体操男子・ベルニャエフ 採点「フェア」強く潔く
歴史的な王者交代劇まであとわずかだった。銀のベルニャエフ(22、ウクライナ)は「少しがっかりしている。金が近かったから。でも、これが結果だ」。
予選1位の勢いそのままに、高難度の演技構成で15点台を連発した。ミスが許されない状況での好演技には、タフな境遇で培われた心身の強さが投影されていた。
ウクライナ政府と親ロシア派勢力による紛争で、中心地となった東部ドネツクの出身。疲弊した国から支援はほとんど受けられない。かつての代表仲間は好待遇の誘いを受けてロシアなどに国籍を変えたのに、自身は母国を背負う道を選んだ。
1点近いリードを手に迎えた最後の鉄棒。勝利を確信したかのような雄たけびを上げたが、着地が1歩動いた分だけ点数が伸びなかった。場内はブーイングも起きた。
試合後の記者会見。隣の内村に対して「あなたは審判から好意的に見られていると思うか」と質問が飛んだ。鉄棒の採点について聞いているのは明らかだった。
これに不快感を示したのはベルニャエフだ。「採点はフェアだと選手みんなが分かっている。無駄な質問だ」。潔い態度に拍手が起きた。
悔しさのにじむ表情が笑顔に変わったのは、内村から「次はもう勝てない」と言われた時。「恥ずかしいくらいうれしい。でも彼は絶対にそんなこと思っていないはずだよ」。良き敗者がいてこその名勝負だった。
(山口大介)