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25年ぶり優勝 緒方監督と広島、実直さの勝利

戦力がなければ育てるのみ――。広島の25年ぶりの優勝は緒方孝市監督(47)を含め歴代の監督ら、現場の地道な努力と、選手を引き抜かれてもめげずにやってきた球団の我慢が実った優勝だ。金ならある、といわんばかりの安易な補強に走ってきた球団に投げかけるものは大きい。

中崎の成長、指揮官の我慢生きる

25年ぶりにリーグ優勝し、胴上げされる緒方監督=共同

まず、緒方監督にごめんといっておこう。実は某スポーツ紙の開幕前の順位予想で広島を最下位にした。優勝は巨人。根拠としては一応巨人が抑えの沢村拓一を擁しているのに対し、他の球団は移籍などで抑えが確定していないということがあった。広島には中崎翔太がいたが、まだまだ盤石の抑えというわけにはいかず、不安があった。

巨人にしても打線の弱さから最下位もありうると思ったくらい。広島を最下位にしたのは本当にたまたまで、佐賀・鳥栖高校の後輩である緒方監督なら、許してくれるかなと思ったのが正直なところ。

緒方監督の我慢が生きた一番の例が中崎の成長だろう。昨季は29セーブながら、6つの黒星もついた。失敗もするなかで任せて待った甲斐があって、今季はすでに33セーブ。

抑え投手は全選手のなかで最も重圧がかかるポジションだ。時間をかけて守ったきたリードも、終盤の逆転劇も、失敗したらものの数分で水の泡になる。

それくらい心臓に悪い仕事だから、抑え投手をつくる際には、あまりおおっぴらに「この投手が抑えだ」と公言しない方がいい。さりげなく起用し、気がついたら抑えに定着していた、というのがベストだ。

中崎が今年も抑えとして起用されるのは明らかだったが、私は今年のキャンプで緒方監督に「中崎には『まだまだ、おまえはアルバイトで抑えをやっているんだからな』といっておけばいいんじゃないか」と話した。少しでも気楽にマウンドに上ってもらうことが大事だからだ。

緒方監督が実際にどういう言い方をして、締めのマウンドに送り出したか知らないが、内にも外にも「うちの絶対の抑え」という言い方はしていなかったのではないだろうか。

自前で選手育てるという姿勢潔く

田中広輔、菊池涼介、丸佳浩に伸び盛りの大砲、鈴木誠也……。外国人を除き、中崎ら投手陣を含め、ほぼ全員が自前で育てた選手というのがすばらしい。資金に限りのある広島はFAで選手を"供出"することはあっても、獲得はしてこなかった。

それが前回の優勝以来、長くつらい時期を招いた原因でもあったのだが、自前で選手を育てるという姿勢はお金、お金の時代にあって、潔くみえた。目先の利益だけ追う風潮に対する無言の抵抗だった。

緒方監督自身「自前主義」の象徴といえるだろう。1986年のドラフト会議で3位指名を受けて入団して以来、広島一筋。

同時代の外野に松井秀喜(巨人)らがいたために、目立たなかったが、トリプルスリー(3割、30本塁打、30盗塁)も可能といわれた「攻・走」に、抜群の守備力をあわせ持つ万能選手だった。

リーグ優勝を決め、ベンチを飛び出す広島ナイン=共同

盗塁王3度などの実績があるのに、不運にもベストナインにも選ばれていないが、それでも彼は淡々とプレーし続けてきた。

そんな緒方監督を、同郷のよしみで許してもらい、少々言葉はわるいが「いい意味の田舎者」と表現したい。

私自身、大いなる田舎者であると自覚している。鳥栖にいたころは福岡ですら、大都会にみえてまぶしかった。プロ入り時に巨人の誘いも受けながら中日にしたのはいきなり東京に行くよりも、名古屋くらいが自分にはちょうどいいのではないか、と考えたことによる。田舎者は分相応ということを知っている。

FA権取得時、目先のことに惑わされず

緒方監督が現役時代、FA権を取得したとき、巨人などが興味を示したとされる。広島の何倍もの年俸が積まれると見込まれた。それでも彼は目先のことに惑わされず、広島残留を選んだ。この実直さが佐賀の人らしい。そして彼もきっと「分相応」を知っているのだ。

田舎者はないものねだりはしない。緒方監督も、選手がいなければ育てるのみという姿勢でやってきた。それは広島というチームに代々受け継がれてきたスタイルでもあった。

時間はかかるが、選手を手塩にかけることで鍛え上げた。広島の打者のスイングの強さは地道な練習のみによって得られるもので、お金で買えるものではない。

ゴロを打つのでなく、ライナーで中堅を中心に打ち返していく意識がみえる。投手返しとかセンター中心の打撃というと、普通はミートに徹し、当てていくことをイメージする。

しかし、広島は違う。しっかり振り切っている。だから右中間、左中間の打球があっという間に野手の間を抜けていく。各選手のフォームには私の横浜(現DeNA)時代の仲間だった石井琢朗打撃コーチのスイングの面影も見られるのだが、それも広島伝統の猛練習あってこそだろう。

成長の過程ではたくさんの失敗もあったと思うが、歴代監督、そして緒方監督はそれをじっと見守り続けた。

ミスが出たときにベンチで見せる表情で、私は監督の度量を判断している。緒方監督は喜怒哀楽をほとんど表情に出さない。ミスがあったとき、怒りなどの色を顔に出すと選手が萎縮するから、どの監督も一応平静を装うのだが、緒方監督は我慢をしているようにすらみえない。なかなかできないことで、私がよい指導者の一人と買っている秋山幸二・前ソフトバンク監督に通じる落ち着きがあった。

緒方監督もまた、私の持論である外野手出身監督ならではの長所を持っている。外野手はピンチのときもマウンドに集まるわけでもなく傍観している。内野手は投手へアドバイスするなど、いかにも中心的な役回りのようにみえるのだが、実際投手として役に立つことはほとんどない。

少々のことでバタつかぬ落ち着き

内野手が自分の頭と腕でどうにかなると思っているのに対し、外野手は自分のできることは限られ、所詮は個々それぞれ、自分の持ち場をきっちり守ることしかないのだと達観している。自分の1人の力はたかが知れている、という冷めた視点が監督としては特に大事になる。それが少々のことではバタつかない落ち着きを醸しだし、選手ものびのびとプレーできた。

後輩のことで、筆が甘くなるのはご容赦いただき、長年の我慢を実らせた緒方監督、そして広島に拍手を送りたい。

(野球評論家)

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