とり過ぎ防ぐ「スマート漁業」 海のIoTで実現
到来、無人船時代(下)

(1/3ページ)
2016/11/17 6:30
保存
共有
印刷
その他

日経テクノロジーオンライン

英Rolls-Royce Holdingsなどが研究開発を進める、自律航行をする無人船が示す"真のインパクト"は、海上ブロードバンド環境の整備をきっかけに始まる「全地球IoT網」にある(前編参照)。海上におけるIoT(モノのインターネット化)ビジネスに異業種の参入を促進する国際標準化の動きや、海を舞台にイノベーションの創出を目指して様々な産業で進む技術開発の動向を紹介する。

海上でのIoT活用によって「全地球IoT網」を具現化する動きは、これまで想像できなかったスピードで進む可能性を秘めている。この分野のおけるこれからの主役は、海運や漁業といった関連ビジネスをこれまで手掛けてきた企業から、IT(情報技術)企業やエレクトロニクスメーカーのような、海とは縁のなかった異業種企業に移っていく可能性すらあるだろう。

こうした状況が進む理由は大きく2つある。

まず、インターネットを活用したクラウドサービスやWebサービス、スマートフォン(スマホ)といった、陸上で確立したIT関連の技術基盤をすぐに活用できること。海上の高速ブロードバンド環境がある程度整えば、一気にビジネスを加速できる状況にある。

そして、海上で得られる情報をいち早く囲い込んだ企業がビジネスを有利に進められる可能性が高いことも大きい。IoT環境の整備が進むことによって、ネット検索やソーシャルメディア、オンラインショッピングといった一般的なWebサービスに見られるビジネスのダイナミクスが海上のビジネスに持ち込まれるだろう。自動運転車の分野で米Google(グーグル)が大きな存在感を示していることは象徴的で、同様の状況が海に関連したビジネスで起きてもおかしくはない。

「船舶に関連したビジネスは、IT企業にとっては宝の山だ。特に物流の観点では、IT企業の持つAI(人工知能)やビッグデータ解析技術を応用することで船を利用する顧客が喜ぶサービスを創出できる。そのための情報を囲い込む競争がこれから始まる」と、東京大学名誉教授で船舶工学や社会システム・流通システムに詳しい宮田秀明氏(現・社会システムデザイン 社長)は見る。

■異分野の技術が活躍

船舶向けのクラウドサービスの開発プロジェクトを手掛ける富士通研究所の阿南泰三氏(左)と樋口博之氏

船舶向けのクラウドサービスの開発プロジェクトを手掛ける富士通研究所の阿南泰三氏(左)と樋口博之氏

こうした流れの中で、海上のIoT環境に商機を見出し、参入を目指すIT企業もある。富士通研究所は、2016年度中にも富士通のクラウド基盤を活用し、独自開発した解析技術を用いた船舶向けクラウドサービスの提供を始めたい考えだ。

この技術は、船舶の運航データを気象・海象情報と組み合わせて、船速や燃料消費量といった船舶性能が周辺の波風の状況によってどれだけ影響を受けるかを解析するもの。この解析結果を用いて燃料消費量の少ない運航ルートを提案したり、造船会社に船舶設計に役立つデータを提供したりできる。東京海洋大学と共同で行った実証実験の結果では、実海域における燃料消費や速度などの船舶性能を誤差5%以下と高い精度で推定できたという。

興味深いのは、この技術が全く海とは関係のない分野の技術開発の蓄積から生まれたことだ。富士通研究所は今回、かねて人口推計の分野に向けて研究開発を進めてきた高次元データの統計解析技術を船舶向けに応用した。

高次元統計解析技術は、自然現象のような多数のパラメーターから成る複雑な事象を、少ないサンプル数のデータからモデル化する手法だ。富士通研究所は、この手法を世帯主の年齢や収入、世帯人員数といった多数のパラメーターから成るデータと組み合わせ、人口の推計に応用してきた。今回は、多次元解析という共通点を見出して船舶性能の推定に応用した。

つまり、これまでの技術開発の蓄積がひょんなことから海上IoT分野に応用できたわけだ。この開発プロジェクトを手掛ける富士通研究所 応用研究センター ソーシャルイノベーション研究所 イノベーションディレクターの阿南泰三氏は、「このプロジェクトは、情報通信技術を使ってイノベーションを起こせるような新しい分野を探していたことから始まった。これから通信環境が向上する船舶の世界は、まさにAIやビッグデータ解析技術を応用できる場だと考えている。海運会社や造船会社と対話しながら、ビジネスの形を模索していく」と語る。

■"誰でも使える"ための標準化

IT業界をはじめとする異業種企業が海に関連したビジネスに参入する際に追い風となる技術開発が、ここにきて活発になっている。海上で得られたデータを多くの企業が共有することを目指す国際標準化の取り組みが、それだ。

船上では、既にGPS(全地球測位システム)やセンサー、計測装置を用いて、位置情報、波風、エンジンの燃料消費量や圧力・温度など多種多様なデータが計測されている。だが、これまでは船内装置の開発企業ごとにデータの形式や蓄積方法が異なっていた。「同一船内の機器であっても、データを一元管理することが難しい」とまで言われるほどだったのだ。このため、業界の外で活動する企業が新たに参入するハードルは極めて高かった。この状況が大きく変わろうとしている。

船舶ビッグデータに関するISOの標準規格案。船内でデータを収集するサーバーの仕様とデータ形式を標準化する。(画像:新スマートナビゲーションシステム研究会(日本舶用工業会))

船舶ビッグデータに関するISOの標準規格案。船内でデータを収集するサーバーの仕様とデータ形式を標準化する。(画像:新スマートナビゲーションシステム研究会(日本舶用工業会))

例えば、国際標準化機構(ISO)が現在策定中の船舶ビッグデータに関連する標準規格は代表的な例の1つだ。船内のシステムや、海上で得られるデータ形式の標準仕様を定めることで、様々な企業がデータを活用しやすくすることが狙いである。

既に標準化作業は最終局面を迎えており、2017年3~8月に行われる国際規格案(DIS)への投票後に最終国際規格案(FDIS)として仕様がほぼ固まる見込みで、実際の製品化にゴーサインが出る。

  • 1
  • 2
  • 3
  • 次へ
保存
共有
印刷
その他

日経BPの関連記事

関連企業・業界 日経会社情報DIGITAL

電子版トップ



[PR]