パキッと原色 ももクロ衣装に万祝どう?(動画あり)
ももクロVS伝統工芸/玉井詩織、「万祝」に挑戦(3)

千葉県鴨川市で千葉の伝統工芸「万祝」(まいわい)に挑戦してきた玉井さん。生地に色を塗る「色差し」に挑戦し、万祝の歴史を勉強した後、実際に万祝を試着してみます。
万祝1着目……涼しくて柔らかくて着やすい!

まず玉井さんが着てみたのは白い万祝。背中には玉井さんが第1回で黄色く塗った「大漁」という文字が書かれ、下部には大きく竜の絵が描かれています。コイの滝登りという言葉があるとおり、滝を登ったコイは竜になるといわれており、めでたい絵柄です。古い見本帳にも竜の図柄は残っているそうですが、実際に竜が描かれた万祝は珍しいとのこと。
万祝2着目……夏菜子ちゃんの色だ!


続いて袖を通したのは、派手な赤に「朱雀」と白抜きで書かれた万祝です。朱雀は青龍、白虎、玄武とならび、南をつかさどる霊獣のこと。下に描かれているのは葛飾北斎の天井画を万祝流にアレンジしたものだそうです。実物はかなり大きめ。着ると足の先まで隠れてしまいます。昔の万祝では、地色に赤は使われなかったのですが、「万祝の新しい可能性を示す」ことから、工房に飾っているそうです。そういう意味では、赤はももクロのリーダー、百田夏菜子さんのイメージカラーなので、玉井さんが赤い衣装を着るのも珍しいかも。
万祝3着目……これが伝統的な万祝

色は藍に染められ、鶴、亀に松竹梅、末広がりを示す扇子などが描かれています。4代目の鈴木理規さんによると、万祝ではこういったおめでたい絵が好まれたそうです。
今回、玉井さんが色差しに挑戦したのも、この絵柄です。上の赤い「鴨川」の文字が黄色い「大漁」に代わり、現在黒く塗られている亀の甲羅も黄色になります。また地の色も、やはり万祝の伝統的なカラーである「藍鼠(あいねずみ)」に変更されます。どのような色合いになるかは、最終回となる次回をお楽しみに。万祝を着たときの動画は記事の最後で紹介していますので、そちらもご覧ください。

偶然の出合いが導いてくれた今の仕事
江戸時代から続く伝統的な工芸品である「万祝」を体験した玉井さんは、さまざまな万祝が飾られる別室にやってきました。まずは万祝の体験を終えた感想を聞いてみます。
──今回、鴨川市に伝わる千葉県の伝統工芸「万祝」に挑戦してもらいました。いかがでしたか?
玉井 難しかった。立ったまま動く生地に色を塗るって大変。昔から私、塗り絵って苦手なんですよ。鈴木さんは昔から絵を描く勉強をしていたんですか。
鈴木 実は大学では全然関係のない、外国語の勉強をしていたんです。
玉井 えー、それがどうして家の仕事を継ぐことになったんですか。
鈴木 大学4年生の時にはアパレルメーカーに就職が決まっていたんです。そのときに祖父が亡くなって、父が1人で仕事をすることになってしまった。将来的には家業を継ぐにしても、やっぱり社会人として働いてみたい。でもそうすると父が1人で仕事をすることになる。どうすればいいか考え始めたら、頭の中がパンパンになってしまって。一度、自分を見直そうと思って、バックパッカーでアメリカ横断の一人旅へ出たんです。

玉井 すごい、私たちの先を行っている(ももクロは11月にニューヨーク、ロサンゼルス、ハワイでのライブを予定)。そっちの話もめっちゃ聞きたい(笑)。
鈴木 その途中で鴨川と交友関係があったモントレー(カリフォルニア州モントレー市)を通ったんです。日本にゆかりのモノがあるかなと思って立ち寄ったら、ミュージアムに祖父が作った万祝の大漁旗が飾ってあったんですよ。
玉井 すごい偶然ですね。
鈴木 これは何かの縁だろうと思って、日本に帰った後、内定をもらっていた会社に「家業を継ぎますので」と連絡を入れたんです。
玉井 おじいさんが導いてくれたって感じがしますね。

──玉井さんが今の仕事を始めたきっかけは?
玉井 私もアイドルを目指していたわけじゃないんです。巡り合わせというか。そういう意味では鈴木さんと通じるものがあるかもしれない(笑)。街で今の事務所にスカウトされてレッスンを受けるようになったんですが、実は本気でやりたいと思ったのはももクロを始めてからなんです。それまでは申し訳ないですけど、どうしてもアイドルになりたいという気持ちではなかった。実は私、ピアノに英語、水泳、器械体操って、昔からいろいろな習い事をやっているんですよ。だから、このお仕事も最初は習い事感覚でした(笑)。ももクロに選ばれたのも事務所との契約がなくなる直前で、資料に「特技 ダンス」と書いてあるのを見て選ばれた。本当は他に書くことがないから書いただけで、全然特技じゃなかったんですけどね(笑)。

