とり過ぎ防ぐ「スマート漁業」 海のIoTで実現
到来、無人船時代(下)

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2016/11/17 6:30
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■水中の可視化でとり過ぎ防ぐ

船上に設置できるカメラやセンサーが充実し、IoT環境の整備が進むと、海で起きていることを多くの人々が容易に把握できる環境が生まれる。これは物流システムだけではなく、さらに別の分野でも新しい応用分野を切り開くことになる。

例えば、漁業のスマート化、いわゆる「スマート漁業」だ。インターネット環境を利用して船上で飲食店からの注文を受け付け、確実に需要のある魚を必要な量だけとるというようなモデルである。漁師の経験と勘に頼った「出漁してみなければ、漁獲量が分からない」から脱却し、より効率的な漁が可能になるとの見方は強い。

いずれは、多くの漁船が連携して各船に載せた魚群探知機の情報を一元管理する取り組みが実現するかもれない。グローバルな魚の分布を可視化することで効率的な漁を可能にするわけだ。

実際、IoT関連サービスを手掛ける米国のスタートアップ企業、EverySenseは、IoTで漁業の生産性を向上するための研究開発に取り組んでいる。無線LAN(Wi-Fi)や衛星通信で魚群探知機を通信ネットワークでつなぎ、船団内で情報を共有できるようにする。これを漁の効率化につなげる狙いだ。さらに同社は、海上にいる船舶や観測衛星が収集する水温や水質、潮流といった情報を関連事業者が共有することで、漁場の情報を可視化できるようなプラットフォームを構築していく考えだ。

国内でも、東日本大震災からの復興事業などを手掛ける東松島みらいとし機構は、KDDI総合研究所や早稲田大学などと共同で、海上のブイにカメラを取り付け、それを漁業に活用するための技術を開発している。水中の画像データや海洋気象データ、実際の漁獲量を解析し、翌日の漁獲量を予測することを目指している。この漁獲量予測を飲食店などに提供し、需要のある魚を産地直送で販売するビジネスにつなげていく考えだ。

スマート漁業の実現は漁の非効率性を解消するだけではなく、魚の乱獲防止という環境保護の観点でも大きな役割を果たす。近年、適切な漁獲量を守り、環境に配慮した漁業者を認証する取り組みが国際的に活発になっていることが背景にある。

例えば、海洋管理協議会(Marine Stewardship Council、MSC)の「MSCマーク」は代表例だ。MSCマークは「海のエコラベル」と呼ばれ、持続可能な将来にわたる水産資源の維持を目的にした取り組みである。実は、2012年のロンドン五輪から、五輪大会ではMSCの認証を受けた水産物のみを選手村などで提供している。2020年の東京五輪でもMSCマークの取得が必須となれば、IoTによるスマート漁業がブランド力の強化で大きく効力を発揮するだろう。

■海洋調査の専用船が不要に

海底資源探査や海底地形観測の現場でも、海上のIoT環境の整備が効力を発揮する。海の底には、様々な価値ある情報が眠っている。日本近海で多数発見されているレアメタルメタンハイドレートなどの資源の分布や、多発する地震の兆候を示す地殻変動などだ。

ただ、従来は調査時に収集したデータを陸上に持ってきてから解析する流れが一般的だったため、解析結果を得るまでに時間が掛かることが課題になっていた。研究者が調査時のために長期間を海上で過ごすことも一般的で、それによってかかる経費や、特殊な環境下での生活による負担が課題だった。調査船と陸との間でリアルタイムにデータのやり取りができれば、この状況が大きく変わる。研究者は陸にいながら海中の動画を見たり、無人探査機を操作したりできるようになる。既に、このような環境の実現を目指したIoT技術の研究開発が始まっている。

情報通信研究機構(NICT)は、海洋研究開発機構(JAMSTEC)などと連携し、高速衛星通信を用いて海洋資源調査の効率化を目指す研究に取り組んでいる。この研究は、内閣府が2014年に始めた研究プロジェクト「海のジパング計画」の一環だ。海中に潜水して海底の様子を詳細に調べる自律型無人探査機(AUV)の情報を、陸の調査拠点と高速にやり取りするための技術確立を目指す。具体的には、AUVと陸との情報通信を仲介する洋上中継器(ASV)に搭載する高速な衛星通信装置を開発する。

海底地形観測の分野では、観測のための専用船すら不要にするような技術の研究が始まっている。

高知県室戸岬沖に設置したGPS津波計。東京大学地震研究所が日立造船や港湾空港技術研究所などと共同で開発した(写真:東京大学地震研究所 加藤照之教授提供)

高知県室戸岬沖に設置したGPS津波計。東京大学地震研究所が日立造船や港湾空港技術研究所などと共同で開発した(写真:東京大学地震研究所 加藤照之教授提供)

東京大学地震研究所は、名古屋大学や高知工業高専、NICTなどと共同で、GPSと音響測距システムを搭載するブイで海底の地殻変動を観測するための基礎研究を開始した。これは、海面変位を計測して津波を検知する「GPS津波計」と呼ばれるブイを活用するもの。目標は、観測した海底地形などの情報を、衛星通信を用いて高速に陸へリアルタイムに送信することだ。このブイを海岸から数十~数百km離れた洋上に数多く配置することで、広域で継続的に調査できる観測ネットワークの構築を目指す。

いずれは専用観測船ではなく、一般商船などがモノや人を運ぶ途中で、これらの情報を観測し、リアルタイムに陸と共有する時代が来るかもしれない。これが実現すれば、データの観測点はかなり大幅に増える。商船側が観測に協力するインセンティブを用意する必要はあるが、これまで以上に柔軟で効率的な調査が具現化する可能性を秘めている。

■社会システムの大きな変革を伴う

もちろん、全地球IoT網の実現には課題も多い。インターネットをほとんど使っていないところに新たに導入する取り組みは、社会システムの大きな変革を伴う可能性が高いからだ。

例えば、セキュリティー対策は最も分かりやすい例だ。船舶の運航にかかわる情報は、海賊やテロリストのような悪意ある人々にとっても有用である可能性が高い。前編で紹介した英Rolls-Royce Holdingsの自律航行船のような例では、運航システムのハッキングによる乗っ取り(シージャック)の懸念もある。

さらに、データを提供する船の運用者と、データを活用する企業が多対多で存在する産業構造が広がると、データの所有権をどう扱うかも課題として浮上してくるだろう。これを解決するには、海運関連のビジネスモデル全体が大きく変革することを想定した取り組みが必要だ。

ただし、ビジネス上の利点が目に見える形で現れてくれば、これらの課題は急速に解決する方向に向かっていきそうだ。インターネットの普及が進んだこの20年間でITが様々な産業に変革を迫ったのと同じように。陸上の様々な産業界で起きたIT革命は、海の上でも例外なく起こっていくだろう。

(日経テクノロジーオンライン 内山育海)

[日経テクノロジーオンライン2016年10月24日号の記事を再構成]

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