虹色に光るたんぱく質 阪大、街灯やがん研究に
関西サイエンスマガジン
ずらりと並んだ小指の先ほどの容器に、なにやら液体が入っている。特殊な化学物質を注入すると、色とりどりに光りだした。大阪大学の永井健治教授らが開発した光るたんぱく質「ナノランタン」だ。

赤はサンゴ、緑と青はクラゲ由来のたんぱく質だ。ほかにもイカやナマコ、エビなど光る生き物は海に多い。「もっと強い光を放つたんぱく質があるはず」と探索を進めている。
たんぱく質が光る仕組みは2種類ある。ひとつはキノコやホタルのように化学物質を分解して光る「発光」だが、エネルギーが熱に変わりやすいため暗い。もうひとつはクラゲ由来のたんぱく質のように、紫外線などを吸収して光を放つ「蛍光」だ。こちらは明るいが別の光を当てる必要があった。

永井教授は2種類の光るたんぱく質をくっつけた「ハイブリッドたんぱく質」を開発した。一方が化学物質を分解し、エネルギーをもう一方に伝えて光る。この仕組みで一気に発光効率が10倍以上になり、薄暗い場所でも肉眼で見える明るさになった。ギターやバイオリンの弦をはじくと、胴体が共鳴して大きな音になるのと似た仕組みだ。
植物にナノランタンの遺伝子を組み入れれば生きたまま光る。暗闇でカラフルに光るゼニゴケができあがった。同じ仕組みで花など観賞用の植物も光らせることができる。さらに強く光れば、ものや場所を照らすこともできる。永井教授は「将来は光る街路樹を開発し、街灯代わりにしたい」と夢を語る。
永井教授らは光るたんぱく質を脳科学や医学の研究にも役立てようと考えている。神経細胞の活動に応じて光るたんぱく質を開発すれば、いまだに謎が多い脳の仕組みの解明につながるかもしれない。体内から皮膚の表面まで黄色の光が届くほど明るいがん細胞をマウスに移植すれば、生きたままがんの転移を詳しく観察できる。薬の効き目も一目瞭然で、新薬開発などに応用できるという。
(文・岩井淳哉、写真・山本博文)