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[FT]米当局が注視するAT&T買収審査(社説)

2016/10/25 15:54
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Financial Times

米通信大手のAT&Tの歴史は反競争的行為の告発とは無縁ではない。30年前には、同社の通信部門の独占が問題となり、米政府の命令によって競合する地域電話会社へと分割された。直近では、米メディア大手のタイムワーナーを総額850億ドル(約8兆8600億円)で買収することが決まり、いわゆる「マ・ベル」(母なる電話会社=AT&Tの愛称)は再び米独占禁止法の遵守を監視する当局者の関心を集めている。

AT&T以外にもこれまで、垂直統合戦略を推進するためにテレビ番組や映画のコンテンツ供給会社の買収をめざす通信大手は存在していた。米消費者はいまだに、米ケーブルテレビ最大手コムキャストによる総額300億ドルのNBCユニバーサルの買収について納得できないでいる。この案件は、延々とつづいた独禁当局による調査と詳細な違反行為の検証を経て、2013年にようやく成立した。

垂直的統合は、従来から競合している系列会社を合併するよりも懸念が少ない。だが、憂慮されるのは、買収企業がコンテンツ所有権を利用して自社ユーザーを優遇し、顧客の選択権を制限できうる点だ。その結果、ユーザーが支払う料金の上昇を招く。AT&Tが1億人を超える携帯電話契約者を持ち、米ケーブルテレビ大手HBOが所有するスタジオコンテンツや、バットマン、ハリー・ポッターなどのヒット作品へのアクセスを阻害する可能性があることを考えると重大な問題である。

統合案件は言うまでもなく反競争的であってはならない。理論上は、買収企業が自社の顧客を優遇することなしに買収の相乗効果を得ることはあり得る。アナリストによると、新規オーナーが固定回線からモバイルまでを網羅する統合パッケージサービスを視聴者に提供するという賢明なアプローチも考えられるという。有効なソフトウエアと組み合わせれば、広告主は、消費者が電話、テレビ、インターネットのいずれを使用しているかにかかわらず彼らをターゲットにできる。

こうした考え方はいくつかの最近の買収案件の根底にある。例えば、今年5月に成立した米通信大手ベライゾン・コミュニケーションズによるインターネット大手AOLの買収や、同じくベライゾンのヤフー買収計画などがある。だが不透明感が残るのは、これらの買収戦略の正確な金銭的価値であり、さらに重要なのは、AT&Tなどの買収企業が支払わなければならない膨大な買収プレミアムを相殺できるかどうかという問題である。

AT&Tの買収はすでに政治家から好意的とはいえない関心を集めている。次にどういう事態が起こるのか、その言外の意味を規制当局は注意を払うべきである。コムキャストとNBCユニバーサルの合併は長期にわたる当局の検証対象となり、競合相手のネットワークを差別しない旨の協定を結ぶ必要があった。確かに、観測筋はおおむね、合併以降は料金の法外な上昇を招いた事実はないとみている。だが規制当局は、NBCの買収が消費者に不利な結果を招くことのないように慎重に見極める必要がある。

一方で、通信部門の統合を擁護する理由もいくつかある。通信会社、とりわけケーブルテレビ事業者は、視聴者がネット動画サービスにシフトする「コードカッティング」(CATV解約)という動きによって彼らの通信ネットワークへのアクセスが大幅に低下することを恐れている。今年の第2四半期だけで米視聴者が83万4000人の純減となった結果、テレビ視聴料収入が低下した。一つには、独占配信コンテンツへの関心が高まったことによる。さらに、モバイルサービスの存在も大きい。高速通信ネットワークへの積極的投資を行った通信事業者は接続料収入だけに依存するつもりはなく、一方のコンテンツ業者は主として広域ネットワークを通じた映像配信サービスからの収入の大部分を懐に入れることができる。

AT&Tの携帯向けコンテンツに重点を置く戦略は国内視聴者にとっては朗報だろう。この戦略によって視聴者を高価格で低品質のサービスに追いやったケーブルテレビ独占事業を一気に終わらせることもできよう。ただし、規制当局は視聴者が現在直面している不利な状況よりも買収のほうがまだ良いことを保証する必要がある。通信ネットワークがコンテンツ事業を所有することはいまや不可避なのかもしれない。だが、当局者は消費者の利益となる結果をもたらす義務がある。

(2016年10月25日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

(c) The Financial Times Limited 2016. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

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