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走る 彗星のごとく パラ陸上(上肢障害)辻沙絵

「彗星(すいせい)のごとく現れる」とは、辻沙絵(日体大)のようなアスリートのことを言う。

生まれつき右肘から先がないながら日体大ハンドボール部でプレーしていた昨年、大学で障害者(パラ)スポーツを研究する教授のすすめで体力測定をした。すると瞬発力がすぐれているとわかり、陸上短距離への転向を打診される。目指すはパラリンピック。

だが同大陸上部の指導者、水野洋子によると「当初はなぜ自分がパラスポーツをしないといけないのかと前向きではなかった」という。ただ兼部で陸上にも取り組み、春から大会に出場すると、片腕の肘先欠損などの障害をもつT47クラスの100メートルと200メートルで日本新記録を連発。その年の秋、世界選手権代表に選ばれたのが転機となる。

自身は100メートルで自己ベストも出せずに6位に終わったが、男子走り幅跳びで優勝した山本篤の勇姿を見て「自分も表彰台に立ちたい」。二足のわらじを脱ぎ捨てた。

主戦場は400メートルだ。世界の強豪と辻の持ちタイムを比較したところ、ひと冬鍛錬すればメダルも見えてくるとの水野の見立てが当たる。義手をつけて臨んだ今年3月のアラブ首長国連邦(UAE)の大会で59秒72を出し、世界ランクで3位に。陸上を始めて1年余りで、一気にメダル候補に躍り出た。

北海道の小学校5年からハンドボールに親しみ、茨城の強豪高へスポーツ留学して鍛えられた素地があるとはいえ、陸上への適応は簡単ではない。大きいのはタイム感覚が身についていないこと。長年走っているアスリートは、「今自分がどのくらいのタイムの速さで走っているか」が感覚的にわかるが、促成栽培の辻にはそれが乏しい。

UAEでの好記録も、真ん中のレーンで、同じぐらいのタイムのロシア選手についていった結果だった。今年の試合は外側のレーンを先行して走らざる得ないレースが多く、「感覚がつかめてない分、前半行きすぎて後半つぶれたり、前半いかなくて後半あがってこなかったりとムラがあった」と認める。

ただ、7月からは400メートルの練習に集中。目指す前半200メートルの28秒台での通過が「毎回できるようになってきた」という。後半を30秒でまとめれば58秒台も。これは今季世界ランク2位にあたる。

「大好きだった」というハンドボールをあきらめるのに葛藤もあっただろう。プレーの一番の思い出は、中学の部活の顧問から、それまで決まらなかったロングシュートが入り、「沙絵、太陽が見えたね」と言われた時だったという。「あれは忘れられない」

「暴れてきたい」という初のパラリンピック。情熱の国の太陽も、忘れられないものになる。=敬称略

(摂待卓)

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