耐震性能住宅の盲点 「2000年基準」倒壊の理由
「新耐震住宅」はなぜ倒壊したか(2)
2016年4月に発生した熊本地震は、住宅業界に大きな衝撃を与えた。熊本地震を機に、これからの家づくりの在り方を考え直そうという人は多いだろう。連載第2回では、熊本地震の被災地で見えてきた「2000年基準」の住宅が倒壊した原因に迫る。
熊本地震では、現行の耐震基準、いわゆる2000年基準の住宅が倒壊した。住宅A(下の写真)はその一つだ。

2010年に完成した熊本県益城町の住宅Aは、長期優良住宅の認定を取得するため、壁量を建築基準法の1.25倍とする住宅性能表示制度の「耐震等級2(等級2)」で設計していた。国が定める耐震基準よりも高い耐震性能であったはずだが、本震で倒壊した。


日経ホームビルダーはこの住宅Aを例に取り、2000年基準に沿って建築された住宅が倒壊した原因を探った。居住者の了解を得て図面を入手し、木造住宅の専門家に分析を依頼。構造計算ソフトを開発するインテグラル(つくば市)でシステム開発部マネジャーを務める落合小太郎氏が構造計算を担当し、工学院大学名誉教授の宮澤健二氏とインテグラル社長の柳澤泰男氏が結果を分析した。

壁位置の上下不ぞろいが弱点に
まず注目したいのは、耐震性能に影響する壁量だ。等級2は2000年基準の1.25倍だが、熊本の地域係数0.9を掛けて1.12倍としている。ただし、この住宅は石こうボードを使用しており、計算上は準耐力壁として扱えるので、これも含めると壁倍率は約1.5倍となる。「等級3」レベルに近く、余裕度の高い仕様であることが分かる。
それにもかかわらず倒壊したのはなぜか。原因は様々なことが考えられるが、その一つとして注目したのが、1階、2階の柱と耐力壁の位置関係だ。例えば、南側の桁行方向(Y方向)についてみると、1階、2階の壁が連続しているのは玄関周辺だけで、そのほかはほとんどつながっていない。
1階と2階がつながっている柱や耐力壁の割合を「直下率」と呼び、構造的なバランスを評価する重要な指標として使われている。A邸の直下率は柱が47.5%、耐力壁が17.8%(X方向)で特に耐力壁の直下率が小さい。直下率は建築基準法や住宅性能表示制度にも規定がないが、宮澤氏は「直下率が低いと耐力壁の効きが悪くなる」と話す。


上下階で柱や耐力壁の位置をなるべくそろえるなど、地震力がうまく耐力壁に伝わるような配慮をしたい。
(日経ホームビルダー 荒川尚美)
[日経ホームビルダーWeb版2016年9月1日の記事を再構成]