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走力とキャリアで分類 10月のフルマラソン練習法

ランニングインストラクター 斉藤太郎

リオデジャネイロ五輪・パラリンピックを挟んで約3カ月のご無沙汰です。前回の本稿で説明したように、夏の間の練習のテーマは基礎力を高めることでした。目的に沿った過ごし方はできたでしょうか?

順調なら9月前半は夏の鍛錬の疲労抜きにあて、後半から10月にかけては、フルマラソンでは「1キロ=△分△秒ペースで押していこう」などとタイムを明確に意識したペース走に取り組みます。「5キロ×2本」などと区切っていたものを10キロペース走、20キロペース走という具合に一度に走る距離を増やしていきます。レースや合同練習会を利用すると、日ごろ一人で取り組まれている方も高度なメニューを乗り越えやすくなります。

一度に走る距離を増やし、レースや合同練習会を利用してみるといい

前回、フルマラソンについての走力・キャリアを以下の3つに分類しました。

<A>サブ3の力がある

<B>4~5時間で走る(既に何本かフルマラソンを完走したことがある)

<C>初めてフルマラソンに挑む

今回もこの分類で説明したいと思います。

10月の流れ(おおむねレース1カ月前まで)

<C>

ランニングの習慣づけに成功して間もない方は、徐々に距離が伸ばせるようになってくる頃でしょう。1回の練習量を増やすことよりも、練習の回数を週にもう1日増やすことを考えてみてください。体が深層から変わるには時間を要します。1回の練習の満足度よりも、コツコツと続けて走る継続の充実度を大切にしたいところです。

もっぱら週末に走るランナーでしたら、平日にも1~2日走ることを目指します。15~30分のジョギングでも体が変わってきます。10キロやハーフマラソンへの出場で大会の雰囲気に慣れましょう。個人での練習でしたら、時計を気にせずに20キロ完走に挑戦するのも良いでしょう。

<B>

気温が下がり、走りやすい気候になるにつれて、自然と軽やかに走れるようになってきます。ですが、スピード(ペース上昇)ばかりを追求すると失敗します。

レース想定ペースで5キロを走ったところで、呼吸が著しく上がることはありません。そのくらいゆとりあるペース(運動強度の低いスピード)でレースは進むわけです。ただ、そんな低負荷でも3時間を越えた頃から何となく足をだるさが襲ってきます。自分の足ではないような鈍い動きに陥ります。そうした状況に耐えられる体、動きを最後まで持続できるスタミナを重視して組み立てていきましょう。

ハーフマラソン、10~20キロペース走、インターバル練習などで筋肉に負荷をかけた後で、疲労を抱えながらさらに距離を踏む。そんな組み合わせ練習が効果的です。レースなどを走った直後でも良いですし、夕方や翌日に走る組み立ても良いです。

例を挙げてみましょう。

○10キロ・ハーフレースに出る→60分ゆっくりジョグ&ウオーク

○20キロジョグをする→夕方に60分ジョグ&ウオーク

○ハーフレースに出る→翌日に90~120分ゆっくりジョグ(ロングスローディスタンス)

このような組み合わせ練習は、30キロを通しで走る練習方法よりもけがのリスクを抑え、かつ高い効果が期待できます。

低負荷でも長時間の運動に耐えられる体に仕上げよう

フルマラソンで4時間30分以上かかる方ですと「日ごろのジョギングペース」と「レース想定ペース」に大きな違いがない場合が多く、日ごろのジョギングペースの方が速くなる傾向すら見られます。調整期に体をフレッシュにしようと意識しすぎないようにしましょう。低負荷でも長時間の運動に耐えられる体に仕上げます。極端に練習量を減らすことで疲労は抜けても、かえって体力が目減りするようではむしろ終盤のペースダウンにつながりかねないことに気をつけてください。

<A>

ハーフマラソンや合同練習会など各地で開催される20キロペース走を利用しながら、レース想定ペースで走る練習を取り入れます。フォーム・スピード、呼吸や血液循環の感覚を体に覚え込ませていきます。いわば「強火」の練習で、スピードと持久力を同時に追求します。走り過ぎると逆にダメージが深くなり、回復の遅れにつながるため、このような練習は2週間に1回程度にとどめるべきです。

「強火」に対して「中火」の練習も組み込んでいきます。こちらはスピードに「ため」をつくる感覚です。走り出しはジョギングペース。体がほぐれるにつれて心地よいところまでペースを上げていっても構いませんが、ゆとりを持って走ること。目安は1キロあたり15~30秒、レース想定よりも遅いペースです。25~30キロ走なども組み込むと良いでしょう。2日にわたる練習の例として次のようなものがあります。

○土曜に20キロレース想定ペース走→日曜にゆっくり120分ジョグ

○土曜に1キロ×5~7本(レース想定より速く)→日曜に25~30キロ走(ゆとりを持って)

練習で世界記録を出せるランナーはまずいません。練習で良いタイムで走って安心したい心理が出てくるところですが、そこを我慢してください。「中火」と「強火」とを使い分けて組み立てていくことで快走に近づきます。

以上、クラス別に見てきました。疲れている状況で取り組むハードな練習は、力をうまく出しきれないので体が深くは消耗しません。これに対して、十分に調整し、力を出し切れるフレッシュな状態で取り組む高負荷練習は体力の消耗につながり、ダメージが残ります。力を全て出し切れるように調整して臨むのは本番のレースだけ。

疲労感や苦しさを抱えて進めていくのがフルマラソンの練習です。走り出しは動きが鈍いけれども、しばらく走っていると汗をかいて徐々に体にキレが出てくる。心地よい時間が訪れる。そんな感覚を大切にしてください。そう感じられれば、マラソンに必要なスタミナがついたといえます。

