共働き夫婦の財布、互いに「見える化」するのが鍵
共働きの家計管理、悩ましいのがお互いの収入と支出の把握。「お財布は一緒」派、「お財布は別々」派など、それぞれのスタイルはあるけれど、結局どうするのが一番、家計にプラスなの? ファイナンシャル・プランナーの前野彩さんに聞いてみました。前後編の2本に分けてお送りします。
夫婦でお互いの収入や支出、把握してる?
共働き世帯は1990年代後半に専業主婦世帯を上回り、現在は6割を超えています。

共働き家庭の割合を年齢別に見ると、妻の年齢が25~34歳は約59%、35~44歳は約64%、45~54歳は約70%です(総務省「労働力調査2016年1~3月」)。

グラフの通り、55~65歳の世帯では、退職する女性が増えるので共働き世帯は減少しますが、現役世帯では、妻の年齢が上がるほど共働き世帯が増えていることが分かります。子どもが小さいときは、子育てを中心に生活したいという希望や待機児童の問題があっても、子どもの成長につれて働く環境が整ったり、経済的あるいは自己実現などの理由で働く女性が増えているのかもしれませんね。
共働きの読者の皆さんは家計管理をどのようにしていますか。夫婦(世帯)としての収入や支出、貯蓄を意識していますか?
「家計の見える化」ができている家庭のほうが貯蓄額は高い!
私は普段、有料の家計相談を受けていますから、どちらかというと「本気度」が高く、お金に関するアンテナも高い方がご相談にいらっしゃいます。今までに1500件を超える家計相談に対応してきましたが、その中で家計の把握がスムーズな家庭と貯金に苦労している家庭には、キーワードがあることに気づいたのです。
それが「家計の見える化」です。
お互いの収入や貯蓄、支出などが把握できている、つまり「家計の見える化」ができている家庭では、家計の改善度も早く、貯蓄額も高い傾向にあります。
一方、貯金や家計管理に悩むご家庭では、お互いの収入や貯蓄額などのお金について「自分のお金の出入りは言いたくない」「相手の状況も分からない」という人が多く、「見える化」できていないことが多いのです。
自分が働いて稼いだお金ですから、基本的にはどのように使おうと自由ですが、「見える化」ができていない家計にはリスクが伴うことも知っておきましょう。

家計を企業の経営に置き換えて考えてみましょう。
例えば、あなたが企業の経営者(社長)だとします。
社長ですから、社内で社員が使うボールペン1本をいくらでどの業者から仕入れているのか、または給湯室の洗剤をいくらで誰が買ってきているのかは知らないかもしれません。それらのこまごまとしたお金の出入りを管理するのは、経理部門になることでしょう。
でも社長は会社を経営するために、企業としての売り上げや経費、どれくらいの税金を納め、手元に利益がいくら残っているのか、ということは必ず把握していますよね?
社長はお金を稼ぐ社員の代表であるからこそ、ボールペン1本、洗剤1つの値段は知らなくても、経理部門から聞き、自社の経営に必要な数字は知っているはずなのです。
それを、自分は社長だからといって、経理を人に任せっぱなしにし、その内容にも興味を持たず、人脈拡大を言い訳に飲み会やゴルフばかりしているなら、その企業はどうなるでしょうか。ご想像の通り、効率良い経営はできませんし、自社に投資する金額もタイミングも分からず、経営上のリスクも把握できません。こんな会社は倒産してもおかしくないでしょう。
家計の把握ができていないということは、「売り上げも経費も利益も把握できていない社長」を作り上げているようなものなのです。
パートナーは「ライバル企業」ではなく「グループ企業」
共働き家庭の場合は、さらに複雑です。
収入源が2つあるということは、1つの家庭に2つの企業の社長がいることになります。だからこそ、「自分の収入を言いたくない」「相手がためているお金が分からない」ということも起こるのですが……でも、あなたのパートナーは「ライバル企業」なのですか?
もし「ライバル企業」でしたら、収入も支出も貯蓄も秘密にして当たり前でしょう。
でも、同じ目的や喜びを得て生きていく「グループ企業」のパートナーなら、お互いの収入や支出、貯蓄をオープンにすることで、集中投資ができたり、コストカットが可能になったりすると思いませんか。
せっかく2人で働いているのだからこそ、その力を最大限発揮するためにも、「ライバル」はやめて「グループ企業」として一つの家計を作りましょう。そのためにも、お互いの家計を「見える化」することがカギなのです。
次回は、共働き家庭によくある3パターンの家計管理をお伝えしますので、その準備として、まずはお互いの家計を「見える化」してみてくださいね。

Cras代表取締役。FPオフィス will代表。大阪在住のファイナンシャル・プランナー。保健室の先生を経て、結婚、退職、住宅購入、加入保険会社の破たんを機にFPに転身。自らの住宅ローンで800万円、生命保険で1000万円の見直しを行った実績を持つ。講演やテレビでも活躍中。近著に『本気で家計を変えたいあなたへ ~書き込むお金のワークブック』(日本経済新聞出版社)、「『家計のプロ直伝!ふるさと納税新活用術』(マキノ出版)。
[日経DUAL 2016年7月28日付記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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