/

日本最速165キロ連発 日本ハム・大谷にみた心技体

編集委員 篠山正幸

「いやー、すごいわ165キロ。あそこまで打って投げて、ということをされると、練習するのがばかばかしくなってくる」。クライマックスシリーズ・ファイナルステージ優勝決定試合で抑えを務めた大谷翔平(日本ハム)の投球には同僚の中田翔もあきれるばかりだった。投打に桁外れの才能を示す大谷の限界はまだまだみえない。

松田を空振り三振に仕留めて拳を突き上げる大谷。この日は日本最速の165キロを3度も出した=共同

10月16日、日本ハムがソフトバンクを破って日本シリーズ進出を決めた試合、九回に抑え役で登板した大谷は自己記録を更新する日本球界最速の165キロをマークした。しかも3度。松田宣浩、吉村裕基、本多雄一の3人を空振り三振、空振り三振、遊ゴロに仕留めた。計15球のうち、速球が8球。

速球の最低速度は自身が9月に更新するまでの日本記録だった163キロ。8球の平均で164キロを超えた。短いイニングという条件下ではそれが大谷の"巡航速度"ということになる。ほかの球種もすごい。スライダーと思われる球が145キロ、フォークボールが151キロを計時した。

高揚感がいいパフォーマンス引き出した

打者3人を完璧に牛耳ったが、本人は満足してはいなかった。「投手大谷」の大歓声で迎えられ、高揚した気持ちが「いいパフォーマンスを出させてくれた」のだそうで「投げ心地としてはよくなかった。納得できる部分が少なかったので、もっともっとよくなるところの方が多い」と話した。いったいどこに課題が残っているのか、並の人間には想像もつかない。

登板までDHを務めた大谷に中田は「格好よかった」=共同

登板までDHで登場し、片手間でブルペンに入っていたことなどを考えると、その投球はおよそ人間業ではない。中田があきれるのも当然だろう。

冒頭の中田のコメントには「格好よかった」というひと言が続いていた。しかし「練習するのがばかばかしくなる」にはあながち冗談とも思えないニュアンスがあった。投打を兼務している大谷が、今季途中の段階では本塁打数で中田を上回ったことがあった。プロ野球を代表するスラッガーであり、まぎれもない天分の持ち主であるはずの中田が仰ぎ見る大谷とは……。

抑え役としての登板は大谷の意気に感じた部分があったため、と栗山英樹監督は説明した。

普段ベンチで監督と目を合わせない大谷が、途中から監督の顔をみていたという。明らかに登板を訴えていた。うずうずする気持ちが伝わってきた。「翔平(大谷)の野球少年的な心が大きい。その気持ちを止めるのはいけないでしょう」

優勝するためであれなんであれ、選手を故障させないことを第一の信条としている監督としては第1戦の先発から中3日、しかもこの間、DHとしても出場し続けていた大谷の登板に伴うリスクを考慮しなければならなかった。しかし、大谷の「熱」がそのためらいを消し去った。

165キロを投じる大谷。栗山監督ともども「球速は出すものではなく、出るもの」と考える=共同

「球速は出すものではなく、出るもの」と栗山監督は話している。大谷本人も承知している通り、球速は打者を打ち取るための道具であり、目的ではない。それが出そうと思って出すものではない、という栗山監督の言葉の意味だ。「出るもの」とはここぞという勝負どころ、大一番で心技体がそろったとき、自然に出るものという意味だろう。

16日の登板ではまさにその条件がそろっていた。札幌ドームを埋めた4万1138人の大歓声、今季ずっと続いてきたソフトバンクとの争いに最終決着をつけようという局面。そんな舞台での記録連発に、栗山監督は球速は出すものではなく、出るものと言い続けてきたことが「証明された」と得心の様子だった。

将来168キロも?どこまで伸びるか

状況が球速を生むとすると、日本シリーズという舞台ではどんなことになるのか。先発では1イニング限定のときとは力の配分が異なってくるとはいえ、勝負どころでは球速表示からも目が離せない。

どこまで球速は伸びるのか。栗山監督の見立てでは167、168キロくらいまではいくだろう、とのこと。

その根拠の一つとしては大谷の22歳の肉体がまだまだ変化し続けているということがあるのではないか。大谷も記録更新に関し「体が強くなってきた」という点を理由の一つに挙げた。

22歳の大谷は自身の体について「強くなってきた」。球速はまだ伸びそう=共同

体が強くなったという言葉で思い出したのは、抜群の制球力を誇る打撃マシンを作ることで知られる吉田加工所、吉田義社長の話だった。

マシン作りを手掛けて40年になる吉田さんのゴッドハンドは業界では有名で、各球団にその製品は納入されている。特に得意とするのはアーム式のマシン。人間の動きを模していることから、一般的に選手にはローラー式のマシンより好まれる。しかし制球が難しく、そこに吉田さんの長年の経験と勘が生きている。

吉田さんはまさに大谷が到達しようとしている170キロに迫るマシンを作ったことがある。最速164キロといわれたメジャー屈指の左腕、ランディ・ジョンソンが来日したおり、速さを体感できないか、というテレビ局の企画で170キロ程度まで出るようなマシンを作った。

素人考えではアームを引っ張るバネを強くすればいいのでは、と思われるのだが、事はそんなに単純ではなかった。

「マシンを支える土台、アームの強度、モーター、電力といった条件のすべてをそろえないと」(吉田さん)。人間でいえば骨格、筋力、エネルギーといった要素のすべてだ。

日本シリーズへの進出を決めた日本ハム。ハイタッチで喜ぶ大谷(右端)=共同

160キロ超ともなると、抑えが効きにくく、浮きやすくなるそうだ。ストライクを投げようと思えば、抑えが効く角度に調節しなくてはならない。さらに大事なのは腕の振りに負けない、どっしりした基礎部分、人間でいえば下半身にあたる土台だそうだ。

人間と機械の話を一緒にするな、と怒られそうだが、アーム式のマシンは腕を振り下ろすという人間の動きを模式化している点で、生身の体の動きを考える手掛かりにならないだろうか。

大谷は「ほぼほぼストライクゾーンめがけて投げるだけだったので、よかった、悪かったということを気にする暇もなかった」と話した。これは165キロをマークした際の球の走り具合についての質問に対する答えだったが、驚くべきは「ほぼほぼ」であれ、その球が確実にストライクゾーンに来ていたこと。

抑え登板「2度と…」と監督はいうが

吉田さんの話から想像すると、165キロを続けて何球もストライクゾーンに収めること自体、とんでもないことなのだ。165キロは腕の振りだけでなく、足腰の強化が伴って可能になること、と推察される。

もはや「絶対」の存在ともいえる領域に達しつつある大谷は日本シリーズでどんな驚きをもたらすのか。DHから抑えで登板という起用について栗山監督は「もう2度と起こらない。来年もない」と明言した。しかし、CSと似た状況となり、ベンチで大谷と目が合ったら……。無理はさせないという固い意志を持つ監督といえども、大谷を出したい、あるいはその情熱に報いたいという気持ちを抑えるのは容易ではないだろう。

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン