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エネルギーは内に秘めるな 表に出せ

手探りで走ってきたオリックス2軍監督1年目はウエスタン・リーグ最下位という悔しい結果に終わりました。ただ、少しずつ野球に対する考え方がチームに浸透してきたなという手応えも感じています。その一つは「エネルギーは内に秘めていても何にもならない。表に出せ」ということ。気持ちが前面に出てくる選手というのは、チャンスをものにする確率も高いのです。

9月13日の日本ハム戦で園部は中越えに二塁打を放つ=共同

そんなことを感じさせてくれた若手の代表格が、高卒3年目の園部聡選手(20)です。9月11日に今季2度目の1軍昇格を果たすと、13日には球界を代表する日本ハムの大谷翔平投手から中越え二塁打。18日には日本ハムと激しい首位争いを繰り広げていたソフトバンクに敗れたものの、最終回に意地を見せるプロ初本塁打を森唯斗投手から放ちました。シーズン最終盤に来季に向けた大きな手応えを得ましたが、このチャンスは紛れもなく自分の力でつかみ取ったものです。

「これだけ強い気持ちあれば大丈夫」

彼は2軍暮らしをしていた8月初めにけがをしました。足を引きずりながら走っているので病院に行かせると、医師からは左太もも前側の肉離れで全治1カ月、試合復帰までは約2カ月かかると言われました。ところが、彼は診断から3日後には「大丈夫です。動けます」と言ってきたのです。

私自身、今季の復帰は難しいだろうとも考えていたのですが、本人と話し合うと「絶対にできます」と真剣そのもの。私はその顔つきを見て「ああ、これだけの強い気持ちがあったら大丈夫だ」と確信しました。仮にもう一度、同じ場所をけがして今季を棒に振ってしまったとしても、誰のせいにもしないし、悔いを残さないだろう。もし、そうした悪い結果を招けば、自分の体の弱さに腹が立ち、体を徹底的に鍛え直して来季に臨んでくれるはずだ、と直感したのです。

もちろん、将来のある選手に大けがをさせるわけにはいかないのは当然のことです。ですが、園部選手のけがの箇所や程度から、私は内心、「練習をさせてくれ」と直訴してくるのではないかと期待していたところもありました。

私も現役時代、軽度ですが何カ所か肉離れをしたことがあります。その経験から、どこを痛めたら本当に走れなくなるのかは理解しているつもりです。一番厳しいのはふくらはぎですが、それ以外の場所ならば、言い方は悪いですが、だましだましで走ることができます。スピードを買われ、盗塁などの走力で勝負する選手ならば確かに厳しい状況ですが、彼はそうしたタイプではなく、もっぱらバット一本でアピールする選手です。そこで、練習をしながらけがを治していく方法を選択しました。

トレーナー陣と復帰時期を早められないか交渉し、体の動かせる部分は動かしていこうと、1週間後には練習を再開させました。約3週間後の8月30日に2軍で実戦に復帰すると、打撃の状態を徐々に上げていき「調子が良さそうだし、もう一回上げてみよう」と1軍に呼ばれたのです。今季中にもう一度、1軍戦への出場がかなうとは、私も考えていませんでした。今季の貴重な財産を、彼は自らの強い気力で手に入れたのです。

真剣勝負、最後にもの言うのは胆力

園部は9月18日にプロ初本塁打を放ち、佐竹コーチ(左)に迎えられる=共同

園部選手は若手ですが、右肘手術を受けた影響で一時は育成選手も経験した苦労人です。けがで休んで自らの居場所を失うことには人一倍、敏感だったのでしょう。1軍初昇格を果たした今年のうちに存在感をさらにアピールするためにも「こんなところで休んでいる場合じゃない」という思いが彼を突き動かしたはずです。

1軍の公式戦は年間140試合以上あります。長いシーズンを戦っていく中で、常に万全の体調で日々の試合に臨んでいる選手は皆無だと言っていいでしょう。誰もが体のどこかに痛みや不安を抱えながら、プレーを続けています。けがに対する体や気持ちの強さが必要ですし、痛みをごまかすことすらできる高いレベルの技術を持っていなければ、プロでは絶対に通用しません。

「痛いです。代わってください」と言ったら、その時点で自分のポジションを誰かに明け渡すことになります。同じ場所に2度と戻れない可能性もある。それがプロの社会のおきて。それはプロ野球選手の誰もが理解しておかなければなりません。レギュラー選手がその座を守るために、1軍に定着しようという若手が壁を破っていくために、休みによる空白期間をつくることは最大の敵なのです。

一流同士の真剣勝負の場で、最後にものを言うのは胆力です。「肉が離れようが、俺はやるんだ」というぐらいの気持ちの強さがないと、監督からここぞの場面で「最後、おまえで勝負をかけるぞ」とは言ってもらえません。打撃の形をいったん崩すと修正方法をなかなか自分で見つけられないもろさなど、園部選手には課題があり、1軍に定着するにはまだまだ時間がかかるかもしれません。しかし、競争の厳しいプロの世界で生き抜くための基礎となる気力、エネルギーを前面に出した姿には、今後への頼もしさを感じました。

(オリックス・バファローズ2軍監督)

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