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常勝軍団復活狙う ヤンキース再建策の成否

スポーツライター 杉浦大介

米大リーグ屈指の名門ヤンキースがポストシーズン進出を逃した。渡米3年目の田中将大は自己最高の1年を過ごしたが、チーム全体では満足できたとは到底言えまい。ただ、もはや「常勝」という形容が適切ではなくなったヤンキースは、シーズン中に思い切った再建策に取り組み、以降は好材料も見えてきた。今後、復活を目指す伝統チームはどんな道をたどっていくのか。

田中はメジャー3年目でア・リーグ3位の防御率を残した=共同

田中「一つステップアップできた」

「これまでの2年に比べれば、規定(投球回数)にも届くことができた。最後の最後でこういう形になって、2試合スキップ(登板回避)という形にはなってしまったけれど、それまではローテーションに穴を開けることなく、しっかりと投げられた。そういう部分では一つステップアップはできたのかなという気持ちはある」

2016年シーズンを振り返った田中の表情には少なからず満足感も感じられた。31試合で199回2/3を投げて14勝4敗、防御率3.07、165奪三振。登板数、勝ち星、イニング、奪三振などは自己最高で、ア・リーグ最優秀防御率のタイトルも最後まで争った。何より、本人が真っ先に述べた通り、大事をとって登板回避した最後の2戦を除き、ほぼシーズンを通じて先発ローテを守れた。

「投球回数、登板数、健康維持が向上した部分だ。よい投球をしてくれ、このままさらに前に進んでほしい。毎年200以上のイニングを投げてくれる投手がいることは、チームにとって大きなことだ」

今季の田中が向上した点を聞かれ、ジョー・ジラルディ監督もそう述べていた。

日程の厳しいメジャーでは、エースと呼ばれる投手は安定して長いイニングを稼ぎ、投手陣全体の負担を減らすのが必須条件。そういった意味で、シーズンを通じて「一流投手の目安」とされる200イニングペースで投げ続けた田中の貢献は大きかった。総合的に見て、間違いなくメジャーでの自己最高のシーズンを過ごしたといっていい。

引退試合前のセレモニーで観客の声援に応えるロドリゲス=共同

そんな状況で残念なのは、今季のヤンキースは84勝78敗でア・リーグ東地区の4位に終わり、ポストシーズンに進めなかったことだ。これでプレーオフ進出を逃したのは過去4年間で3度目。昨季もワイルドカード戦でアストロズに敗れており、プレーオフでの勝利からは12年以降遠ざかっている。最近は観客動員も激減。今年は地元のテレビ視聴率でも同じニューヨークを本拠地にするメッツに抜かれるなど、伝統のフランチャイズは「低迷期」に入っているといっても大げさではない。

もっとも今年、プレーオフ進出を逸したのは仕方ない部分もあったのだろう。前半戦時点で優勝が狙える戦力ではないと悟ったチームのフロントは、トレード期限間際に時速105マイル(約169キロ)の速球を投げるアロルディス・チャプマン、今季も球宴に選ばれたリリーフ左腕アンドリュー・ミラー、22本塁打を放っていたカルロス・ベルトラン、7勝を挙げていたイバン・ノバといった主力を次々と放出。さらにはアレックス・ロドリゲスには8月12日に引退試合の機会を与えて事実上解雇するなど、「チーム解体」策を進めた。

「長きにわたって常に優勝が狙えるチームであり続けたことを誇りに思っている。素晴らしい時代を築いてくれた。今やろうとしていることを恥ずかしく思う必要はない」

トレード期限終了後、ブライアン・キャッシュマン・ゼネラルマネジャー(GM)はそう語り、今季のチームの力不足と、将来に向けて備え始めたことを認めていた。過去23年間は常にポストシーズンに進出するか、少なくとも9月までプレーオフが狙える位置にいた。リーグを代表する強豪チームが、ここでついに再建の道を選ぶという歴史的な決断を下したのだった。