街で「ももクロ」って聞こえてくると聞き耳を立てます
玉井 鈴木さんが仕事をしていて楽しいと思うのはどんなときですか?
鈴木 やっぱり自分の作品を一から作れるのは楽しいですね。どんな会社に就職しても一部しか担当できない場合が多いじゃないですか。その点、小さなところでやっているので、下絵作りから始めて、お客さんの手に渡るまで、すべてが見られますから。
玉井 1つの作品に自分がそれだけ費やしたという達成感はいいですね。
鈴木 はい。自分が作った作品を手にとってもらって喜んでもらえるときが一番うれしいです。
玉井 CDは自分たちの作品ではあるけれど、大勢の方が関わって作り上げるものなので、自分たちだけで作ったという感じはないんですよ。でも、手にとってもらったときのうれしさはすごくわかる。私、CDショップにもよくのぞきにいくんです。ももクロのCDを手に取ってくれている人がいると、陰から「お、いいぞいいぞ」って(笑)。街中でも「ももクロが……」という会話が聞こえてくることがあるんですが、そういうときは心の中で「ここ、ここ」って叫んでます。町の中で「ももクロ」という言葉が出てくるとすごくうれしいですね。
──「ももクロが……」って聞こえてきたときは、聞き耳を立てるんですか。
玉井 立てます。悪口じゃないかなって(笑)。
鈴木 でも、そういう状況ってうれしいでしょうね。万祝はまだ国内でもよく知られていないので、どうすればもっと知ってもらえるかはいつも考えています。
──玉井さんがアイドルをやっていて楽しいと思うときは?
玉井 人それぞれだと思いますが、いろいろなお仕事をさせてもらえるのが私にとっては向いている。アイドルの本業は歌って踊ることかもしれないけれど、私はいろいろなことをやりたいタイプなので。
今までやってきたことが役に立つ瞬間
──伝統工芸を受け継ぐのは大切なことだと思いますが、将来に対する不安はありませんか。
鈴木 せっかくもらった人生だから人と違う面白いことがやりたいと思って選んだので、普通の会社に就職すればよかったと思うことはありません。ただこういう仕事って不安定じゃないですか。今は独り身だからいいけれど、結婚して子どもができたらどうなんだろうという不安はあります。
玉井 これからどうやっていこうと思います?
鈴木 日本の人口は減っているでしょう。せっかく大学で外国語を学んだんだから、将来は日本の文化として海外に持って行ければと考えています。
玉井 そうか。そこで大学で学んだ英語力が生きてくるんですね。
鈴木 絵に関してはもっと勉強しておけばよかったと思うんですが、それ以外のことは回り回って役に立ってくることが多いのかなって。
玉井 でも新しいことは新しく覚えればいいし、今まで勉強してきたことも役に立つっていいですね。私たちもそう思うことってよくあるんです。その時はやりたくないなと思ったことでも、回り回って「あ、あれがあったからよかったな、今があるんだな」と思うことが。あいさつでも最初から「楽屋にいる方、一人ひとりに大きな声でするように」と言われて、1人ずつ「私たち今会える~」ってやってきたんです。他の人がいるから恥ずかしかったんだけど、今になって先輩方から「ももクロはあいさつがしっかりできるね」と言われて、そこからお話ができるようになったりすることもあって、ああ、無駄じゃなかったんだなと改めて思っています。

──玉井さんは将来に対して不安はありませんか?
玉井 不安は学生の頃のほうがありました。ももクロもこんなに長く続くとは思っていなかったんですよ(ももクロは今年5月で結成8年)。女性のアイドルって若いうちで大人になると卒業というイメージがあるでしょう。だから高校進学はすごく悩みました。芸能コースのある高校にいって、仕事をしていなかったらすごく格好悪いじゃないですか(笑)。だから普通の高校に進学したんです。当時は高校を卒業した後のアイドルってイメージがわかなかったんですよ。でも、今はそういう不安はないです。中学生の時は20歳の自分を想像して「まだアイドルやっているのかな、そんなアイドルいる?」って思っていたんだけど、中学1年からももクロを続けているうちに、それがありなんだなと分かったし。

もっと多くの日本人に万祝を知ってほしい
──お二人が仕事でどんな挑戦をしていきたいか、最後に聞かせてください。「20歳でアイドルをやっているのもありなんだ」と分かった玉井さんは?
玉井 あ、私からか(笑)。グループをずっと続けるというのは永遠の目標です。女性のアイドルグループは卒業や解散するという常識を破りたいんですよ。さらにその中で個々の力をつけていきたい。今でこそ「黄色の子だよね」と覚えてもらえるようにはなりましたが、名前やキャッチフレーズ、グループでの役割まで知ってもらえるように力がつけられればと思います。

