていくうちに少しだけ『こうやればいいのかな』って感覚がつかめたかもって瞬間がありました。
ずいぶん緊張していたみたいですが。
高城さん ものすごく緊張したけど、どんどん夢中になっちゃって楽しかったです。いい感じってほめられたし!

その様子を動画でご覧ください。
◇ ◇ ◇
次回は、グラスの上部に伝統的な図柄の一つ「菊繋(つな)ぎ文」を彫る作業にチャレンジします。

高城さん 手作りの、世界で一つの私だけのグラスだからきれいに彫れるといいなー。
【「今度こそ粉々になっちゃいそう」と高城さんが挑む第2回はコチラ】
【第3シーズン】高城れにVS江戸切子(東京都)
第1回 粉々にならない? ももクロ・高城れにが挑む江戸切子
第2回 「江戸切子」に見た「ももクロ」長続きのヒント
第3回 ももクロと伝統工芸 共通項は「応援してくれる人」
第4回 ももクロ・高城れに あ、はみ出したところが残ってる
【第1シーズン】佐々木彩夏VS越前漆器(福井県)
【第2シーズン】玉井詩織VS万祝(千葉県)
【第4シーズン】有安杏果VS笠間焼(茨城県)
百田夏菜子、玉井詩織、高城れに、有安杏果、佐々木彩夏で構成されるアイドルグループ。2008年5月に結成(当時のグループ名は「ももいろクローバー」)。観客数十人の路上ライブからスタートし、わずか6年で国立競技場ライブを実現。大会場のコンサートと並行して、小さな会場でのライブやユニークなイベントなども積極的に企画、ファンを驚かせ、楽しませている。
高城れに
1993年6月21日生まれ。神奈川県出身。2007年、中学2年生のときにスカウトされ、スターダストプロモーション入り。07年、ももいろクローバーの立ち上げ時から参加するグループ最年長。イメージカラーはパープル。愛称は「れにちゃん」。
デビュー当時のコンセプトが実は「和をモチーフにしたアイドル」だった彼女たちが、日本の伝統工芸を学ぶ連載。メンバーが伝統工芸の仕事現場を訪れ、作る過程を勉強し、実際にもの作りを体験。さらにその道で頑張っている同世代の若者と夢や目標を語り合うという詰め込みすぎな企画です。
(文 橘川有子/写真 佐藤久/ヘアメイク なかじぃ=kind/企画協力 佐々木健二=ジェイクランプ)
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