球宴後40勝34敗、後半戦は大健闘

そんな方向に進んだにもかかわらず、9月10日の時点でヤンキースはワイルドカードまで1ゲーム差につけていた。オールスター以降は40勝34敗。そこに至る背景を考えれば、後半戦は大健闘したといっていい。

「プレーオフに出られず、ワールドシリーズを勝てなかったのは残念だ。目標を達成できなかった。しかし、それと同時に、今季の中でよいこともあった。メジャーに昇格した選手たちが価値のある経験を積み、私たちを前進させてくれるはずだ」

ジラルディ監督の言葉通り、たとえポストシーズン進出は逃しても、ヤンキースは未来に向けて大きな一歩を踏み出したのだろう。

大量放出したベテランの代わりの穴埋めとして、ゲイリー・サンチェス、アーロン・ジャッジ、タイラー・オースティン、ルイス・セサ、チャド・グリーンといった自前のプロスペクト(有望株)たちをメジャーの舞台で登用し始めた。

そのなかでもサンチェスは当初の23試合で11本塁打、51試合ではなんと20本塁打を放ち、後半戦の奮闘の立役者となった。しばらく生え抜きのスターが生まれてこなかったチームにとって、わかりやすい魅力を持った新戦力が誕生した意味は大きい。

その他、ジャッジも当初の7戦で3本塁打、オースティンも31試合で5本塁打を放つなど、ルーキーたちは貴重な経験を積んだ。また、一連のトレードの見返りとして獲得されたクリント・フレイザー、ジュスタス・シェフィールド、グレイバー・トーレス、ディロン・テートといった大型のプロスペクトたちも徐々に芽を出してくるだろう。

「今季の中で、自分たちのよい部分と足りない部分を知ることができたと信じている。今後、優勝を争うためよりよいポジションに身を置けたはずだ」

シーズン終了後のキャッシュマンGMの言葉は、必ずしも身びいきの負け惜しみには聞こえない。一気に若返りを進め、それでいてシーズン終盤までワイルドカード争いに絡めたのだから、結局はプレーオフには出られなくても、16年は意味のあるシーズンだったと言えるのではないか。

ヤンキースは1995年から2012年の18年間で17度のプレーオフ進出という一時代を築いた。その黄金期を支えたのがデレク・ジーター、マリアーノ・リベラ、ホルヘ・ポサダ、アンディ・ペティットという生え抜きの「コア4(フォー)」、さらにはバーニー・ウィリアムスまで含めた「ファブ5」。今季途中から再建策を始めたヤンキースが、その再現、あるいはそれに近いものをもくろんでいるのは明白だ。

フロント、現場の腕の見せどころ

ミラー、チャプマンといった実績あるリリーフ投手たちを放出していなければ、今年もプレーオフに進むことは可能だったかもしれない。しかし、現実的に"世界一"を狙えるチームではなかった。そんなロースター(出場登録選手)に見切りをつけ、より明るい未来に足を踏み出したヤンキースの今後が楽しみだ。

もちろん、多くの有望株がもくろみ通りに成長するという保証はなく、必要に応じてフリーエージェント(FA)、トレードで補強を進めなければならない。引退したロドリゲス、マーク・テシェイラを含む多くの選手がチームを去ったため、今季の年俸総額から約6000万ドル(約62億円)を削減できる。この資金をうまく使い、新たに獲得した戦力が台頭中の若手、さらには田中、デリン・ベタンセス、ディディ・グレゴリアス、スターリン・カストロといった現在の主力とかみ合えば……。そのときには、ヤンキースは比較的早い時期に優勝が狙えるチームに戻れるかもしれない。

だとすれば、これから先がフロント、現場のスタッフの腕の見せどころ。常勝軍団復活に向け、チーム解体、再建という大なたを振るった名門チームの新たな戦いはまだ始まったばかりである。

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