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検証、熊本地震で食器1つ落ちなかった住宅

日経ホームビルダー

2016年4月に発生した熊本地震以来、繰り返しの地震に耐え、住み続けられる家づくりに対する意識が高まっている。その対策の一つとして注目されているのが、制振システムだ。制振システムは、躯体(くたい)の変形を抑えることで、家の躯体自体へのダメージを低減する。装置が地震のエネルギーを吸収し、変形量を抑えるのが基本的な仕組みだ。また耐力壁とは異なり、変形後も元に戻り、再び変形を抑える減衰力を発揮。繰り返しの地震に対応できる特徴を持つ。

大地震動が繰り返し発生した場合、この制振システムを採用した家はどのような状態になるのか――。その答えのヒントを探るべく、熊本地震に遭遇した制振住宅に住むAさんに、当時の状況などを尋ねた。

熊本地震が発生してから半年。この節目に改めて住み続けられる家づくりについて考える。

隣の実家は物が散乱

熊本市南区川尻に住むAさん(30歳代)一家は、Aさん夫婦のほか、生後約半年と2歳の子供と共に暮らしている。家は2015年10月に竣工したばかり。「今後50年以内に大地震が起こる確率の高さをニュースで知って、家を建てるなら対策が必要と考えた」というAさんは、ハウスメーカーや工務店を巡り、地震への対応を比較検討。最終的に制振システムを採用した住宅を建てるに至った。

そんなAさんの家(A邸)を、2度の大きな地震が襲った。4月14日に熊本地方で発生したマグニチュード(M)6.5の前震と、4月16日のM7.3の本震だ。

本震の際は、2階にある寝室で家族そろって寝ていたというAさん。揺れが収まってから被害状況を確認したところ、室内は物がほとんど倒れていなかったほか、壁に目立つようなクラックも見当たらなかった(写真1)。翌朝もう一度被害状況を確認したところ、「不安定な台の上に乗せていた液晶テレビが倒れていたのと、冷蔵庫が2~3cm動いていた程度だった」と振り返る。

ところが、すぐ隣に建つAさんの実家では、A邸とは対照的に、地震による惨状が広がっていた(写真2)。棚が倒れ、あらゆる物が床に散乱。足の踏み場もない状態だった。

塗り壁にクラックもなし

Aさんが住む熊本市南区川尻は、JR熊本駅から南に約6kmの距離にある地区だ。気象庁の発表によると、本震の際に近隣地区の城南町や富合町で震度6弱を記録。だがAさんは、「すぐ近くに建つ造り酒屋の蔵では、酒造用の大きなタンクが本震で倒れた。川尻では震度6強ぐらいの強い揺れだったと感じている」と説明する。

そんな大きな揺れを2回も受けていながら、なぜA邸では被害がほとんどなかったのだろうか。

A邸は間口が約5.5m、奥行きが約23mの細長い建物だ。建築基準法で求められる壁量に対する比率(壁量充足率)は、間口方向が1.19、奥行き方向が1.55。住宅を施工した工務店のコンフォートハウス(熊本市)は、住宅性能表示制度の耐震等級2~3程度の壁量(建築基準法で求められている壁量の1.25~1.5倍程度)を目安とし、住宅のバランスに当たる偏心率も小さくすることを標準仕様としている。

そのため、A邸も細長い形状でありながら、耐震等級2に近い耐震性能を確保していた(図1)。制振システムは住友ゴム工業のミライエを採用。コンフォートハウスでは2015年から標準仕様として採用しているものだ。

被害が小さかった理由の一つとして考えられるのが、建物の耐震性能が高いこと。A邸の場合、壁量充足率が高いことに加え、採用した制振システムがさらに耐震性を高めた可能性も考えられる。制振システムは1階の室内壁内に4カ所設置している。国土交通省の大臣認定を取得していないが、同制振システムは1枚当たり壁倍率5倍に相当する。このことを考慮して存在壁量を計算すると、A邸は耐震等級2の性能を上回っていたと考えられる。

本震襲来でも「子供起きず」

だが、耐震性能だけでは説明が付きにくい現象がA邸では起こっている。一つは室内の物がほとんど倒れなかったことだ(写真3)。

制振システムは、躯体の変形量を抑えるのが特徴だ。免震のように、地震の揺れ自体を低減するものではない。ただ、壁が大きく変形しなければ、壁際の家具などが押し倒されることも少なく、壁につくり付けた棚の揺れ幅が抑えられる効果も考えられる。物が散乱しなかったことも説明できそうだ。

本震の際にAさん一家が2階で体験したことも、その裏付けになりそうだ。「揺れは感じたものの、子供たちは目を覚ますことなく寝ていた」とAさん。2階では、制振システムが変形量を抑えた効果がより感じられた可能性も考えられる。

室内の壁の被害が、熊本地震での一般的な状況と比べると小さいことにも注目したい。クラックが入りやすい塗り壁や、設備機器との取り合い部などは、前震と本震の2度の大地震に遭遇していながら、ひびや割れが生じなかった(写真4、写真5)。

Aさんは制振システムを採用したことについて、こう振り返る。「制振システムがあったことで、大地震後でも安心して住み続けられる。もしなかったら、見た目は大丈夫そうでも、耐震性能に不安が残り恐くて住み続けられない。ローンを組んで新築するのに、大地震後に恐くて住めないような家は嫌だ」

評価基準の整備が課題

大地震後でも住まい手に安心感を与える効果が強いことが分かった制振システム。だが、本格的に普及するためにはいくつか課題がある。なかでも大きな課題となっているのが、制振システムを横並びにして評価する基準がないことだ。

各メーカーで評価手法はバラバラ。これが制振システムの良しあしを分かりにくくする要因の一つとなっている。そのため、「市販されている製品の中には粗悪品もある」と指摘する識者も少なくない。

「制振システムを採用したのに、大地震で家が倒壊してしまった…」ということにならないように、製品選びは慎重に行いたい。

(日経ホームビルダー 安井功)

【参考】日経BP社は2016年8月24日、書籍「なぜ新耐震住宅は倒れたか 変わる家づくりの常識」を発行した。熊本地震が突き付けた戸建ての死角。問題がないはずの新耐震住宅が多数倒壊した。被災住宅の現地調査と図面分析から、倒壊の原因と対策を読み解く。

なぜ新耐震住宅は倒れたか 変わる家づくりの常識

著者 :日経ホームビルダー
出版 : 日経BP社
価格 : 2,592円 (税込み)

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