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WBC出場か否か イチローは決めている?

スポーツライター 丹羽政善

米シンシナティで行われたレッズとのシリーズ最終日(18日)でのこと。午後5時前になって、イチローのロッカーの前にピザの箱が次々と積み上げられていった。その数はイチローの背番号と同じ51箱。

30分ほどしてやってきたイチローは、クラブハウスに入ってまず、右へ向かう。彼のロッカーは左側だ。どうしたのかと思いきや、きびすを返した。間違えたのだ。もうシリーズ4戦目なのに……。相変わらずの方向音痴ぶりだが、苦笑いしながら自分のロッカーに向かうと、ピザの山を見てのけぞるようなしぐさを見せた。ピザの箱の上に載っていた手紙に気づく。目を落として読み始めると、ややあって、破顔した。

ピザの山、送り主はレッズの主力

送り主はレッズの主力、ジョイ・ボット。なんでも2日前、イチローからまず贈り物があり、それが思わず笑ってしまうようなものだったという。何かお返しを、それもイチローが笑ってくれるようなものをと考えていると、イチローが毎日のようにある有名ピザチェーン店のチーズピザを好んで食べていると聞き、それだ、と膝を打った。これなら間違いなく笑ってくれる――。

ところが……。

「ないんだよ、そのお店がシンシナティに」とボット。「グーグルで探したら、一番近い店がケンタッキー州のルイビルって出てきた(笑)」

球場から店までの距離は約100マイル(約160キロ)。車で約1時間半の距離で、となると、もちろん配達などしてくれるはずがない。ボットは頭を抱えたが、不幸中の幸いというべきか、ルイビルにはレッズ傘下の3Aチームがある。関係者に連絡して"ドッキリ"に協力してもらった。

「そうやって手配したのが51枚のピザというわけさ」

イチローとの懇談後、ベンチで記者の質問に答える日本代表の小久保監督=共同

随分手の込んだ贈り物だが、ボットにとってはむしろ、そうやってイチローとやり取りをすること自体がうれしいようだ。

「彼のことをずっと尊敬してきた。すごい選手だと、認めざるを得ない。彼の動きから学ぶことが多かった。そんな選手とこうしてジョークを交わせることは、ラッキーだとさえ思っている」

イチローに心酔する選手、ここにも

イチローに心酔している選手がここにもいた。

ところで、その前日のこと。午後4時すぎ、「4時20~30分頃、(野球日本代表の)小久保監督とクラブハウスで会うので、外してもらえますか」という申し出が、イチロー側からあった。その前後の時間も含めて、クラブハウスでの取材を控えてくれ、というわけだ。周りに日本メディアがいては落ち着いて話ができないのではないか、というイチローの配慮。人払いまでして一体、何を語り合ったのか。

その「侍ジャパン」の小久保監督は、今月に入って日本人大リーガーの元を順に訪れていた。その理由について監督は「純粋に激励にきた」と話し、イチローに関しては「激励と3000安打のお祝いの言葉をかけるため」と説明したが、それぞれの訪問が来年3月に開かれる第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)を念頭においたものであることは明らかで、小久保監督もそれを隠そうとしない。

「正式に声を掛けさせてもらうにしても、一度も来ずに声を掛けるというよりは、しっかり一度会ってから」

ただ、各選手に出場を要請したのかどうかについては当然ながら「いろいろあるんですけれど、なかなか今の時点でお伝えできないこともある」と口を濁す。それはイチローとの会談内容に関しても同じ。詳しくは語らなかったものの、これだけは明かした。

「WBCに関しては、オフに(イチローが)帰ってきてからじっくり、日本で話をしたいなと思います」

正式に出場要請をするなら、きちんとした席で。イチローも受け入れるにしても、断るにしてもきちんとした席でということか。両者が筋を通すことになる。だが、実際のところ、イチローがWBCに復帰する可能性はあるのだろうか。イチロー自身は、小久保監督と会った日の試合後、こう話している。

「僕も本当のこと言えないです。それでいいじゃないですか」

本当のこととは何なのか。意思はすでに固まっているにしても、今はそれを明かす時期ではないということか。肯定も否定もしていないが、胸の内は決まっているようにも聞こえる。

イチロー出場のインパクト計り知れず

もちろん、小久保監督としてはイチローをメンバーに加えたい。

「誰もがそう思うでしょうけどね」

単に戦力ということにとどまらない。若い選手がイチローから学ぶことは多い。当然、刺激を受ける。同時に、興行という側面を考えれば、イチローが出場することのインパクトは計り知れない。ただ、前回のWBCに出場しなかったという時点で、自分がWBCに出場する役目を終えたと感じているようにも映る。あのとき、「2009年の第2回大会を終えた時点で、3回目の出場は考えられませんでした。今日までその気持ちが変わることはなく、こういう形になりました」と辞退の理由を明かしている。そういう流れの中で「今回は出ます」というのは、それはこれまでのイチローのスタンスを考えると、少々イメージしづらい。それでもとなるなら、イチローを動かすだけのよほどのことがない限り、実現は難しいのではないか。

イチローがWBCに出る、出ないは本人次第だ。他の日本人リーガーのように障害があるというわけではない。

例えば、岩隈久志、ダルビッシュ有、田中将大、前田健太といった先発陣は本人の意思にかかわらず、球団がストップをかけるだろう。35歳の岩隈は今季、フル回転している。チームとしては3月の開幕前の調整時期に無理をさせたくない。ダルビッシュは今年5月にトミー・ジョン手術(右肘の靱帯修復手術)から復帰したばかり。その状況でチームが出場を許可するとは思えない。田中も右肘の靱帯に爆弾を抱え、前田に関してもドジャースのチームドクターが契約前に懸念を持った。

小久保監督、どんな手でくどくのか

WBCに出れば、開幕を万全で迎えられないかもしれない――。各チームが協力に消極的なのはそうした理由からだ。投手と野手は状況が違うけれど、イチローに関してはドン・マッティングリー監督が「彼ならきっちり開幕に合わせてくるから、WBCに参加しても心配はない」と話し、「私としては本人が出たいと言うなら、構わない」と容認の方向である。

となるとあとは、小久保監督がどんな手でくどくのかということにもなる。ボットのように虚を突くような策があるのかどうか――。

ちなみにイチローの贈り物とはドーナツだったという。ボットがダブルヘッダー中に10個ものドーナツをたいらげたエピソードを聞き、ならばと大量のドーナツを贈ったところ、ピザのお返しがきたそうだ。

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