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もしも東京五輪で福原愛が台湾代表になったら

編集委員 北川和徳

リオデジャネイロ五輪に最大の影を落としたのはロシアによる国家ぐるみのドーピング隠しだった。国際オリンピック委員会(IOC)がロシア選手団全体の排除を避けたことで、リオには200人を超えるロシア選手が出場を果たし、19個の金メダルを獲得した。

高齢選手が活躍、五輪は素晴らしい

会場からはロシア勢へのブーイングも起きたそうで、勝者への疑念が芽生えたことは否定できない。日本選手は幸いにも無縁だったが、ドーピングに関して欧米とロシア、中国の選手同士が批判の応酬をするなど、五輪にはもっともそぐわない雰囲気も生まれた。

そんな中でも、「やっぱり五輪はいいな」と思わせるシーンもたくさん見ることができた。日本選手の話題以外でもだ。例えば、過去にはあまり見られなかった高齢アスリートの活躍が挙げられる。

卓球の女子シングルスで53歳のルクセンブルク代表、ニシャリャンのにこにこしながらのプレーは見ていて楽しくなった。元中国代表で20代のころに国籍を変えた帰化選手。失礼ながら、見た目は日本の普通のおばさんのようでもある。

左利きでフォアもバックも同じ面で打つ古典的ペンフォルダーだが、両面にラバーを張っていて、一瞬でラケットを反転させて両面を使いこなしている。必要最小限しか動かない。しかし、巧みに手首を使ってほとんどのボールを簡単に返球する。素人の卓球プレーヤーにも参考になりそうだ。

昨年は国際大会で福原愛(27)に勝ったこともあるという。3回戦で敗れたものの、ロンドン五輪の銅メダリスト、フェン・ティアンウェイ(シンガポール)から2ゲームを奪った。もし勝っていれば、福原と対戦したかもしれない。

体操女子のオクサナ・チュソビチナ(ウズベキスタン)の跳馬の演技にも驚いた。41歳にして種目別の決勝に進出。跳馬を前転で飛び越えて2回宙返りして着地する最高難度「プロドノワ」を披露した。残念ながら着地が決まらなかったが、勢い余ってさらにもう一回転する躍動感。まるで年齢を感じさせない。

41歳のチュソビチナは7度目の出場

旧ソ連時代からの体操選手。最初の五輪は旧ソ連の合同チームで出場して団体金メダルを手にした24年前のバルセロナ大会。17歳だった。その後は祖国ウズベキスタンや、難病の子供の治療で移住したドイツ代表として活躍。13年にドイツ側の了解を得て再びウズベキスタンに国籍を戻し、通算7度目の五輪出場を果たした。

競技を続けたのは賞金やスポンサーを得て、子供の治療費を稼ぐ目的もあったという。その間に体操はルール変更が何度もあり、彼女が得意とする跳馬の形状もすっかり変わってしまった。それでもトップレベルの実力を維持している。スキー・ジャンプの葛西紀明(44)さえ上回る究極のレジェンド(伝説)と呼べるだろう。

2人とも国籍を変えた帰化選手であるということに注目している。ニシャリャンの事情はよく分からないが、チュソビチナの2度にわたる国籍変更は家族の事情と祖国への愛着によるものだ。

一方で、五輪への出場を目指して、競技レベルの低い国に国籍を変える選手も増えている。リオ五輪でカンボジアのマラソン代表として出場した滝崎邦明(39、タレントの猫ひろしさん)のケースが有名だ。「そうまでして五輪に出たいのか」と批判的な意見も多いようだが、個人的には決して悪いことではないと思っている。

猫ひろしさんはカンボジア代表として男子マラソンに出場=共同

もちろん、新たな国籍を得た国に溶け込んで生活し、「われらが代表選手」として新天地で認められることが前提ではある。さらにいえば、競技を退いた後で再び国籍を戻すなどということは勘弁してほしい。国家の側が、自国のメダルを増やすために他国の有望選手を引き抜くなどということも絶対にやめてもらいたい。

国家でなく選手同士の競争、が本質

国・地域ごとの代表で争う五輪は、どうしてもナショナリズムを高揚させる側面を持つ。結果として国威発揚に利用され、メダル獲得のための国同士のなりふり構わない競争につながる。それが、ロシアのドーピング隠しの背景にもある。

だが、五輪の本質は、国家の競争ではなく選手同士の競争である。表彰式では優勝者の国の国旗が掲揚され国歌が演奏されるが、それは勝者をたたえるためであり、国をたたえているわけではない。五輪の時にいつも国別のメダル獲得表を掲載するメディアの一員としては偉そうにいえないが、五輪憲章は「オリンピックでの勝利の栄誉は選手個人のものである」と定めている。

ところが、応援する側が選手個人よりもその属性である国にフォーカスしてしまい、時に矮小(わいしょう)なナショナリズムがむき出しになるのも五輪の実態。そんな殺伐とした雰囲気を、自分の夢や個人的事情のために軽々と国境を越えてしまう新しいタイプのアスリートが変えるかもしれないと期待している。

若手の充実ぶりを考えると、福原の4年後の代表入りはほとんどないのでは=共同

最近、こんな想像というか、妄想を膨らませている。卓球の福原が、現在交際していると伝えられる台湾の選手と結婚して、4年後の東京五輪に台湾代表として出場したら、どんな雰囲気が生まれるのだろうかと。

もちろん、結婚したからといって国籍を変える必要はないし、日本の卓球界には彼女を失うことに抵抗を感じる人も大勢いるだろう。とはいえ、今の日本の若手選手の充実ぶりを考えると、福原が4年後の五輪に日本代表として出場する可能性はほとんどないと思う。

中国語が堪能な福原は中国国内と同様に台湾でも人気者だ。簡単ではないかもしれないが、台湾代表になったとしても、あちらで大歓迎されるのは間違いない。

日本のファンだって、複雑な感情を抱きながらも、日本での五輪にやって来た「愛ちゃん」を祝福するだろう。4年後の東京体育館。メダルをかけた試合で、福原VS石川佳純(23)や福原VS伊藤美誠(15)が実現したら……。日本人にとって、五輪の新しい時代の到来を告げる歴史的な瞬間となるのではないか。

福原にその気がなければ、ただの妄想にすぎないのだが……。

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