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熱対策やっかいな屋根 高反射塗料などで多層防衛

夏に涼しい家の条件(下)

日経アーキテクチュア

今年の夏も関西地方を中心に猛暑が続いた。できれば、暑さから解放されて涼しい家で過ごしたいものだが、省エネに詳しい東京大学大学院准教授の前真之氏は、「夏偏重の省エネ対策」を疑問視する。南面の日射遮蔽をやりすぎると、冬に日射取得ができなくなる。設計時の判断が重要になる。

図1 太陽の動きと日射熱の関係。夏の東西面の日射は強烈な温度上昇をもたらす一方で、冬の日射取得は期待できない。そのため、そもそも窓を減らすなどの徹底防御が基本。南面では夏は適度な庇で日射を防ぐとともに、冬はしっかり日射を取り入れるのが上策となる(資料:前真之)
図2 夏至、春分・秋分、冬至に各方位の壁に入射する日射量。東面・西面は夏至に強い日射が照りつける一方で、冬至には日射を期待できない。南面は夏至には日があまり当たらないが、冬至にかなりの日射があるので、日射遮蔽と日射取得のバランスが重要になる(資料:前真之)

今回は、住宅内への侵入熱の大物である「日射」の遮蔽について考えよう。まずは図1を見て、季節ごとの太陽の動きをよく確認したうえで、各面に当たる日射量の推移を図2で読み解いてみる。

西・東は遮蔽、南はどうする?

夏は太陽高度が高いので、日射が一番強いのは水平面、次いで東西面となる。東西面には「横殴り」で日射が入ってくるので、庇(ひさし)はあまり効果がない(図3)。

南面については、南中している時の太陽高度が高いので、実はそれほど日射を受けない。とはいえ8月、9月には6月と比べると太陽高度が下がってくるので注意は必要だが、庇で効果的に防ぐことができる。最近の家は南側に全く庇を付けない場合が多いが、やはり適度に庇は必要だろう。

冬については、太陽高度が低いので南面に日射がよく当たる。夏ばかり考えて、庇を出しすぎて日射を遮らないように注意したいところだ。逆に東西面には、あまり日が当たらなくなる。夏のペナルティーも考えると、まずは窓を付けないか、付けるにしても小さく抑えることが肝心だろう。

図3 最近の住宅では南面に全く庇がない場合をよく見かけるが(左上)、8月、9月の太陽高度が低くなる時期には大量に日射が侵入するので内カーテンでは防げない(右上)。横からの強烈な西日は樹木程度では防ぎきれない場合が多く(下)、きちんとした外部での遮蔽が必須となる(資料:前真之)

日射遮蔽は「後付け上等」

前述のように南面が受ける日射は「夏ほどほど・冬たっぷり」がいい。夏の太陽は冷房の大敵だが、冬の太陽は最高の友達である。季節によってうまく付き合いたい。

夏の敵ばかりを気にした深すぎる庇は、冬は障害となる。始めから構え過ぎずに、季節によって調整できる手法も活用したい。

昔からあるスダレは季節の切り替えが容易で、窓の外側でガードするので日射遮蔽効果が大きく、おまけに安価。まさに理想的な日射遮蔽手段である。最高の日射遮蔽手法は、スダレをぶら下げる「フック」だけを用意しておくことかもしれないのだ。

図4 相当外気温度のSATは「Sol-Air Temperature」の略。外壁などが日射を受ける場合、日射の強さに応じて外気温が上昇すると仮定した温度を意味する(資料:前真之)

窓の日射遮蔽は「後付け上等」だが、実はやっかいなのは「屋根」。前述のように、夏は太陽高度が高いので、直上から容赦なく日射が降り注ぐ。一番日射を受けるのは屋根面なのだ。

まずトップライトを安易に付けないのは基本中の基本。しかし、夏の強烈な日射は窓がなくても室内に押し寄せてくることを忘れてはならない。

日射熱の加熱効果(および夜間放射による冷却効果)を気温上昇にプラスしたものを、専門的には「相当外気温度(SAT温度)」と呼ぶ(図4)。このSAT 温度は、屋根材の日射吸収率が大きいほど高温になる。

