産業用IoTで覇権争い GEとシスコが対決
IT(情報技術)大手各社はあらゆるモノがインターネットにつながる「IoT」で優位に立とうとしのぎを削っている。広範囲にわたる需要が見込まれるIoTサービスを積極的に推進している企業で時価総額が1500億ドルを超えるのは、現時点では米グーグル、米マイクロソフト、米アマゾン・ドット・コム、米ゼネラル・エレクトリック(GE)、米AT&T、米ベライゾン、米IBM、そして米シスコシステムズの8社だ。クラウド、コンピューター、通信会社を除けば、残るは産業用IoTに狙いを定めるGEとシスコとの興味深い対決となる。この大手2社の対決は見ものだ。共にIoT市場に適応するために自己変革に取り組んでいるとあってはなおさらだ。
IoTへの期待が大きければ、投資額も大きい

米調査会社IDCは、IoT分野への熱意が伝わってくるほど、投資額も大きくなることを示している。
IDCは6月のリポートで「米企業による今年のIoT関連のハードウエア、ソフトウエア、サービス、インターネット接続への投資額は2320億ドルを超えるだろう。さらに、2015 ~19年の米国のIoT関連の売上高は平均で年16.1%増え、19年には3570億ドル以上に達する」との見通しを示した。
IoTには巨額の資金が投じられるため、GEとシスコは自社こそがIoTソリューションの信頼できるパートナーだと証明したいと望んでいる。それぞれのアプローチを詳しく検討してみよう。

GE デジタル変革を全力で推進
GEはここ数年、徹底した自己変革に取り組んでいる。
同社はホームページで、自社についてこう称している。
・世界最高のデジタル・インダストリアル・カンパニー
・物理世界とデジタルの融合を図り、産業革新を進める
・検出、予測、対応で世界をより機能的にする
GEは14年、米ピボタル・ソフトウエアのクラウド基盤「クラウド・ファウンドリー」をベースに開発したIoT基盤「プレディクス」が間もなく利用できるようになると発表した。GEは遅くとも1億500万ドルを投じてピボタルに10%出資した13年4月には、プレディクスの開発に着手していた。ピボタルは米EMCと米ヴイエムウェアから分離・独立した企業で、新たなソフトウエアの短期間での開発を支援している。
GEは産業分野でかねて手掛けてきた事業に、クラウド・ファウンドリーのような最先端のクラウド基盤への金銭的・技術的投資を組み合わせれば、IoTでチャンスをつかめると確信している。
GEのジェフ・イメルト最高経営責任者(CEO)はビジネス向け交流サイト(SNS)リンクトインとの最近のインタビューで、これに関する見解をいくつか示している。
「企業や消費者向けのIoTにはない『インダストリアル・インターネット』の強みには、とてつもない価値がある」
「これを成功させるには、GE内に水平事業、つまりソフトウエア分析会社を設立しなくてはならないだろう」
さらに興味深いことに、ニュースサイトやSNSで広く取り上げられたこの発言は、GEがデジタル変革にどれほど深く関わろうとしているかを表している。「この会社のどこに配属されても、プログラミングを学ぶことになる。100%全員がだ」
IDCの予測では、IoTが最も得意とする分野は製造作業、輸送、スマートビルディングであるため、GEの出番は多い。GEの売り上げではもちろん電力や航空、医療が大きな比重を占めているが、輸送や電化製品、照明事業の売上高も数十億ドルに上る。

シスコ IoTでつながる未来
通信の雄であるシスコは、別の角度からIoTに挑んでいる。通信分野での強みを生かし、IoT市場に最適なソリューションを提供しているのだ。同社の「IoTシステム概要」には、こうした顧客の代表例が記載されている。
・二輪大手の米ハーレーダビッドソンは、工場全体に通信用インターフェース「イーサネット」と電子看板を導入し、サプライチェーン全体で柔軟性を向上させた。
・カナダの電力会社BCハイドロは、シスコ・フィールドエリア・ネットワークとフォグコンピューティング(様々な機器から集まるデータを、地域や用途に応じて設置するサーバーで分散処理する仕組み)を使ってIPベースのマルチサービスネットワークを構築し、スマートメーターや配電自動化(DA)デバイスなどグリッドの末端管理を一元化している。
・カナダ第6の都市ミシサガは、シスコのIoTシステムを使い、市内全域でのWi-Fiの提供、交通網の接続、ビルの最適化、スマート街灯システムを実現している。
シスコはシスコ・フォグコンピューティング、ネットワーク接続、物理的セキュリティーとサイバーセキュリティー、データ分析、管理と自動化、そしてアプリケーションプラットフォームという6つの技術の柱で自社のIoTシステムをさらに詳しく解説している。だがこれは、GEが明らかにしたプレディクスの詳細ほど先進的ではない。シスコもピボタルのクラウド・ファウンドリーと一部提携してはいるが、これを自社のIoT戦略の柱と位置付けていないようだ。
むしろ、シスコのIoT分野でのこれまでで最も意欲的な動きは、IoT支援サービス大手、米ジャスパー・テクノロジーズを14億ドルで買収したことだ。16年2月に買収を発表すると、1カ月後の3月には完了させている。
シスコ・ジャスパーは自社製品「コントロールセンター」について、IoTサービスを管理し、最適化するIoTクラウド基盤だと説明している。技術の詳細をやすやすと公表するつもりはないが、コネクテッドカー、EMS(エンタープライズ・モビリティー・サービス)、産業機器、小売り・決済ソリューション、セキュリティー・ホームオートメーション、そして輸送・物流など産業全般に及ぶ様々なソリューションを紹介している。ホームページでは、スイス重電大手ABBや米フォード・モーター(ピボタルへの出資者でもある)、米ゼネラル・モーターズ(GM)、欧州ビール大手ハイネケンなど一流顧客の名前を挙げている。
もちろん、以下のグラフから分かるように、シスコは売り上げ構成からみればいまだに通信システム会社にすぎない。
シスコが最近の組織再編で、セキュリティーやIoT、クラウドなどの分野へのシフトを強調したのは、おそらくこれが一因だろう。

コーペティション(競争しながら協力関係にもあること)と将来的な競争
もちろん、GEとシスコは協力せざるを得ない。両社は昨年、製造業の生産性を向上させるために協力して取り組む方針を明らかにした。だが、16年にはシスコとGEが協力しているというニュースはほとんどない。
IoTはまだ初期段階のため、シスコなどによるネットワーク中心のアプローチがGEのような産業機器のアプローチを向こうに回してどんな進展を遂げるのかは定かではない。この白熱した分野にさらに注目すべきなのは確かだ。
By Gary Orenstein(リアルタイム分析向けデータベース基盤を提供する米MemSQLの最高マーケティング責任者)
(最新テクノロジーを扱う米国のオンラインメディア「ベンチャービート」から転載)
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