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けが乗り越え頂点へ 車いすテニス・国枝慎吾

車いすテニスの男子シングルスにおいて、ロンドン大会でパラリンピック史上初の連覇をなし遂げたのが国枝慎吾(32、ユニクロ)だ。3連覇に挑む今年はケガに悩まされ、苦難続きとなっている。だが「俺は最強だ」と自らを鼓舞する王者の心は、折れていない。

2020年の東京大会を盛り上げることが出場を決める大きな理由になったという

右肘痛再発し手術、「しんどかった」

国枝の右肘を再び痛みが襲ったのは6月1日、全仏オープン車いす部門開幕前日の練習の時だったという。

「おおっと、来たなーと。全豪オープンの時も痛かったが、その時と同じくらいのレベルになっちゃったなって」

昨年10月、2年連続年間グランドスラムを達成した全米オープン後、肘に違和感が出た。ごまかしながらプレーをしていたが、同12月の世界ランク上位8人が集まる世界マスターズで、ベルギーのジェラールに1次リーグ、決勝と2度負けて準優勝にとどまる。

今年1月の全豪オープンではグランドスラムで初の初戦敗退。初戦敗退自体も11年ぶりで世界ランク1位から滑り落ちた。様々な治療を試したが効果は薄く、4月9日に内視鏡によるクリーニング手術に踏み切った。

右肘は古傷だ。4年前も、ロンドン・パラリンピックを9月に控えた2月に手術をしている。それでも本番は勝った。リハビリ期間がより短くなるのを承知での手術は、「前回はコップを持つのも痛いぐらい。今回はテニスがやれるぐらいの痛み」と深刻ではなく、直前まで迷ったからだ。

5月23日から有明コロシアムで行われた国別対抗戦ワールドチームカップで復帰。不安なくプレーはできていた。それが、フランスへの渡航後に暗転。車いすを動かすのに、より力が必要な重いクレーコートが災いしたのか。

「精神的にはしんどかったですね。一度手術もしていて、もういけると思ってからの痛みの再発だったので」と率直な胸の内を国枝は語る。「おれって、こんなにメンタル的に弱かったんだと思いました」。ツアー生活に入ってから最大ともいえる試練は、グランドスラムのシングルス優勝20回の王者に初めて、本当の自分を突きつけたようだ。

心のよりどころとなったのは17歳の時から師事する丸山弘道コーチやトレーナー、そして家族だ。特に相談にのり、不満のはけ口にもなってくれた「妻の支えはすごく大きかった」という。リオまでの残り時間を考えれば、再びメスを入れることはできない。周囲からは「ここは行かないと男じゃないでしょ」とあおる言葉も聞こえてきたが、国枝は冷静に決断を下した。「リオの後に重きを置くのか、それとも今回のパラリンピックを優先するのか。結果、リオを優先しました」

車いすテニス国別対抗戦の国枝。「金メダルなら、今年の苦悩は帳消し」と語る

金メダルに向け「全員倒すつもり」

「やはり、4年間のスパンの集大成だと思うし、リオでしっかり勝つなり負けるなり、自分自身ストーリーをつくる必要があるかな、というふうに今は思っています」

フランスから帰国後、6月中旬から国立スポーツ科学センター(JISS)でリハビリ合宿にはいる。別の治療法も試し、状態が上向いてきた7月中旬から、ラケットを握ってボールを打ち始めた。8月に入って1日6時間と、普段の倍の強度の高い練習もこなせるようになった。

ただ、まだ痛みは「多少ある」状態だ。痛みから完全に解放されて臨めたロンドンとは違う戦いになる。ランキングも8月22日現在で7位に落ちているため、準々決勝から世界ランク1位のフランスのウデら上位選手とあたる可能性が高い。

それでも「金メダルをとるためには全員倒すつもりでやらないといけないので、(ランクは)あまり関係ない。向こうも(自分と早い段階であたるのは)嫌だと思う」。頂上からみた景色とは違う、下からの眺めに闘志をかき立てられている。

そもそも、国別対抗戦での復帰を危ぶむ声は周囲にあった。しかし、初めての日本開催だったことが、出場を決断した大きな理由だ。「日本じゃなかったら出ていない。2020年を盛り上げたいと思っているし、これだけパラリンピックが注目されることはなかったから、その舞台で勝ちたい。それが今回リオを目指す原動力です。もし2020年が東京じゃなかったら、今回のリオはパスという判断もあったかもしれない」

早期復帰がケガの再発につながったかは不明だが、国枝は「金メダルをとれたら、今年の苦悩はすべて帳消しにできると思う」と決然と話す。最も注目されるパラアスリートとして、背負うものを優先させるのが国枝という人間なのだろう。

車いすテニス男子シングルスは大会3日目の9日から。かつてない試練を経た、王者の挑戦が始まる。

 障害者(パラ)スポーツの4年に1度の祭典、パラリンピックが、オリンピックの余熱がさめないブラジル・リオデジャネイロで開かれる。9月7日(日本時間8日)からの12日間、五輪での日本勢活躍の勢いを、日本のパラアスリートたちはつなぐことができるか。特に前回ロンドン大会で頂点に立ち、連覇に挑む選手たちの思いは強い。(摂待卓)

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