──実際、最近のももクロは個別の活動が目立ちます。リーダーの百田夏菜子さんはNHKの朝ドラ(10月スタートの『べっぴんさん』)への出演が決まっていますし、有安杏果さんはソロコンサートで横浜アリーナを満員にしました。玉井さんはどの方向へ進みたいんですか。
玉井 何って決めてやるのも難しいから、逆に何でもやりたい。何かひとつ決めつけてやるのは難しい。それ専門でやっている方がいるわけですから。何でもできるのがアイドルの特権だと思います。ただ私って器用と言われることも多いんですが、「テストで全部平均点」みたいなタイプなんですよ。それは脱出したい。「器用貧乏」とずっと言われていたので、「器用大尽」になりたいと思います。でも、私より鈴木さんの夢を聞こうよ(笑)。やっぱり海外進出ですか。
鈴木 将来的には海外に持って行きたいんですけど、その前にまずは日本でもっと多くの方に万祝を知ってもらいたいですね。まだ日本で知らない人が多いですから。
──前回、玉井さんに「万祝でどんな新しいものを作るか」という質問をしました。どんなモノを作れば、もっと多くの人に知ってもらえると思いますか?
玉井 難しいなあ。前にも言いましたが、無責任なことは言えないし。でも、私が欲しいものなら言えるかな。先ほど体験させていただいて、一つ一つ全部手作業でやっているのはすごくうれしいし、欲しいと思うんです。後はそれに、新しいものがプラスされればもっと欲しくなると思う。例えば今風の絵に万祝の技術が加わったらどうなるんだろう、見てみたいという思いはあります。
鈴木 そういう可能性はあるかもしれない。万祝も昔は絵を描く人が専門にいたんです。新しい絵柄が万祝の色合いになると面白そうですね。原色が多いので、派手になりますから。
玉井 パキッとする感じだから、目立つと思う。そうだ、ももクロは和をモチーフとしたアイドルなんですよ。だから、ももクロの衣装に万祝を入れるのはどうだろう。着物モチーフはあったけど、ここまで原色のパキッとした衣装はなかったし。コラボレーションできたらいいですね。
◇ ◇ ◇
というわけで、玉井さんの万祝体験は無事終了しました。はたしてももクロと万祝のコラボレーションは実現するのでしょうか。そんな未来を想像できるかもしれないと考えて、記事の最初に紹介した、玉井さんが万祝を着た様子を動画で紹介します。玉井さんにはどの万祝が似合うと思いますか。
玉井さんが塗った黄色の部分以外を鈴木さんが色差ししたはんてんが完成したのは、玉井さんが訪れてから約1カ月後。どのようなはんてんができたのか。ももいろトラディショナル第2シーズン最終回をお楽しみに。【完成した万祝と対面する最終回はコチラ】

第1回 ももクロ玉井詩織 着物作りで「変な汗」
第2回 「助けて~(絶叫)」ももクロ職人技挑戦
第3回 第3回 パキッと原色 ももクロ衣装に万祝どう?
第4回 ももクロ ここ私塗ったの、すごくない?
【第1シーズン】佐々木彩夏VS越前漆器(福井県)
【第3シーズン】高城れにVS江戸切子(東京都)
【第4シーズン】有安杏果VS笠間焼(茨城県)
百田夏菜子、玉井詩織、高城れに、有安杏果、佐々木彩夏で構成されるアイドルグループ。2008年5月に結成(当時のグループ名は「ももいろクローバー」)。観客数十人の路上ライブからスタートし、国立競技場ライブや五大ドームツアーを実現した今も、大会場でのコンサートと並行して、小さな会場でのライブやユニークなイベントなども積極的に企画、ファンを驚かせ、楽しませている。
玉井詩織
1995年6月4日生まれ。神奈川県出身。2005年、小学生のときにスカウトされ、スターダストプロモーション入り。08年5月、ももいろクローバーの結成に参加。キャッチフレーズは「ももクロの若大将」。イメージカラーはイエロー。愛称は「しおりん」。
デビュー当時のコンセプトが実は「和をモチーフにしたアイドル」だった彼女たちが、日本の伝統工芸を学ぶ連載。メンバーが伝統工芸の仕事現場を訪れ、作る過程を勉強し、実際にもの作りを体験。さらにその道で頑張っている同世代の若者と夢や目標を語り合うという詰め込みすぎな企画です。第1シリーズは「ももクロVS伝統工芸/佐々木彩夏、漆器作りに挑戦」。
(写真 勝山弘一、ヘアメイク チエ、編集協力 佐々木健二=ジェイクランプ、文 大谷真幸)
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