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JR東日本にも技術提供、オープン化で輝く米名門研究所

日経ものづくり

なぜ鉄道会社と複合機メーカーの研究所が手を組むのか――。

東日本旅客鉄道(以下、JR東日本)に対して、電車のドアやレールのメンテナンス作業の効率化を実現する技術を提供することを2016年7月に公表した米Xerox(ゼロックス)のPalo Alto研究所(以下、PARC)が今、注目を集めている。

意外な組み合わせに思えるが、PARCはXerox向けだけではなく、外部の企業や公的機関からさまざまなテーマの研究開発を請け負っている。

JR東日本に対してPARCが提供するのは、「Hybrid Condition-Based Maintenance(CBM)」と呼ばれる技術。人工知能(AI)の機械学習の技術を使い、電車のドアやレールの状態を撮影した画像など、膨大なデータを解析して故障につながる異常を検出する。

90%を越える高い故障検出率

これまでの実証実験で90%を越える高い精度の故障検出率を実現できることが分かったという。鉄道の保全管理のプロで、豊富な経験とノウハウを持つJR東日本を魅了する技術をPARCが開発したことが採用につながった。

図1 XeroxのPalo Alto研究所。米スタンフォード大学のキャンパスの近くに立地する。マウス、レーザープリンター、GUIなどさまざまなイノベーションを生み出してきた

PARCは1970年にXeroxが米シリコンバレーに開設した研究所(図1)。これまでにコンピューターの「マウス」、「レーザープリンター」、ウインドウとアイコンを使った「グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)」、ネットワーク規格の「Ethernet(イーサネット)」など数多くの革新的な技術を開発してきた。

30年以上、Xerox向けの研究に主に取り組んできたPARCは、2002年に独立した組織となった。Xeroxの子会社ではあるものの、それまでに培ってきた研究開発力を生かして、外部から研究プロジェクトを積極的に受託するようになった。

図2 PARCのCEO、Stephen Hoover氏。「オープンイノベーション戦略を推進することは、Xeroxの研究開発力を強化することにもつながる」と語る

多様な分野で新たな技術革新が起きる時代には「自分たちが研究している技術が最終的にどの分野の製品に役立つか分からないケースも多い。オープンな姿勢でさまざまなパートナーと組んだ方が優れたイノベーションを生み出せる可能性が高い」。インタビューに応じたPARCのCEO(最高経営責任者)であるStephen Hoover氏はオープン化を進める狙いをこう説明する(図2)。外部からの研究受託で得た技術や経験はXeroxの研究開発にも役立つという。

PARCの収益に占める外部から受託する研究開発の比率は高まっており、直近では半分にまで達している。公的機関では、米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)や米陸軍、民間企業では化学大手のドイツBASF、韓国Samsung Electronics(サムスン電子)、大日本印刷などが顧客になっている。PARCはオープン化を進めることで2008~2009年ごろに損益が黒字化し、その後も黒字基調にある。

「消滅する電子回路」を開発

図3 「Vanishing Electronics」の電子回路。左が消滅前で右が消滅後の様子。遠隔操作で電子回路を破壊し、テロリストに重要なデータが渡らないようにすることが目的だ

PARCの研究テーマにはユニークなものが目立つ。例えばDARPAから研究を受託して2015年11月に発表した「消滅するエレクトロニクス(Vanishing Electronics)」と呼ばれる技術(図3)。遠隔操作で特定の信号を送ることで粉々に破壊できる電子回路だ。

テロリストに重要なデータが渡らないようにすることが目的で、既に実験を成功させている。この他にもDARPA向けに、目的地にまで荷物を運んだ後に跡形なく消えるドローンなどを研究しているという。

PARCは日本にもオフィスを開設しており、日本企業からの研究受託にも力を注いでいる。JR東日本だけではなく、ソニー富士通NEC、DOWAエレクトロニクスなどからプロジェクトを受託した実績がある。

2016年1月には野村総合研究所(NRI)との協業を発表。ビッグデータなどの分析サービス、イノベーションの創出に関するコンサルティングサービス、IT(情報技術)関連の先端技術研究などを共同で提供し始めた。

「PARCはハードウエアとソフトウエアを組み合わせた研究開発を得意としている。ハードウエアに強いさまざまな日本企業と組める可能性が高いと考えている」。Hoover氏はこう強調する。

メーカー傘下の研究所の常識を壊すようなオープン化を加速するPARC。際立った研究実績があるPARCだから実現できる戦略にも思えるが、多様な研究テーマを成果に結びつける連携手法は、オープンイノベーションを志向する多くの日本メーカーの研究所にとっても参考になりそうだ。

(日経ものづくり 山崎良兵)

[日経ものづくり2016年10月号の記事を再構成]

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