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ゲノム編集で不妊治療 期待の裏には倫理問題

日経サイエンス

遺伝子の狙った部分をピンポイントで書き換えできる「ゲノム編集」と呼ばれる新技術は、農作物の品種改良や医薬品の開発など幅広い分野への応用研究が世界的に非常に活発になっている。医療分野では遺伝子の異常がもとで生じる遺伝子疾患への応用が有望視されているが、もう1つ、将来、広まる可能性が高いのは不妊治療、とりわけ男性不妊の治療だ。

不妊治療は巨大ビジネス

精子を作る過程で遺伝子異常による問題が生じると、男性不妊の原因になる。そこで精子を作る幹細胞に生じた異常をゲノム編集技術を用いて修正してから患者に戻せば、正常な精子が生み出され、男性不妊を根本的に治療できる。

現在、米ピッツバーグ大学のカイル・オーウィグ教授らは、マウスを使った動物実験の実施を検討している。教授によると、精子を作る幹細胞の移植だけなら20年前からすでに行われており、動物実験としては難易度が高いものではないという。

生殖医学の領域では、技術革新がいち早く実際の治療に取り入れられてきた。不妊治療は巨大ビジネスでもある。治療法が限定的な何万人もの乏精子症男性にとっても、体外受精産業にとっても、魅力的な治療法となる。体外受精は米国では推定20億ドル(昨年)、世界的にはその10倍を超える巨大ビジネスだ。

治療法の認可には、有効性と安全性を示す証拠が必要となる。ゲノム編集の治療を行う場合にも同様の証拠が求められるとみられるが、オーウィグ教授などの研究室がひとたび手順を開発すれば、それに基づいて世界のどの体外受精クリニックが一線を越えてもおかしくない。先陣を切るのは、ヒトゲノム編集の初期段階の実験(誕生したわけではないものの)を報告した中国かもしれない。

倫理的な問題はこれから

しかし精子という生殖細胞に対するゲノム編集は、現代生物学において踏みとどまるべきだと考えられてきた最も明確な一線を越えることになる。それはヒトの遺伝情報を書き換えて、子孫に伝えるということだ。大げさに言えば、ゲノムを人為的に改変した新人類が誕生する。

「そうした遺伝子操作は倫理的に一線を越える」という一般社会の懸念を、一部の科学者は「技術はそこまで発展していない」と説明して鎮めようとしている。だが別の科学者は、まもなく一線が踏み越えられるとみている。

(詳細は25日発売の日経サイエンス2016年12月号に掲載)

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