2014年に東京が一番暑かった8月5日、正午の気温は34.3℃であった。同じ時刻のSAT温度を計算してみると、コンクリート並みの日射吸収率80%では実に63.9℃にまで上昇する(図5)。屋根に60℃を超えた超高温の空気が接しているのと同じことになる。

図5 直上から迫り来る日射熱は屋根を越えて押し寄せる。SAT温度は、日射吸収率が80%(コンクリート)、60%(和瓦)、40%(金属板)、20%(高反射塗料)の4 通り、長波放射率が共通で90%としている(資料:前真之)
図6 沖縄のコンクリート造の場合。コンクリートの日射吸収率は80%程度と高く、屋根面が高温になる。その屋根が吸収した熱が大量に室内へ流入するため天井温度が異常に高い(資料:前真之)

屋根の熱対策を怠ると、屋根表面温度が上昇し、熱が室内に大量に流入してくることになる(図6)。温暖地以南では、屋根面の熱対策は抜かりなく行っておきたい。

屋根は防衛ラインを重ねる

屋根からの強力な熱侵入を防ぐには、何層もの防衛ラインを積み重ねて対処することになる(図7)。

まずは屋根面の日射吸収率を下げるとともに長波放射率を上げて、SAT温度を下げるのが有効だ。最近よく見かける高反射塗料は、SAT温度の低下に最適化された塗料である。日射熱を宇宙に弾き返すので、ヒートアイランド対策にも効く。ただし汚れると効果がなくなるし、反射による「光害」にもご用心。

次に瓦やベンチレーションブロックにより屋根下地との間に通気層を設け、熱くなった空気を速やかに排出することで、伝導・対流による熱移動を減らすことができる。通気層の下側に遮熱層を設けることで、放射による熱移動もカットできる。

図7 屋根の防衛ラインは夏は4重、冬は1重。夏の日射熱防止は、様々な手法を重ねることができる。しかしその多くは夏専用であり、冬にも有効なのは「断熱」だけ。年間を通して活躍する唯一の防衛ラインとして、しっかりと屋根は断熱しておきたい(資料:前真之)

ただし、これらの「反射」「通気」「遮熱」は、いずれも夏専用の対策だ。寒冷な冬における室内からの熱の流出防止には効果がないどころか、むしろ熱ロスを増やして逆効果になる場合も多い。

夏にも冬にも効果があるのは、最終防衛ラインの「断熱」しかない。夏専用の対策に頼りすぎず、屋根にはしっかり断熱材を入れておきたい。

開放性高める「断熱・気密」

では、前回も含めて解説した内容を簡単にまとめておこう。

・夏の通風偏重でむやみに吹き抜け・大空間を設けると、夏の冷房・冬の暖房で困る。

・内部発熱の削減は節電にも有効。照明LEDもお薦め。

・日射遮蔽は東西面では重要。ただし後付けでも十分対応可能。

・南面の日射遮蔽をやりすぎると、冬に日射取得ができなくなる。

・屋根の日射熱カットは様々な手法を利用できるが、冬にも有効なのは断熱だけ。

結局、夏のことだけ考えてはダメで、冬とのバランスが大事なことが分かる。それでは、「夏旨(なつむね)」の開放的なプランは、諦めないとダメなのだろうか。

吹き抜け・大開口を設けた開放的なプランにおいて、快適・省エネに冷暖房を行うことは不可能ではない。

ただしそれには、建物性能がしっかりしていること、つまり断熱・気密の徹底が不可欠。夏冬共通の対策である断熱・気密をしっかりとることで、安心して夏旨の開放的プランを採用することができるのだ。

前真之(まえ・まさゆき) 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻准教授。博士(工学)。1975年生まれ。1998年東京大学工学部建築学科卒業。2003年東京大学大学院博士課程修了、2004年建築研究所などを経て、2004年10月、東京大学大学院工学系研究科客員助教授に就任。2008年から現職。空調・通風・給湯・自然光利用など幅広く研究テーマとし、真のエコハウスの姿を追い求めている。

(書籍『エコハウスのウソ[増補改訂版]』の記事を再構成)

[参考]日経BP社は2016年10月14日、「実証データで明かす 本当のエコハウス」と題したセミナーを開催する。本記事を執筆した、建築環境の専門家である東京大学大学院准教授の前真之氏が講師を務める。詳細は、http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/atcl/books/14/505058/072700004/

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