レースまで残り1カ月の流れ

・4週間(約1カ月)前

<A>の方は30~40キロ走

<B>の方はハーフマラソン、25~30キロ走

<C>の方でしたらハーフマラソン、20キロ走、3時間ゆっくりジョグなど

レース4週間前には高負荷の練習に取り組み、フォームが崩れないように気をつける

高負荷練習に取り組みます。走りの終盤は体のどこがどう疲れてくるのか体に覚えてもらう気持ちで、辛くてもフォームが崩れないように気をつけます。長い距離を1本走りきることで抵抗力が培われ、1カ月後にはもっと要領よく走れるようになります。これより後のタイミングだと、疲労が抜けきらない可能性があるので、レース4週前としています。初心者で足に不安がある方は3~4時間歩く練習も効果があります。

・約3週間前

疲労のピークで、走り出しが重く、もどかしい。そんな症状なら予定通りです。完全休養よりも、散歩やゆっくりジョギングで筋肉を伸縮させ、血液循環を促進することで疲労を抜いていきます。土や芝の上を走ると筋肉の張りがほぐれることもあります。

疲労を抜くメニューには次のようなものがあります。

○不整地のんびりジョグ&ストレッチ

○ジョギングの後に「100メートル快調ラン×3~5本」などで体をスッキリさせる

○30~60分ジョギング(残り10分をペースアップ)

・2週間前

ハーフマラソンや10キロレース、または自分で取り組む10~20キロのレースペース走に取り組みます。

<A>の方でしたらハーフマラソンを1本走ってスカッと爽やかになる。そのくらいの力が付いていたいところです。レース翌日も長めのスロージョグで疲労抜きをしてください。

<B>と<C>の方は全力を出す数歩手前。控えめなテンションでリラックスして走りながら、現状チェックをします。そして、残り2週間をかけてマラソンを走り切れるコンディションに仕上げていってください。

<クールダウン>勝負勘の養成は遊びの中から
 リオ五輪の中長距離種目で、優勝を確信した選手が笑顔を見せ、徐々に減速しながらゴールする場面が何度かありました。「あと数秒速ければ五輪新記録だったのに……」と、見ているこちらが残念に思うこともありました。
 ただ、彼らは勝者になることに世界の誰よりも貪欲であるのと同時に、世界ナンバーワンを決めるレースを楽しんでいるようでもありました。かけっこの原点、すなわち「勝つか負けるか」という純粋な感覚で競い合っていたのではないか。そんな印象を強く受けました。
 もちろん、持ちタイムはずば抜けていて、別の機会ではコンディションが整った、記録を狙うためのレースに出場することになるのでしょう。
 翻って日本の話です。エリートランナーのほとんどは駅伝を経験し、スタートからゴールまで徹頭徹尾速いペースで走ることには慣れているようですが、揺さぶりのある、大きくペースを上下させるレース展開はあまり見られません。駅伝ばかりでなく、トラックの競技会でも同じような状況です。ラップが落ちると「これでは記録が狙えません」などと解釈され、けん制し合ってスローペースに持ち込む展開では「勝負に徹していて汚い展開」とみられることもあります。
 ランニングに限ったことではないかもしれません。日本(人)には「勝つからには完全な勝利」「常に相手よりも前に」ということを追求し、たとえ一時的だとしてもビハインドや停滞(ペースダウン)を受け入れがたい思考があるのではないでしょうか。ペースを緩めることを「手抜き」と捉え、罪悪感さえ覚えてしまう思考です。
 アジアサッカー連盟の指導に赴いた時に、他国のインストラクターから印象的なことを言われました。「日本は確かに強い。だけどポライトだ」。解釈すると「お行儀が良いけどバカ正直である」となるでしょうか。このあたり、多くの日本選手がレースの駆け引きが不得手であることにつながっていると思います。
 絶対的走力を高めることは、過酷な揺さぶりのある展開を勝ち抜く大前提です。今の日本において、強化体制や練習手法で改善すべき部分はもちろんあるでしょう。一方で、まずは幼い時期から野性的な感性や勝負勘を磨くところからスタートすべきではないか、とも感じます。校庭や野山での追いかけっこで「こいつ速いな。俺についてこられるか?」などと意識して走る。そんな遊びの段階から勝負勘の養成は始まっているはずです。
 そう思うのは子供たちへのもどかしさがあるからかもしれません。鬼ごっこのような種目を指導に取り入れると、子供たちは逃げ方にしても追いかけ方にしても、どうにも見ていて歯がゆいのです。大人から教えられたスポーツの動作は上手にできても、駆け引きの勘が疎いのです。
 勝負への「あざとさ」とは他人から教えられるものではなく、子供同士の競争の中で無意識に培われていくものなのではないでしょうか。

さいとう・たろう 1974年生まれ。国学院久我山高―早大。リクルートRCコーチ時代にシドニー五輪代表選手を指導。2002年からNPO法人ニッポンランナーズ(千葉県佐倉市)ヘッドコーチ。走り方、歩き方、ストレッチ法など体の動きのツボを押さえたうえでの指導に定評がある。300人を超える会員を指導するかたわら、国際サッカー連盟(FIFA)ランニングインストラクターとして、各国のレフェリーにも走り方を講習している。「骨盤、肩甲骨、姿勢」の3要素を重視しており、その頭の文字をとった「こけし走り」を提唱。著書に「こけし走り」(池田書店)、「42.195キロ トレーニング編」(フリースペース)、「みんなのマラソン練習365」(ベースボール・マガジン社)など。

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