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センサー、ドローンで精密管理 IoTで「農業革命」

ITpro

農業の競争力強化が叫ばれているなかで、ICT(情報通信技術)への期待が高まっている。金融とテクノロジーの融合を「FinTech(フィンテック)」と呼ぶように、農業とテクノロジーの融合を「AgTech(アグテック)」と呼ぶことがある。2017年はAgTechへの取組みが進む。

とりわけ、センサーを駆使することから、農業のIoT(モノのインターネット化)適用とみることもできる。センサーやドローン、クラウド、モバイルデバイスを動員し、農業を変えていこうというわけだ。

ドローンで「精密農業」が可能に

コンピューター制御によって自律飛行するドローン(無人航空機)は、様々な分野で利用が始まっており、「農業ドローン」はその一つである。農薬散布とリモートセンシングに期待が集まっている。ドローンの農業への適用は緒に就いたばかりだが、2017年には具体例が続々と出てきそうだ。

ドローンによる農薬散布の運行基準「マルチローター式小型無人機による農薬散布のための安全対策に関する運行基準(暫定)」が2016年3月に定まり、ドローンメーカーが参入できる土壌が整ったことが大きい。これを受け、エンルートや中国DJIなどドローンメーカーの参入が相次いでいる。

ドローンは小回りが利くため、狭小農地でも使えるし、事前に空撮して生育状況を観察した上で、まくべきところにまける。小型低価格のタイプであれば、各農家が機体を保有できる。農薬散布向け無人航空機の分野では長らく、産業用無人ヘリコプターが使われてきたが、地上の操縦者や補助者と無人ヘリコプターの間に十分な距離を取る必要があり、一定の広さがある農地でないと使えなかった。また、特定の時期に圃場(ほじょう)に向けて一様に散布するという使い方が中心だった。価格は1000万円ほどするため、農業協同組合や専門の防除業者でないと保有が難しかった。

もう一つの応用分野であるリモートセンシングは、稲などの生育状況の調査や深刻な被害をもたらす害虫の監視を空中から行うもの。農地の状態を観察し、状態に合わせて適切な量の肥料をまくなどして、収量と品質の向上を図るとともに、集めたデータを基に次年度以降の栽培計画を立てていく。こうした取り組みを「精密農業」と呼ぶ(図1)。

図1 セキュアドローン協議会が目指す「精密農業」のイメージ(出所:日経Robotics 2016年1月号)

例えば、稲の葉色を十二段階に分け、ドローンを使って撮影し、最適の収穫時期を探る取組みを、セキュアドローン協議会が国内有数の稲作地帯で知られる北海道旭川市の水稲圃場で進めている。近赤外線カメラや、複数の波長の画像を同時に取得できるマルチスペクトルイメージングセンサーをドローンに搭載し、葉色の段階を見極める。旭川市には「ゆめぴりか」というブランド米がある。その品質を保つには、肥料量に応じた最適収穫時期を判断しなければならない。葉色からそれを見極めるわけだ。

クラウドを利用して生産者を支援

精密農業にあたってはドローンのほか、センサーの利用も有効だ。例えば、人気の日本酒「獺祭(だっさい)」の製造元である旭酒造は、原料米を安定調達するために、山口県内で「山田錦」を生産する農家に「生産者支援クラウド」を導入してもらっている。

生産者支援クラウドとは、生産者がデータを収集・分析することを支援するクラウドコンピューティングサービスである。日々の作業実績や使用した農薬・肥料、稲の育成状況などに関するデータをタブレットやスマートフォン(スマホ)から入力し、記録・管理できる。データはクラウド事業者が用意するデータセンターに記録され、分析もそこでするので、農家は専用のコンピューターを用意しなくて済む。

さらに旭酒造は農家の水田にセンサーを設置し、気温や土壌の温度・水分といったデータを1時間ごとに自動収集し、定点カメラで生育の様子を1日1回撮影する取り組みを進めている。

これらのデータを蓄積・分析することで、最適な栽培手法を導き出し、農家に収穫量や品質を高めてもらうことを期待している。旭酒造が利用する生産者支援クラウドは富士通が提供する「Akisai」と呼ぶサービスである。富士通は自ら農業に乗り出した。2016年4月、オリックスや増田採種場と「スマートアグリカルチャー磐田」を設立し、静岡県磐田市に約10ヘクタールを確保して事業を開始した。

トヨタが農業IT管理ツールを提供

AgTechには様々な企業が参入している。すでにトヨタ自動車は2014年4月から、愛知県と石川県の米生産農業法人に農業IT管理ツール「豊作計画」を提供している。自動車工場における生産管理手法や工程改善ノウハウを応用し、農作業の効率化を狙う。

農作業の従事者にスマホやタブレットを配付し、システムが日々の作業計画を配信する。従事者は現場に着くと作業を始め、進捗を米セールスフォース・ドットコムのクラウドに反映していく。水田の位置や面積、品種といった「圃場データ」はクラウド上のデータベースにあらかじめ入れておく。

農業法人の管理者は毎日、その日の遅れを見ながら、翌日の作業を割り当てる。育苗から田起こし、代かき、田植え、農薬散布、除草、刈り取りといった稲作に欠かせない作業をそれぞれ工程として定義し、工場ではおなじみの基準リードタイムを設定している。つまり、豊作計画の仕組みはトヨタ流の工程管理そのものといえる。

