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[FT]中国IT企業、コネ幅きかすASEANに進出

Financial Times

最新の集計で、東南アジアには時価総額10億ドル(約1030億円)超のIT(情報技術)企業が数社しかない。これに対し、例えば中国では優に30社を超えている。東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国の人口は6億2500万人を超えるが、この地域では何によらず「規模」は得がたいものだ。

その数社の上位2社はシンガポールに本拠を置く企業だ。オンラインゲームのガリーナと配車アプリのグラブだ。グラブの時価総額は1年半前の2億ドルから30億ドル超に膨らんでいる。そのグラブと競合するインドネシアのゴジェック、インターネット通販のラザダも時価総額10億ドル超だ。

これらのネット企業はいずれも、ほとんど先例のない目標を追っている。地域全体をカバーする真の複合企業となり、経済的に影響力のある地域ではなくまだ概念にとどまっているASEANを、完全に統合された地域にすることだ。

ところが、不思議なことに、東南アジアには関心を集める新興企業がほとんどない。1人当たり所得で東南アジアを大きく下回りながらもハングリーな若き起業家たちを輩出する中国とインドに挟まれながら、これほど新興企業が少ないのはなぜなのか。

商機は能力ではなくコネにある

原因は資金不足ではない。シンガポール政府投資公社のGICやテマセク・ホールディングス、マレーシアの国営投資ファンドのカザナ・ナショナルといったアジアの政府系投資会社、米セコイア・キャピタルや米タイガー・グローバル・マネジメントのようなベンチャーキャピタル、米ゼネラル・アトランティックや米コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)、米ウォーバーグ・ピンカスなどの国際的な未公開株投資会社が、東南アジアで有望な新興企業を探し求めているからだ。

新興企業の少なさは、東南アジアの大部分に共通する厳しい現実を反映している。その現実とは、上層部に新陳代謝がほとんどないことだ。経済は同族経営の複合企業によって支配されている。アジアの他の地域と異なり東南アジアでは、通信やメディアのほか、教育などのオンラインサービスで財をなす新たな億万長者が生まれていない。いまだにほぼ何をするにも免許が必要であるため、ほとんどの商機が能力ではなくコネに左右されている。

「これがASEANの現実だ」と中信証券傘下のCLSA(香港)のコンサルタントを務めるポール・マッケンジー氏は言う。「一握りの大手商社が業界を支配し」、会社を立ち上げるには至らなくても「たいてい大株主になっている」。

加えて、東南アジアに広がる寡占構造の背後には、中国とインドで新興企業の成長を生み出している人的資本、つまり技術者とコンピューター科学者の不足がある。例えばグラブは、技術者のほぼ半数を海外から採用している。同社創業者で最高経営責任者(CEO)のアンソニー・タン氏はシンガポールに本社を置いた理由の一つとして、中国から技術者が来てくれやすいことを挙げる。

タン氏は東南アジア数カ国で日産自動車などの生産・販売を担うタンチョン・モーター・ホールディングスの創業家の孫世代だ。タン氏は政府の営業免許を得る前にアプリを作り上げたと言っているが、東南アジアでは今でもコネのない起業家が必要な許認可を得るのは難しい。

それでも、タン氏が素晴らしい会社を築き上げた事実は変わらない。グラブは現在、ASEANの6カ国で事業を展開し、シンガポールと北京、米シアトルに研究拠点を持つ。

中国IT巨人、積極展開

ASEAN諸国の状況も変わろうとしているかもしれない。理由の一つが中国IT企業の進出拡大だ。

例えば、ネット通販大手のアリババ集団はゴジェックへの出資を検討している。ゴジェックが事業展開するインドネシアは、銀行口座を持っている成人の割合がまだ3分の1にすぎない。投資家はアリババの動きを、自社の電子決済サービスを世界に普及させようとする計画の一環と捉えている。アリババはラザダの経営権も取得しており、完全子会社化する可能性もある。ネットサービス大手の騰訊控股(テンセント)はガリーナ株を約30%を保有している。

これら中国のネット企業は、米国の競合のノウハウよりも自社の経験の方が他の新興国で物をいうはずだと踏んで、東南アジアの新興企業に出資している。新興国企業への投資で売り上げが増え事業が多角化すれば、株価の下支え要因になると考えている。東南アジアで存在感を築くことは、アリババ傘下の金融関連会社、●蟻金融服務集団(●はむしへんに馬、アント・フィナンシャル)など、将来のグループ企業の上場に役立つ上、中国国内の政治的リスクへの不安を減らすことにもつながりうる。

アリババとテンセントが東南アジアの地元企業を育て上げるのか、それとものみ込む結果になるのか、現時点ではわからない。その答えはおそらく、東南アジアの起業家たちの力量次第ということになるだろう。

だが、中国企業は今、東南アジアの事実上の地域統合という役割をほぼ一手に引き受けつつある。

By Henny Sender

(2016年10月12日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

(c) The Financial Times Limited 2016. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

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