とり過ぎ防ぐ「スマート漁業」 海のIoTで実現
到来、無人船時代(下)

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2016/11/17 6:30
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標準規格は2つある。第1に、船内に設置するデータサーバーの仕様を定めた「ISO19847」。これは、センサーで計測したデータなどをデータベースに入出力するために必要な機能や、データ管理方法などを定義している。例えば、船内の各種機器からデータを収集した時刻の記述ルールを統一することで、異なる機器間のデータの関係を解析しやすくなる。

第2に各種データを一元管理するためのデータ形式を定めた「ISO19848」である。船舶で取得した各種データのヘッダー部分に記述する、船舶の固有IDやデータの分類などの標準仕様を定めている。ヘッダー部分の記述の仕様を統一することで、異なる船舶の異なるデータを同じ基準で扱えるようになる。

特に後者の「ISO19848」は、これまで海運企業や業界団体ごとに別々だった様々なデータ形式を包含することを想定している点が特徴だ。これによって、従来のデータを用いたまま新しい標準仕様へとスムーズに移行できるようにする狙いである。海上で得られる多種多様なデータを同一の基準で活用できる標準プラットフォームが生まれれば、IT業界などによる参入障壁がぐっと低くなる。多くの船で得たデータを同一の枠組みで扱う汎用性の高いシステムを構築しやすくなるからだ。

2件の国際標準は、日本の造船会社や舶用機器メーカーなどが組織する日本舶用工業会が策定を推進している。標準化作業に携わる寺崎電気産業の諸野普氏(システム事業 マーケティング部 シニアアドバイザー)は、「標準化で異業種が参入しやすくなれば、業界外の多様なノウハウが入ってくる。海事産業全体が大きく変わるだろう」と期待を寄せる。

日本舶用工業会でISOの標準化作業に携わる寺崎電気産業の諸野普氏。2016年7月に日本舶用工業会が開催した「舶用技術フォーラム」で講演した

日本舶用工業会でISOの標準化作業に携わる寺崎電気産業の諸野普氏。2016年7月に日本舶用工業会が開催した「舶用技術フォーラム」で講演した

国内では、2件の標準規格に対応することを前提としたデータセンターの稼働も始まった。日本海事協会(ClassNK)の子会社であるシップデータセンターが2016年4月に運用を始めた「シップデータセンター」である。現時点での利用企業は造船所や舶用機器メーカー、研究機関などを想定しているが、将来的にはより消費者に近い利用企業に対するデータの小売りを実現する可能性があるという。

シップデータセンター代表取締役社長の永留隆司氏は「船主や運航会社の枠を越えてデータを集約し、誰もがデータにアクセスできる基盤を整えながら、業界へのデータ活用の啓発を進めていきたい」と話す。

シップデータセンターの運用イメージ。多数の船舶から収集したデータをISO標準規格に沿って蓄積し、海運や造船会社などに提供する。(画像:シップデータセンター(日本海事協会))

シップデータセンターの運用イメージ。多数の船舶から収集したデータをISO標準規格に沿って蓄積し、海運や造船会社などに提供する。(画像:シップデータセンター(日本海事協会))

■顧客と貨物の距離感縮める

こうした技術面の整備が、海の上のビジネスに様々な業界の企業が参入することを活性化する。前編で紹介した海上物流システムの新サービスや効率化の取り組みは、代表的な例だ。宅配便で当たり前となっている荷物の追跡サービスを一般消費者向けに海上でも実現する取り組みや、陸上輸送から海上輸送までのスケジュールを一気通貫で全体最適化する企業向けのサービスなどである。

世界では、10万隻を超える商船が海上を運航している。この大量の船舶は、食品や機械、原油、天然ガス、鉄鉱石など実に多様な積荷を載せているが、これまで海上を動く膨大な数量のモノの様子は陸上からはほとんど把握できていなかった。それを可視化できるインパクトは大きい。

海上物流の新サービスを実現する技術は、必ずしも目新しいものである必要はない。海上の厳しい自然環境や、長期間にわたって簡単にはメンテナンスできない特殊な利用環境への対応は必要になるものの、既に陸上の荷物管理システムやトレーサビリティーシステムなどで用いている技術を応用可能だ。GPSや温度センサー、湿度センサーのように海上での利用実績がある計測装置も多い。

前編で紹介した海上で利用できるブロードバンド環境の整備によって、船上で取得したデータはいずれ陸上のクラウドサービスへとリアルタイムに送信できるようになっていくだろう。今後、海上ブローバンドがさらに高速で低価格になれば、船上に設置した定点カメラを用いて高解像度の動画や写真のような大容量データをリアルタイムに陸上のシステムに送信することも可能になっていく。

例えば、積み荷として乗せた高額な美術品の様子を動画で撮影し、購入者が常にWebサイトで状況を確認できるようなサービスは分かりやすい。動画で撮影した積荷の果物の色や糖度計の測定結果をリアルタイムに陸上で把握できれば、港から市場に陸送で到着する日時から逆算して糖度が最適になるように船上コンテナ内の温度を管理できるようになるかもしれない。

こうした海上におけるモノの管理に関するIoT環境の整備は、海運会社にとってトレーサビリティーによる物流の透明性確保や、物流の効率化を図る取り組みに活用できると同時に、顧客満足度を高めることにつながる可能性が高い。ある程度安価に利用できれば、オンラインショッピングやネットオークションの事業者が自社サービスのユーザー体験の向上を目的に導入しても不思議ではない。

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