ベンチャーも企業も参入している。SenSproutはセンサーのコストと電源供給の二つの課題に取り組み、インクジェットプリンターで印刷した紙がそのまま電子回路になる技術を活用する。振動や光、熱などの微弱なエネルギーを電気に変換する「エネルギーハーベスティング」技術と組み合わせ、競合他社では数万円していたセンサーを数千円で作り、農地へ導入していく。

タブレットやセンサーから得られた従事者の労働時間や位置情報、肥料配布量、収量などに加えて、米の「食味」のデータを収集する試みもある。農機大手のクボタは農業支援システム「KSAS」の中で、米に含まれるタンパク質と水分量を測定し、そこから食味を想定する(図2)。

図2 クボタの農業支援システム「KSAS」の仕組み(出所:日経エレクトロニクス 2015年12月号)

米のおいしさに大きな影響を与えるのはタンパク質含有率で、品種によるものの、おおむね5~10%だとおいしい米になるという。それより値が高いと硬く粘りが少なくなってしまう。取得したデータは、次回の農作業の改善に生かす。例えば、肥料の量を調整する。肥料に含まれる窒素の量がタンパク質含有率に大きな影響を与えるからだ。

コメの品質には水位・水温も大きく影響する。そうした水の管理は農作業時間の4分の1を占め、効率化の余地がある。NTTドコモは2015年5月、新潟市とITによる農業支援事業を手掛けるベジタリアなどと共に、新潟市内の22の大規模稲作農業生産者に水田センサーシステムを提供、その効果を実証するプロジェクトを始めた。

水田センサーシステムはベジタリアの子会社イーラボ・エクスペリエンスが開発した。水田の底と水面近くの空気中にセンサーを置き、両者の気圧差から水深を算出する。計測した水位・水温などはスマホやタブレットから確認できる。育成状況や環境によって、最適な水位や水温から外れると警告を発し、作業者に対応を促す。

野菜を専用の施設で栽培する植物工場もAgTechの一つと言える。通常の露地栽培とは異なり、植物工場では年に複数回収穫できる。

ドーム型の植物工場を手掛けるベンチャー、グランパは複数の植物工場の状況を遠隔地から一元管理し、温度や湿度など、生育環境が適切な水準で推移するように、設備を制御している。日立製作所の「植物工場生産支援クラウドサービス」を使い、植物工場に設置した各種センサーからデータを収集し、クラウド上で分析、その結果に基づいて空調や照明などを遠隔制御し、生産を支援する。製造業の生産現場で使われる「PLC(プログラマブル・ロジック・コントローラー)」を使い、毎分1000項目のデータを収集する。

平均体温を監視し牛の分娩事故防ぐ

酪農・畜産でもIoTやクラウドの利用が広がっている。大分県のベンチャー企業であるリモートは、牛の分娩監視・発見システム「モバイル牛温恵」を開発、NTTドコモと全国農業協同組合連合会(JA全農)がそれを全国展開している(図3)。

図3 牛の分娩兆候を見える化する「モバイル牛温恵」の仕組み(出所:日経コミュニケーション 2016年8月号)

2015年末時点で約600の畜産農家に導入されている。親牛の膣内に温度センサーを挿入し、通信ネットワークを経由して、親牛の体温データを5分間隔で送る。生産者はスマホで確認できる。体温の変化から24時間以内の分娩の兆候が見えてきた場合、システムが生産者に警告メールを通知する。

平均体温が0.5度下がったら警告を出す仕掛けだが、このルールを発見したことで高い確率で分娩予知が可能になった。モバイル牛温恵を導入した栃木県芳賀郡芳賀町のある畜産農家は「モバイル牛温恵なしでは分娩作業は進められない」と語っている。

これまで分娩に伴う和牛の死亡事故率は約5%と少なくなかった。分娩の予想は1週間から10日間、ずれることは当たり前で、分娩にかかわる業務の負荷が課題になっていた。モバイル牛温恵の初期導入コストは40万~50万円で、月額料金も5900円ほどかかるが、和牛の子牛は1頭70万~80万円するので分娩事故で牛を失うことを考えれば投資対効果がある。

日頃の牛の動きを把握する取り組みもある。北海道帯広市のベンチャー、ファームノートは2016年8月から、牛用のウエアラブルデバイス「Farmnote Color」を提供し始めた。牛の首に装着すれば。活動データをリアルタイムに収集し、クラウドに蓄積、牛の行動を解析できる。その結果から、発情や疾病兆候などを検知し、生産者のスマホに通知する。データ解析には人工知能(AI)の技術を利用している。

これに先立って同社はクラウドを使った牛群管理システム「Farmnote」を提供しており、すでに1300を超える農家が利用している。牛の識別番号をスマホに入力すると、生まれてからの病気や投薬などの履歴情報をその場で見ることができる。

(日経BPイノベーションICT研究所長 桔梗原富夫)

[書籍『世界を変える100の技術』の記事を再構成]

【参考】日経BP社は2016年10月22日、書籍「日経テクノロジ―展望2017 世界を変える100の技術」を発行。2017年に実用化が進む100の有望テクノロジーを厳選し、そのインパクトを簡潔に紹介。

日経テクノロジ―展望2017 世界を変える100の技術

著者 :日経BP社
出版 : 日経BP社
価格 : 2,376円 (税込み)

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